“日本はLGBTの子どもを十分に守っていない”人権団体指摘 求められる組織的な改革 ニュースフィア 2016年5月11日
5月6日、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(以下、HRW)が、日本国内のLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の若年者約450名を対象に実施した“いじめに関する調査”の報告書を発表した。
同報告書のタイトルは『出る杭は打たれる:日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除』で、86%の子供が学校で同級生等からのLGBTに関する暴言を経験し、そのうち29%には教員も加担していたことが明らかになった。また、生徒間の暴言やいじめを目撃しても“見ないふり”をして、いじめに対応してくれなかったという回答も多かった。
2011年に滋賀県大津市の中学校で起こったいじめによる自殺事件を受けて、日本では2013年に『いじめ防止対策推進法』が成立・施行された。同法第11条に基づき文部科学省が策定した『いじめ防止基本方針』について、同報告書は「日本の学校には、権利よりも風紀と和の維持を優先する風潮がある。国のいじめ防止基本方針は、いじめは生徒の権利を著しく侵害するとしているが、いじめ防止対策の1つとして規範意識などを育むための道徳教育を推進している」と、日本政府の形式的な対応を批判した。
◆教員もLGBTいじめに加担……問われる教育現場の意識
イギリスのゲイ専門メディア『Gay Star News』は、「教員研修が不足していることも、いじめ問題の原因のひとつだ。教員らは、自身ではいじめに対処できないと感じている」と指摘。教員の個人的努力に依存するのではなく、組織的な改革の必要性を強調した。
さらに、「(日本の)学校では通常、厳しい“ドレスコード”や“行動規範”が存在する。このことも、トランスジェンダーの生徒にとってはより一層プレッシャーとなっている」と、校則にも問題があることも指摘した。“皆と同じこと”を重んじる教育方針、日本社会全体に漂う“同調圧力”も差別に繋がっているとされている。
◆「日本は欧米に比べて遅れている」しかし、「もともと同性愛に寛容な国だった」
AFP通信は、「近年、LGBTは世の中に幅広く受け入れられるようになってきた。それにもかかわらず、ゲイの権利や同性婚に関して、日本はアメリカやその他多くの欧米諸国に遅れをとっている」と批判し、基本的にはHRWの報告書の内容に同調した。
しかし同時に、性的マイノリティへの差別意識はもともと西洋文化からもたらされたものだという歴史的背景も紹介した。
以下は、AFP通信の記事からの引用である。「歴史的に、日本は同性愛にはかなり寛容な国だった。文献によると、封建時代のサムライ・武士には男性の恋人がいたことが明らかになっている。また、浮世絵・木版画などの伝統的芸術作品には、同性間の性交渉も描かれている。
しかし、19世紀後半以降に日本が産業化・近代化の時代を迎えるとともに、西洋諸国から同性愛に対する偏見も輸入され、次第に日本社会に浸透していった」
今回のHRWの報告書に関しては、LGBTに対するいじめに加担していた教員が少なからず存在していたことに衝撃を受けた人が多かったようだ。本来、生徒を教え諭すべき教員がいじめに積極的に加わるなど言語道断だ。しかし、“見ないふり”をした教員の中には、本当は助けたいと思いつつ日々の業務量の多さに忙殺され、無力感を感じていた人もいたのではないだろうか。
教員現場で働く教員を個人的に責めるのではなく、教員が心の余裕と正しい知識をもって生徒ひとりひとりと向き合えるような“仕組み作り”が大切だ。