はじまりは「差別をしていた自分に気づくこと」―NPO法人もやいが語るホームレス支援 (2016/7/29 70seeds)
夜遅くに帰ると決まって腕を組んで駅構内で寝ていたホームレスのおじいさんがいる。
白髪でやぶけたズボンとスニーカーを履き、布団代わりの段ボールもなく、足を引きずるように歩いていた。温度が上がった今は公園のベンチで寝るようになったが、しばらく見ない日が続いたとき、ふと何かあったのではないかと不安になった。汚い・酸っぱい匂いがする。ホームレスへのイメージ像はネガティブなものが多いだろう。
ただ、どうしてもそのおじいさんを他人事だと割り切れず、ホームレス支援の現状と課題を認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長の大西連さんに伺った。
ホームレスのおじさんと手が触れてとっさに手を引っ込めた。
――大西さんはどうして「もやい」に参加されたんでしょうか?
2011年ぐらいに新宿の炊き出しに参加したのがきっかけでした。すごくホームレスに問題があったから参加したというよりは、社会見学的な気持ちで参加したんですよ。ちょうどリーマンショックの後だったので、よくニュースで取り上げられていた問題でした。
日本にも貧困はあるんだなぁってぐらいの認識で友人に誘われて、実際に参加したけど、実際に並んでいた人たちと自分が思っていたホームレス像に隔たりがあったから驚いたんですよ。それが直接的なきっかけですね。
――驚いたこととはなんでしょうか?
ホームレスというと駅で見かける人たちを想像するじゃないですか。でもそれって一部の人たちで、炊き出しに並んでいたのは女性の方だったり高齢の方だったり若い男性だったり障害をもっている人車いすを使っていたり。自分は勝手にホームレス像を作り上げていたんだなぁってことにショックを受けました。
あと、もう一つ大きくショックを受けたのが、配膳時にホームレスのおじさんと手が触れちゃったんですよ。そしたら、とっさに手を引っ込めたんですよ、僕が。触れたことに拒絶反応を示しちゃったんです。それが心の中にずっと残っていて、なんでとっさに引っ込めたんだろうなぁ、って。
結局自分の中で無意識に差別をしていたこともショックでした。
――なるほど。無意識のうちに差別をしてしまっていたことに、自身もショックを受けられたんですね。
そうです。自分では差別する意識はなかったのに。だから、また行こう、ってなりました。それで何回もいくうちに人間関係も出来てくるようになり、もやいに深くコミットするようになりました。
――さきほど、女性や高齢の方もいる、と言っていましたが、今のホームレスを取り巻く状況はどうなんでしょうか。
2000年に東京都が自立支援センターを作ったんです。住所もそこにおけて、ご飯も提供しますから、一定期間内に仕事を見つけて出てくださいね、ってサポートですね。それとその後、もやいが家を借りる際の連帯保証人になりますよ、ってサポートをするようになったんです。
そうすると、働けるけれども、景気の悪化により仕事をなくしホームレスになっていた人たちはサポートの効果が出て、社会復帰しやすくなったんです。逆に言うと今ホームレスになっているのは従来のサポートからもこぼれ落ちてしまった人たちなんです。とある調査によると、6割の方が精神や知的障害を持っているとの報告があります。
――そうすると数の上ではホームレスの数は減っているけれども、当初とは違う問題に突き当たっていると言えそうですよね。
そうですね。実際国のホームレスの定義って限定的ですが、駅や河川や公園で寝泊まりしているのは全国で6500人ぐらいなんですよ。先進国の中ではかなり少ないんです。新宿には確かに300人いますけれど、それでも300人です。彼/彼女たちは先述するように、理解力がそこまで高くない場合もあるので、「(東京都の)シェルター入りましょうよ」と誘っても「いや、いい」と言われると打つ手がなくなりますよね。
一方で、「シェルター」内も受けられるサービスの質は高くありません。複数人部屋が圧倒的で、精神障害があると同室の人が気になって寝れないだとか、知的障害があるとお金をせびられて怖くなっちゃって出て行っちゃうとか。出ていくと、自己責任で出て行ったんだろうって役所の人に判断されるわけですから、本人も嫌な経験だったり怖い経験をしているところに戻りたくないと言うし、支援の質が不十分なことによって路上に留まってる人も居ます。
「就労」が厳しい人たちが取り残されている
――住むところを提供するだけで解決するようなシンプルな問題じゃなさそうですね。
そうですね。日本のホームレス支援は「就労」をしてもらうことが目的なんですが、ただ、今路上に残っている人たちは「就労」が難しい人たちなんです。医療と手を組んでより深いサポートが求められていますね。
――ホームレスの数が圧倒的に少ないとおっしゃっていましたが、他の国々の支援はいかがでしょうか?
ヨーロッパやアメリカでは難民の問題や言語・宗教が違う、ドラッグや依存問題もありますので、提供できる支援方法の種類は豊富ですね。そして、住居をまずは最初に提供しようとする方向へ傾いています。
――「もやい」としてはその流れをどう見ていますか?
「もやい」ももともとは、家を借りる際の連帯保証人としてスタートしたので、住居をまず最初に提供しようとする考えとは根本が一緒だと思います。「シェルター」はあくまでも一時的な場所で、住居といえるものではないんです。「シェルター」にいる間に仕事が見つかって自立することができる、に越したことはないけれど、それができない人もいる、という事実に対してきちんと向き合う必要があるんです。就労だけがゴールじゃなくて、生活保護を利用してアパートで生活していても立派な自立だよね、となるように意識を変える必要があると思います。
――「生活保護」という単語が出ましたけど、「生活保護」に関しては世間の批判が一時期凄かったですが、どのように考えていましたか?
そうですね、自己責任との絡みだと思いますが。
ホームレスは住居だけじゃなくて、経済的な部分と人間関係の両方を失っているからホームレスの状態で留まらざるをえないんですが、その過程のなかで自己責任に見えない人は居ないんです。
なんであのとき離婚したの?なんで転職先を探さなかったの?なんであのときはこうしなかったの?って言われるけれども、その時々の選択肢の即決が今の状態につながっているんですから。それで「自己責任だ」と批判をされても、答える側としてはどうしようもないわけですよね。
――確かに。振り返ってみてベストな選択を常にとれていたら今ここにいないわけですし、ベストな選択だけをし続けられるわけでもありませんよね。
はい。ただ自分は一生懸命働いていて少ない手取りの中から税金を払っている、一方で働かないで生活保護を利用している人がいると、ものを言いたくなる気持ちもわからなくはないですよ(笑)。
――そうなんですね(笑)。制度としてもどう思いますか?
制度としても難しさを加速させている要因として、困窮した時に使える制度が生活保護ぐらいしかない、というのはあります。生活保護というのは東京だと支給の目安が約13万なんですけど、収入がゼロになっても貯金が100万あると使えないんですよね。でも貯金が減っているのを黙ってみるのも不安でしょう。頼れるものは生活保護しかないのに、生活保護の線引きがえらく複雑なんです。
さらに線引きのわかりやすい例だと、例えば親の年収が200万円以下の子だけ給食が無料になると、210万の家庭は現実的には年収が全然変わらないのに、負担しなきゃいけなくなる。用件を決めて線が引かれるとその周りの人たちは不公平を感じちゃうんです。
――もやいとしてはその点にどのような活動をしていますか?
段階的に低所得向けの色んな制度をつくるべきだと国に提言しています。
日本では、ホームレスの数はわずか6000人と少ないのですが、低所得で抜け出せないままのグレーゾーンの人たちが多いんです。その意味でも必要だと思いますね。
6人に1人は貧困
――グレーゾーンの人たちですか?
そうです。例えば、一時期「ネットカフェ難民」という言葉が流行りましたけど、ネットカフェで寝ることはできるけれど家を借りれないとか。高校までは頑張っていかせるけれど、大学には行かせられない家庭とか、生きてはいけるけれども選択肢が少ない状態ですね。
あとは外国人の2世や3世、養護施設出身の若者もセーフティネットとしての家庭が機能しないため、選択肢が少ない状態に陥りやすい。
今年収200万円以下の人は1千万人以上いて、貧困率は16.1%。6人に1人は、生きていけるけれども選択肢が少ない相対的貧困なんです。
――6人に1人ですか・・・。なかなか衝撃的な数字ですね。
日本の場合は、誰が貧困なのかわからない、非常に見えづらいんですよ。でも、大学を卒業しても2、3割は非正規なんですよ。日本にスラムはないけれども代わりに色んな地域に混在しているんです。
貧困率16.1%だったら、自分の身近なところに貧困状態の人は存在しているし、さらに非正規で働いている人がいて、割合で考えれば生活保護を受けている人も近くにいる。その中には望まない妊娠をした人もいるかもしれないし、DVから逃れて来た人もいるかもしれない。
――そうやって考えていくと、やはり「他人事だ」とか「自己責任だ」とかでは割り切れない問題だと痛感しますね。
顔が見えないと好き勝手言えるんですよ。ホームレスというのは記号でしかないので。
ただ、小学校の1クラスが30人居るとして、そのなかで5人は貧困状態なんです。どんなに素晴らしい制度が出来ても制度を運用していくのは人間なので、ひとりひとりの価値観が変わっていくことが重要だと思います。5人も貧困状態なのに、それを自己責任じゃんとするのか、何かできないかどうにか助けられないかと思うか。今の社会的な状況をきちんと把握して、ひとりひとりが何を思うかに、こういった問題の解決はかかっていると思いますね。
――女性のホームレスを取り巻く現状はいかがでしょうか?
国の統計では5~6%しかいないと言われていますが、もやいへ相談に来られる女性の方は大体20~25%います。野宿している女性の数は国の統計通り少ないのですが、泊まれる場所を探して泊まっている女性が多いんです。だからこそ望まない場所、望まない男性とパートナー関係で泊まっていたり、DV受けているけれど出る場所がなくて出れないとか。病院へ行かせてもらえないとか、望まない仕事だけど辞めると生活が出来なくて困っているとか。色んな相談を受けますね。女性だから余計に難しさはありますね。
人ひとりの違いによって抱えている難しさは本当に違いますね。見えづらい病気や障害もあるので、色んな課題を抱えた人が多いということを前提に面談をしています。
自分自身の感情に気づく、そしてどう変えたら良いのか考えていく。
――「ホームレス・ベッド・コレクション」はどのような経緯で始められたんですか?
「ホームレス・ベッド・コレクション」は、オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンから企画を持ち掛けられたんです。すごい発想だなって良い意味で驚きました(笑)。クラウドファンディングで資金を募り、3台のベッドを作っています。
――展示場所はどこを考えていますか?
もやいとしては、今回のアプローチで、ホームレス問題に興味がない人たちにもアプローチできれば、と思っていたので、一般の公道等を考えていましたが、許可が下りず。まだ決まってはいないのですが、先日のG7で展示ができたのは良かったと思います。
――G7での展示はすごいですね。最後に私たちができることはなんでしょうか?
そうですね。僕は22歳の時に炊き出しで、ホームレスのおじさんと手が触れて引っ込めてから、自分は差別をしていたんだって気づいたんですよね。でも確かに汚かったから嫌なのは当たり前なんですけど、まず自分自身の感情に気づく、じゃそれをどう変えたら良いかなって考えることが私たちのできることだと思います。
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