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「30年後、みなさんの会社はありますか」 (2016/11/7 東北復興新聞

東北が企業研修で問いかけるリーダーシップとは

東北では震災後、地域課題を解決する様々なプロジェクトが立ち上がり、それを主導するリーダーが数多く誕生している。そのノウハウやリーダーシップを学ぼうと、全国の企業が社員研修のフィールドとして東北を訪れる機会が後を絶たない。人口減少や産業の衰退が震災で加速した「課題先進地」といわれるこの地に、なぜ企業は熱い視線を向けるのか。オフィス家具などを製造・販売する岡村製作所(本社=横浜市)が次世代のリーダー候補育成を目的に実施したツアーに同行し、その意義を考えた。

「新たな価値観や発想を生んでほしい」

「30年後、みなさんの会社はありますか」――。研修ツアーのファシリテーターを務めた一般社団法人Bridge For Fukushima(ブリッジ・フォー・フクシマ)の伴場賢一 理事長は開口一番、こう問いかけた。移動中のバスの車内に一瞬、張り詰めた空気が押し寄せる。「明日何が起こるかわからない」。そのことを身をもって体験した当事者からの問題提起に、意表を突かれた様子だった。

講義を踏まえ「リーダーシップ」について白熱した議論が繰り広げられた。

講義を踏まえ「リーダーシップ」について白熱した議論が繰り広げられた。

「逆境を乗り越える、変化に立ち向かうリーダーシップ」と題した今回の研修は、10月5~6日に宮城県名取市と福島県相馬市、南相馬市を回り、現地で活躍する4人のリーダーシップを学ぶ内容だ。参加したのは30代の中堅社員10人で、各部署から推薦された経営幹部候補だ。同社は現在、次世代リーダーの育成に力を入れている。そのための研修を過去2回にわたって実施してきたが、今回のようにフィールドワーク(現場研修)を取り入れるのは初めてという。さらに東北を選んだ理由について、人事部の担当者は「これまでの机上の議論だけではどうしても殻を打ち破れない。いつもと全く異なる環境で、普段使っていない感性を磨く。そうすることで、新たな価値観や発想を生んでほしかった」と狙いを語る。

逆境を乗り越えた4人のリーダーシップ

最初に向かった先は名取市閖上地区、水産加工会社センシン食品の高橋永真 社長を訪ねた。福島県相馬市の工場が被災し、一時は廃業も考えた。しかし、僅か1年後に再建に本格的に着手。震災前の取引先は失ったが、新たにSNSを駆使してネット通販に乗り出すなど、手法を変えながら事業をなんとか軌道に乗せている。

原発事故後の苦境を語る若松味噌醤油店の若松さん(左から2番目)の説明に、参加社員は熱心に耳を傾けていた。

原発事故後の苦境を語る若松味噌醤油店の若松さん(左から2番目)の説明に、参加社員は熱心に耳を傾けていた。

福島県では、若松味噌醤油店(相馬市)の若松真哉 専務、小高ワーカーズベース(南相馬市)の和田智行 代表、Bridge For Fukushimaの加藤裕介さんの3人のリーダーと面会した。若松さんは、いち早く放射能検査を実施するなど風評被害対策を講じた。震災後は顧客の流失によって売上げが7割ほどにまで落ち込んだが、「座して死を見るよりも、勝負に打って出るしかなかった」と新たにEC販売や小口サイズの商品開発を手掛けるなどし、売上げは現在、震災前の1割増のペースで拡大している。

一方、南相馬市で原発事故による避難指示が解除される前からコミュニティスペースの運営などを手掛けてきた和田さん。人が住まない場所でビジネスを生み出すことに周囲から反対や疑問があったというが、「事業をつくれば人が入り、経済に血が回りはじめると考えた」と逆転の発想が重要だと指摘した。

また、NPO法人ETICの右腕派遣プロジェクトで代表の伴場さんをサポートする加藤さんは、形式上のリーダーでなくても、「右腕」としてトップを支えるリーダー論を説いた。参加した社員は、それぞれのリーダーの固有の考え方やアプローチに感心した様子で、積極的に質問を投げかけたり、熱心にメモを取る姿が随所で見られた。

「創造的復興」の現場に眠るヒント

2日間のツアーは、4人の講義を踏まえて社員自身がそれぞれのリーダーシップ論を発表する場面でクライマックスを迎える。社員は2つのグループに分かれて「リーダーとはどうあるべきか」とディスカッションを繰り広げ、最後に1人ずつ「自分はこういうリーダーになる」という目標を発表した。ある社員は、「私は決して課題解決に向かって突き進むようなタイプではない。でも、そういう人材を育てることはできる。周囲をうまく巻き込みながらリーダーシップを発揮できればいい」と力強く語った。また、別の社員からは「特にプラス思考の大切さを痛感した。例えばTVCMを放映して企業ブランドをアピールするなど、新しい事業にチャレンジしてみたい」と意欲的な声が聞かれた。

ディスカッションと発表の様子を見守っていた伴場さんも、自身のリーダー論に言及。まず「リーダーは育成できる。決して生まれ持った本質だけではない」と持論を述べたうえで、「日頃からどういう視点で行動し、人と接しているのか。その小さな積み重ねが大事なのではないか」と日々の意識付けの重要性を指摘した。

ファシリテーターの伴場さん(左上)とともに記念撮影する社員たち。晴れやかな表情を浮かべている。

ファシリテーターの伴場さん(左上)とともに記念撮影する社員たち。晴れやかな表情を浮かべている。

一方、岡村製作所の人事部担当者は、会社の将来を見据えると「早いうちからリーダーを育てていく必要がある」と課題を抱えていたという。今回の研修を通して「(社員の)顔つきが変わった」と手応えを示すと、参加した社員には「役職に就けば自分のやりたいことを実現できる。岡村製作所をどうしたいかという気持ちを常に持ち続けてもらいたい」と期待を口にした。同社は、11月にも東北でリーダー育成のための研修ツアーを行うことが決定しており、東北で学び意義を強く感じている。

東北を社員研修の場として利用する動きは他の企業でも広がっており、特に大手企業の関心が高いようにみえる。本格的な人口減少社会に突入した日本で、企業は今後どのようにして新たな価値や需要を生み出していくのか。そして、それを支える次世代のリーダーをどのように育成していくのか。新たな社会のあり方を見据えて「創造的復興」に挑む東北には、そのカギとなる小さな芽が数多く眠っているはずだ。

提供:東北復興新聞

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