公取委が指針発表、実質0円スマホの問題点について (2016/8/3 企業法務ナビ)
はじめに
公正取引委員会は2日、「実質0円」等でスマートフォンを販売する各携帯会社大手に対し、独禁法上の問題事例等を示した上で是正を求める指針をまとめました。スマホ販売に関しては携帯通信事業者、スマホ製造業者、OS・アプリ提供業者といった各事業者が関連し、それぞれの市場で独禁法上の問題点があがっております。今回は公取委がまとめた独禁法上の問題点について概観していきます。
スマホ販売上の問題点
公取委の発表によりますと、現在のスマホ・携帯事業に関しては(1)通信役務市場(2)端末市場(3)OS・アプリ市場の3つの市場において独禁法上の問題が生じているということです。
まず通信役務市場では各大手携帯事業者が通信役務と端末をセットで販売し毎月の通信料を値下げして端末を実質無償とすることや、SIMロックにより一つの端末で他社の通信事業には使えなくすることで他のSIMフリー端末業者の参入を困難にしているとし私的独占や取引妨害に該当し得るとしています。
端末市場においては、端末の割賦販売価格を携帯事業者が通常一律に固定していることから販売代理店が個別に価格を設定できず価格競争が生じない状態となっており再販売価格の拘束に該当し得るとしています。使用済み端末の流通をメーカーに禁止することも拘束条件付取引に当たり得るとしています。
OS・アプリ市場においては、有力なOSやアプリ提供事業者が他社のOS等を使用しないことを条件に提供すること等が排他条件付取引や抱合せ、取引妨害に当たりうるとしています。以下これらの独禁法上の問題行為について簡単に見ていきます。
私的独占
私的独占とは他の事業者を排除し又は支配することにより一定の取引分野における競争を実質的に制限することを言います(独禁法2条5項)。カルテルや談合といった不当な取引制限と市場に対する実質要件は同じですが、事業者相互の共謀や拘束といった行為態様を問わずあらゆる行為が含まれます。「一定の取引分野における競争を実質的に制限」するとは市場において価格や数量、品質等をある程度事由に決定する力、すなわち市場支配力を形成することをいいます。違反した場合には排除措置命令(7条1項)、課徴金納付命令(7条の2)の対象となります。
再販売価格の拘束
再販売価格の拘束とはメーカーが自己の商品を購入する卸売業者に販売価格を指示してその価格で販売させる行為を言います(2条9項4号)。19条によって禁止される不公正な取引方法の一つです。実質要件は市場における競争を減殺させること(公正競争阻害性)で市場支配力の形成にまで至らない場合をいいます。違反した場合には排除措置命令の対象となり(20条)、繰り返し違反することによって課徴金納付命令の対象ともなります(20条の5)。
排他条件付取引・拘束条件付取引
排他条件付取引とは相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引することをいいます(一般指定11項)。メーカー等の供給者が他のメーカーの製品を扱わないことを条件として販売業者に卸す場合等のことです。取引相手業者にそれ以外の不当な条件を付けて取引する場合を拘束条件付取引と言います(一般指定12項)。19条によって禁止される不公正な取引方法の一つで実質要件である公正競争阻害性の内容は競争者の取引の機会を奪い代替取引先の確保を困難にさせることです。違反した場合には排除措置命令の対象となりますが(20条)、課徴金納付命令の対象とはなっておりません。
抱き合わせ販売
商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を購入させることを抱き合わせ販売といいます(一般指定10項)。人気商品に在庫商品を合わせたり、OSに表計算アプリを合わせる行為等が当たります。実質要件である公正競争阻害性の内容は自由な競争の減殺と顧客の選択の自由の阻害です。違反した場合には排除措置命令の対象となります(20条)。
取引妨害
事業者が競争関係にある他の事業者の顧客を威迫、脅迫、中傷、不当な利益提供等の不当な手段を使って奪う等の妨害行為を取引妨害といいます(一般指定15項)。実質要件の公正競争阻害性の内容は競争手段の不公正といわれております。上記までと同様違反した場合には排除措置命令の対象となります(20条)。
コメント
通信事業者に割り当てられる電波は有限であり、国内での通信事業に新たに参入することは容易ではないことからスマホ携帯市場での競争促進は困難な状況と言えます。そのような限られた市場の中でも可能な限り自由な競争を促すために今回の指針が発表されたと言えます。実質0円スマホの販売により消費者から見れば一見安く手に入るように見えますが、それによって新規SIMフリースマホ業者の参入が排除され競争が阻害されることによって、かえって価格の高止まりを招いていると言えます。
スマホやネット事業といったIT業界は技術の最先端事業であり、市場における取引手法等が確定・定着していない点も多々有り、法による規制も後手が回りがちな面があります。従来から独禁法等の問題が指摘されてきたスマホ業界にもようやく手が入り始めたと言えます。これにより健全な競争が促進されることになれば他の新規事業者やスマホ製造業者の価格・技術競争も促され、より安くより良い製品が消費者に提供されることにつながると言えます。通信費が安くなる未来も遠くないのではないでしょうか。
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