東京23区自転車シェアリング事業のビジネスモデルと課題―伊藤陽平 新宿区議  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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東京23区自転車シェアリング事業のビジネスモデルと課題―伊藤陽平 新宿区議 (2016/10/23 政治山)

 2016年2月から千代田区・中央区・江東区・港区の隣接する4区が自転車シェアリングの相互乗り入れを開始し、同年10月から新宿区も新たに加わりました。自転車シェアリングは広域型の公民連携事業として期待されています。本事業の今後の課題について21歳でIT企業を創業した起業家の肩書きを持ち、最年少で新宿区議会議員選挙(当時27歳)に当選した伊藤陽平区議にご寄稿いただきました。

新宿区が参入し5区の相互乗り入れが可能に

 東京都新宿区は、10月1日より自転車シェアリング事業を開始しました。区内にサイクルポートが設置され、24時間、電動アシストつき自転車を借りることができます。また、どこのサイクルポートでも自転車を返却することが可能です。

新宿区内にあるサイクルポート(自転車の貸し出し、返却拠点)

新宿区内にあるサイクルポート(自転車の貸し出し、返却拠点)

 すでに千代田区、中央区、港区、江東区では導入されている事業で、新宿区を含めたこの5つの区を横断して利用することができます。私も一度利用してみましたが、電動アシストつき自転車があれば、急な坂でもスイスイ移動できて大変快適でした。実際に住民からの反応も良く、東京オリンピック・パラリンピックに向けて注目を集める事業の一つですが、これから議論しなければならない課題もあります。

赤字運営から収益を上げるビジネルモデルへ

 新宿区の場合は、GPS機能のついた電動アシストつき自転車300台の導入で約5,200万円、サイクルポートを20カ所で設置するために、ラックや設備関係の機器の導入で約1,200万円のコストが発生します。

 自転車側で貸し出しや返却の管理をするため、機械式ラックが不要となり30%のコストダウンにつなげる工夫をしています。

会員登録後、端末にICカードや携帯電話をかざして利用可能

会員登録後、端末にICカードや携帯電話をかざして利用可能

 自転車の移動やバッテリーを充電するため、また24時間の電話対応など、人手が必要になります。こうしたランニングコストに関しては、公費負担ではなく事業者負担となります。

 自転車シェアリング事業は、行政が機会を提供し、民間のノウハウや資金を活用した公民連携ビジネスモデルの一種です。現在は赤字の状態で事業が運営されていますが、今後も継続的なサービス提供ができるようにするためには、事業者が安定的に収益をあげることができるビジネスモデルが不可欠です。

 例えば、自転車に広告を掲載する取り組みが行われています。自転車の後部には、企業の広告や、行政による広告などが掲載されていました。

自転車の後輪に広告を掲載

自転車の後輪に広告を掲載

 そして、黒字化達成に最も大きく関わってくるのは、やはり利用料です。

 利用可能エリアが広域になれば稼働率が高まるという前提で収支の改善を見込んでいますが、複数の区を横断できるようになることで、稼働率は区単体で運営されていた時の倍近くに上昇しています。今後もさらなるエリア拡大が事業成長のためには必要になると考えられています。

 現在の5区に加え、近隣自治体でも事業の検討が進んでいるため、今後の展開も注視していくべきです。

新たな放置自転車問題や交通ルールの普及啓発の必要性

 実際に区民の方からも様々なご意見をいただきました。例えば、「台数が少なくていつも使えません。」というご意見もありましたが、台数を確保するためにはまず事業の収益化につながることが必要ではないかと思います。

サイクルポートマップの看板を設置

サイクルポートマップの看板を設置

 また、貸し出した自転車が許可された場所以外に駐輪されることで、いわゆる放置自転車の問題が生じる場合もあります。借りる場所に関してはインターネットで確認することができても、返却場所の空き状況はわかりません。実際に私が体験した話ですが、ラックが全て埋まっているため返却できなかったことがありました。ラックが埋まっている場合は近くに自転車を駐輪すれば大丈夫ということになっていますが、そうするとラック以外の場所に自転車が散乱することになります。

 また、自転車を借りて目的地に行こうとしても、その近くにサイクルポートや駐輪場があるとは限りませんので、これも放置自転車になるリスクがあります。

 そして、東京オリンピック・パラリンピックを見据え、外国人観光客の利用を想定していますが、日本人でもまともに理解をしていない状況で、外国人観光客にもルールを周知することは非常に高いハードルがあります。

NPO法人による斬新なシェアサイクルビジネスモデル

 大阪ではNPO法人が主体となり独自性のある自転車シェアリング事業が展開されています。生活困窮者への就労支援、生活支援を行うNPO法人Homedoorにより、「Hubchari(ハブチャリ)」という自転車シェアリング事業が展開されています。

 Hubchariのホームページを一目見ても気がつかないかもしれませんが、路上生活をされている方が運営において活躍しています。実は、路上生活をされている方にとって、自転車は必需品です。しかし、修理代が払えないため、自分で自転車を修理している方がたくさんいらっしゃいます。そのスキルを活かしながら、放置自転車の問題を解決しようと考え生まれたのがHubchariです。Hubchariは中間的労働の場となり、そこで仕事をした55%の方が次の仕事を見つけています(2016年3月時点)。

 Hubchariは、ノキサキ貢献という仕組みを採用し、民間企業や行政と提携することでサイクルポートの設置を行っています。私も大阪に行った際にHubchariを見かけましたが、自転車置き場としてホテルの入り口のスペースが活用されていました。Hubchariのような、民間が主体となり社会的な課題を解決するビジネスモデルが登場していますが、行政も斬新な事例を理解し受け入れていくことが大切です。

来街者の利便性を高めるために検討すべき政策とは

 自転車シェアリング事業は可能性のある事業です。

 これから行政や議会は、市場のニーズを把握していくことが重要になります。また、新宿区では補助金が今後3年間活用できるため、今後もサイクルポートや自転車の台数を整備していくと発表されています。GPSによりこれから様々な情報がデータとして分析されていくことになりますが、まだ自転車シェアリング事業の需要、価格設定等については今後も検証が必要です。

 また自転車シェアリングは確かにエコロジーな事業であり、交通渋滞の解消など将来的な可能性があります。しかし、新宿区内ではどこにいても歩いて電車やバスにアクセスが可能です。身軽でスピーディに移動することができて、放置自転車も問題になりません。既存の移動手段の課題を改めて分析する必要もあるでしょう。

 また、外国人観光客の利便性を考慮するのであれば、公費投入により自転車シェアリング事業を行うことよりも、まずは外国人にとっても利便性の高いUberなどのサービスを研究し参入を認めていくことが必要です。

 自転車シェアリング事業は、まだ始まったばかりのサービスで、これからたくさんの課題に直面することになります。利用者の声、あるいは納税者としての声によりサービスの未来が決定すると言っても過言ではありません。

 ぜひ、一度サービスをご利用いただき、自治体やお近くの議員へご意見を届けてみてください。

伊藤陽平 新宿区議会議員

著者プロフィール
伊藤陽平(いとう ようへい) 新宿区議会議員

1987年12月22日生まれ。立教大学経済学部経済政策学科卒。大学在学中にIT企業を立ち上げる。デジタルネイティブ世代としての若さとIT業界での実務経験を活かし、テクノロジーで政治の未来を変えることを目指す。2015年の統一地方選挙で現職最年少の新宿区議会議員として当選し、現在に至る。365日ブログで情報発信中のブロガー議員。
WebサイトTwitter
伊藤陽平氏プロフィールページ

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