山陽自動車道トンネル事故で会社役員を起訴、「過労運転下命」とは (2016/10/11 企業法務ナビ)
はじめに
今年3月、東広島市の山陽自動車道トンネルで起きたトラック追突による死亡事故で運転手に過労運転をさせていたとして運送会社「ツカサ運輸」(埼玉県川口市)の役員及び法人としての会社の初公判が5日、広島地裁で開かれました。運転手だけでなく運行管理している会社や役員等も罰せられる過労運転について見ていきます。
事件の概要
今年3月、東広島市にある山陽自動車道八本松トンネルの下り線で渋滞中の車の列にトラックが突っ込み、乗用車等11が巻き込まれ、そのうち5台が炎上しました。この事故で2人が死亡し、トラックを運転していた「ゴーイチマルエキスライン」の社員皆見成導被告(33)が自動車運転処罰法違反で逮捕・起訴されました。皆見被告は慢性的な睡眠不足状態で事故を起こす危険性を認識していたにもかかわらず運転を続けていたとして懲役4年の実刑判決が確定しております。
同判決で裁判所は「責任は勤務会社にもある」と指摘し、広島地検は同社及び運行管理を行っていた役員の後藤隆司被告(42)を過労運転を指示していたとして道路交通法違反の容疑で逮捕・起訴しました。起訴状によりますと、別の社員に対しても労使協定に反して1日8時間を超える時間外労働を行わせ、2週間に1日の休日も与えていなかったとしています。なお「ゴーイチマルエキスライン」はその後社名を「ツカサ運輸」と変更しております。
過労運転とは
道路交通法66条によりますと、「過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転が出来ないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。」としています。飲酒・酒気帯び運転が許されないことは常識ですが(65条)それ以外にも正常な運転ができない体調での運転が禁止されております。違反した場合は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金となり、違反点数は25点で一発免停となります。ではどのような場合に「過労」となるのでしょうか。厚労省告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」によりますと以下ような基準が設けられております。
(1)運転手の拘束時間が1ヶ月293時間(労使協定で320時間まで延長可)まで
(2)1日の拘束時間が13時間(労使協定で16時間まで延長可)まで
(3)勤務終了後8時間以上の継続した休息を与えなければならない
(4)運転時間が2日平均で1日あたり9時間、2週間平均で1週間あたり44時間を超えない
これに違反している場合には過労運転であると認定される可能性が高いと言えます。この基準はあくまでも過労運転該当性の認定の基準の一つに過ぎませんが、裁判所は原則としてこの基準を重視しているように思われます。
過労運転下命とは
75条1項によりますと「使用者は・・・自動車の運転者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることを命じ、又は・・・容認してはならない。」としています。そして同4号では上記過労運転が挙げられております。これに違反した場合は過労運転と同様に3年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっております。過労運転を行った運転者だけでなく、過労状態にあるにもかかわらず運転を命じ、または運転しているのを容認した使用者にも同様の責任を負わせる規定となっております。
コメント
本件で検察側は運行管理を行っていた後藤被告に1年6月の懲役、法人としての同社に50万円の罰金を求刑しております。1日の時間外労働が8時間を超え、ほとんど休暇が与えられていなかった皆見被告は当時「正常な運転が出来ないおそれがある状態」であったと言えます。そしてそのような過労状態であったことを知りつつ運行指示を行っていた両被告には危険運転下命に該当することなると言えるでしょう。
本件は上記基準に明らかに違反しており要件該当性がわかりやすい事例と言えますが、過労状態の認定が微妙な事例では、運転者や家族の供述、現場や家庭での様子、産業医の診断等様々の要素を加味して「正常な運転が出来ないおそれがある状態」であったかを判断していると言えます。そして運行管理者は運転手のそういった状態を知るべき立場にあると判断されているようです。本罪はあくまで過労運転を行った場合であって、それにより事故を起こした場合は別途自動車運転処罰法等の罰則が加わります。
また使用していた会社側にも別途、労働基準法違反による罰則や行政処分、民事上の賠償責任、そして信用失墜という社会的制裁が生じることになります。旅客運送、貨物運送業者はコスト面から運転者に無理な業務をさせてしまう傾向にありますが、過労運転による損失は相当重いものと言えます。自動車を運転する従業員の労務管理については、この点も注意して見直すことが重要と言えるでしょう
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