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公取委が教科書会社9社に警告、不当な顧客誘引とは (2016/7/8 企業法務ナビ

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はじめに

公正取引委員会は6日、教科書会社9社が検定中の教科書について教員らに金品等を渡していたとし、独禁法が禁止する不当な顧客誘引にあたる恐れがあるとして警告を言い渡しました。今回は独禁法が禁止する不当な利益による顧客誘引について見ていきます。

事件の概要

公正取引委員会によりますと、教科書会社が検定中の小中学校の教員らに対し、教科書の検定に関して金品等を渡している疑いがあり今年4月から22社を対象に調査を行っておりました。調査の結果、教科書会社最大手の東京書籍を含め9社が平成24年度以降、教員らのべ1800人に対し現金、図書カード等あわせて1644万円相当の金品を提供していたことがわかりました。公正取引委員会は早期の是正が必要として6日、行政指導である「警告」を9社に言い渡しました。今後は自主ルールの作成等で再発防止措置を求めていくとしています。

教室

不当な利益による顧客誘引とは

正常な商慣習に照らして不当な利益をもって、競争者の顧客を自己と取引するように誘引することを不当な利益による顧客誘引と言います。不公正な取引方法の1類型で一般指定9項が定義し独禁法19条が禁止しております。本来の商品や役務、サービスの性能・品質、価格による競争ではなくそれ以外の不当な利益によって顧客を誘引することは公正な競争秩序を歪め、消費者の正当な選択の自由を害するものであるとして禁止されております。違反した場合には排除措置命令が出され(20条)また他の競争者等の私人から差止請求(24条)や損害賠償請求がなされることがあります(25条、26条、709条)。以下要件を見ていきます。

行為要件

独禁法が禁止する違反行為の要件は各条文が規定する行為要件と、その行為による市場への影響である効果要件からなります。不当な利益による顧客誘引の行為要件は不当な利益の提供です。通常は金品等のいわゆる景品の提供が一般的ですが、それ以外の経済的利益全般も含まれることになります。一般消費者に対して景品の提供を行った場合には独禁法の特別法である景表法が優先して適用されることになります。

効果要件

不公正な取引方法は独禁法の条文上「不当に」や「不当な」といった文言が入ります。この意味は一般的な不当性を意味するのではなく公正な競争秩序を害すること、すなわち公正競争阻害性を意味します。不当な利益による顧客誘引の公正競争阻害性は顧客の適正かつ自由な商品選択を歪めるだけでなく、競争にどの程度影響を及ぼすかが問われます。提供される利益の内容・程度等を考慮して、正常な商慣習に照らして不当かが判断されることになります。

コメント

不当な利益による顧客誘引の例としては野村証券事件(審決平成3年12月2日)と網島商店事件(審決昭和43年2月6日)が挙げられます。野村證券事件では証券会社による損失補てん行為が問題となりました。公取委は、損失補てんは投資家が自己の判断と責任で投資するという自己責任原則に反し正常な商慣習に反するとしました。網島商店事件で問題となったのはルームクーラーの販売にカラーテレビを景品として提供した行為でした。景品の提供自体は正常な商慣習に反する行為とは言えないが、取引価額に比して景品の額が大きすぎる場合には正常な商慣習に違反するとしました。この事例は景表法による規制がなされる以前の事例なので独禁法が適用されました。以上のように不当な利益による顧客誘引に当たるかは提供されたものの内容と程度によって判断されます。

本件で教科書会社9社は1800人もの教員らに対し総額1644万円相当にも及ぶ金品を提供していました。教科書販売における正常な商慣習を阻害するほどの内容と程度であると判断されたと言えます。顧客に対してある程度のサービス提供は商慣習上一般に行われているものですが、その内容程度によっては違法となり得ます。顧客へのサービス提供は顧客の判断を歪めないか、他の競争者の競争の機会を奪うことにならないか等を検討して行うことが重要と言えるでしょう。

提供:企業法務ナビ

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