JASRACに排除措置命令確定、私的独占とは (2016/09/16 企業法務ナビ)
はじめに
音楽の著作権を管理するJASRACに対し公正取引委員会が出していた排除措置命令を巡る審判で14日、JASRAC側が審判請求を取り下げていたことがわかりました。これによりJASRACに対する排除措置命令が確定することになります。JASRACが放送事業者と結んでいる「包括的利用許諾契約」が独禁法上の私的独占に当たるとされております。今回は私的独占について概観します。
事件の概要
日本音楽著作権協会(JASRAC)は著作権者から音楽著作権の管理委託を受け、放送事業者等に楽曲の使用許諾をすることによって使用料を徴収し、著作権者に分配する事業を営んでいます。JASRACは放送事業者と使用許諾契約を締結する際、実際の楽曲の使用の有無や回数ではなく、放送事業者の放送収入に一定率を乗じた額を使用料として納入する「包括徴収システム」を導入しております。これにより放送事業者は楽曲の使用ごとに使用料を支払う必要はなく、事由に何度でも楽曲を放送に使用することができます。
JASRACはほぼ全ての放送事業者と契約を締結しており、他の事業者が管理する楽曲を使用すると新たに使用料負担が増えることから、他の事業者の新規参入を排除することになるとして公取委は2009年に排除措置命令を出しました。JASRAC側の不服申立てにより一度は取り消されましたが、著作権管理会社「イーライセンス」の提起した審決取消訴訟で最高裁は再審査を求めていました。
私的独占とは
独禁法2条5項によりますと、「事業者が、・・・他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ことを私的独占といい3条によって禁止されております。条文にあるように事業者を「排除」または「支配」することによって市場を支配し公正な競争秩序に反する行為で一般に「排除型私的独占」と「支配型私的独占」分かれます。以前は支配型私的独占にのみ課徴金が課され、排除型私的独占には排除措置命令のみが適用されてきました。しかし平成21年独禁法改正により排除型私的独占にも課徴金が課されることになりました(7条の2第4項)。
行為要件
(1)排除型私的独占
排除型私的独占の行為要件である「他の事業者の事業活動を排除」することとは公取委のガイドラインによりますと、他の事業者の事業活動の継続を困難にさせたり、新規参入者の事業活動させたりする行為であって、一定の取引分野における競争を実質的に制限することにつながる様々な行為を言うとしています。排他条件付取引や不当廉売等の不公正な取引方法に該当する行為は基本的に該当することになりますが、それ以外でもあらゆる行為が該当し得ることになります。
(2)支配型私的独占
支配型私的独占の行為要件の「他の事業者を・・・支配する」とは、言葉通り他の事業者の価格や数量、販売地域等の事業活動を自己の意思に従わせる行為を言いますが、株式取得や役員派遣等を通じて一般的に事業活動を支配する行為も含まれます。株式取得の場合は私的独占以前に企業結合規制に該当し得ることから、まずはそちらを検討することになると思われます。それ以外の場合は一般的に相手事業者の意思に反して事業活動の意思決定に対して干渉や拘束を行うことで該当することになります。
実質要件
上記行為要件に該当したら次に問題となるのが実質要件です。「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ことになるかを検討することになります。「一定の取引分野」とは一般に市場を指します。市場は需要者から見た代替性の見地から画定することになりますが、要するに当該行為によって影響を受ける取引の対象や地理的範囲を指します。「競争を実質的に制限する」とは市場支配力の形成を言います。
市場における価格や流通量、品質等をある程度事由に決定することができるようになれば市場支配力が形成されたと評価できます。市場における事業者の地位や競争の状況、潜在的競争圧力、需要者からの圧力等を総合的に評価して判断することになります。この実質要件は談合やカルテルといった不当な取引制限の場合と基本的の同じです。
コメント
本件でJASRACは「包括徴収システム」を導入し、ほぼ全ての放送事業者と契約をしています。これによりJASRACに支払う使用料は楽曲の使用数とは無関係となることから他の管理事業者の楽曲を使用した場合、使用料の負担が増加することになり、放送事業者に他の管理事業者の楽曲の使用を躊躇わせる効果が生じると言えます。それにより他の事業者の音楽著作権管理委託業への参入を困難にさせていることになり排除型私的独占の行為要件に該当すると言えます。
また音楽著作権管理委託業という市場においてJASRACが占めるシェアは相当高く楽曲使用料等をある程度事由に決定できる状況にあると評価できます。公取委の私的独占ガイドラインによりますと、事業者の市場におけるシェアがおおむね2分の1を超え、国民生活に与える影響が大きい事案を優先的に審査するとしています。不当廉売や排他条件付取引等の行為を行っていなくても、市場において2分の1を超えるシェアを有する事業者であれば、あらゆる行為が排除型私的独占に当たり得ることになります。新たな市場を開拓し、シェア2分の1を超えるようなベンチャー企業等はこの点慎重な検討が必要と言えるでしょう。
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