中国に原発を任せるのは危険? 英メイ首相、中国出資の計画を再考 中国は不快感 ニュースフィア 2016年8月9日
7月28日、イギリス政府は、総額180億ポンド(約2兆5千億円)といわれるヒンクリー・ポイントC原発の建設プロジェクトを再考し、最終決定は初秋まで持ち越すと発表した。資金調達と建設を担当するフランス電力公社(EDF)は、英政府の発表の2時間前にプロジェクトへの投資を理事会で承認し、翌日の契約締結に備えていただけに、衝撃を受けている。決定の裏には、建設費用の3分の1を出資することになっている中国広核集団(CGN)の関与を、メイ新首相が安全保障上の脅威と見たからという報道もあり、中国も不快感を表している。
◆フランスの面目丸つぶれ。中国も不満
BBCによれば、フィンランドや自国の原発プロジェクトが頓挫している中、フランスはヒンクリー・ポイントCの建設を、原子力技術を世界に輸出するためのショーケースとして期待していたという。フィナンシャル・タイムズ紙(FT)によれば、建設見直しの可能性は、事前にメイ首相からフランスのオランド大統領に伝えられていた。しかし、EDF側には連絡されていなかったようで、EDFの関係者は憤っているという。計画がキャンセルされれば、公に支持を表明したオランド大統領や経済相の面目を潰すことにもなり、英仏関係の悪化もありえるとFTは述べている。
突然のヒンクリー・ポイントCの建設の再考には、メイ首相の右腕ともいわれる、共同首席補佐官のニック・ティモシー氏が昨年書いた記事の影響があったのではとFTは指摘している。ティモシー氏は、主要プロジェクトを中国に与えれば、コンピューター・システムに脆弱性を埋め込み、中国が意図的にイギリスのエネルギー生産をシャットダウンすることもできると警告していた。
メイ首相が中国の関与を危惧したという報道を受け、中国新華社は、時間を掛けたいというイギリスの考えを理解し尊重するが、中国がプロジェクトに使われる技術に「裏口」を作り、イギリスの安全保障を脅かすかもしれないという、いわれのない非難は耐え難いと反論している。首相官邸の報道官は、首相が「中国への懸念」を示したかどうかには言及せず、今回のような大型インフラ計画に、新首相と新政府が時間を掛けるのは正しいことだと述べている。
◆英中蜜月終了?前政権とは対照的
前政権のキャメロン首相とオズボーン外相は、中国の投資を歓迎し、西側における中国の最良の友となるべく、「英中蜜月」を演出してきた。イギリスとEDFの間で2013年に大筋合意したものの、資金面で難航していたヒンクリー・ポイントCの出資も成果の一つだ。西欧への足掛かりを得たい中国は、2年前にCGNを通じ計画への関与を表明し、総コストの3分の1を出資すると決めた。その後英側は、両国の「黄金時代」を固めるために習主席を国賓として迎えている。それだけに、王立国際問題研究所のケリー・ブラウン氏のように、今回のイギリスの「逃げ腰」が、中国に対する真の姿勢を暗示していると中国側は見るだろうという識者もいる。財務省の元官僚たちからも、今後の英中関係を非常に心配する声が出ているという(FT)。
◆メイ首相は中国嫌い?自分流で進む
英自由民主党の元ビジネス大臣、ビンス・ケーブル氏は、メイ首相が内相時代に中国人ビジネスマンのビザ発給条件の緩和に反対だったとして、首相が安全保障上の理由で中国からの投資に偏見を持っていることを示唆し、首相はより懐疑的アプローチを取り入れており、アメリカと同じやり方だと批判している。このような前任者とは異なるという意見に対し、首相の報道官は、英政府はビジネスにはオープンで世界からの投資を求めており、中国との強い関係を引き続き希望すると答えている(ガーディアン紙)。
FTは、メイ首相は慎重で地味な政治スタイルで知られているが、今回の一撃で、フランス、中国との関係と、将来のエネルギー政策を宙に浮かせてしまったと述べる。その一方で側近の中には、メイ政権はキャメロン政権の継続ではないとドライにいう人もいるらしい。自分流を行く新首相のやり方が吉と出るか凶と出るか。今後の行方に注目したい。