世界的政治スキャンダルに発展か…明るみになるエリートのお金の隠し方 「パナマ文書」流出 ニュースフィア 2016年4月6日
「パナマ文書」と呼ばれる流出文書が今、世界を騒然とさせている。パナマのある法律事務所の内部資料が流出したもので、この事務所が世界各地のタックスヘイブンに開設した法人など21万4000団体の実態が明るみに出た。その利用者として、国家首脳や首脳経験者12人を含む政治家143人や、サッカーのメッシ選手などの名前も挙がっている。タックスヘイブンの利用のほとんどは合法的なものだが、マネーロンダリングや資産隠し、脱税などに利用されることがある。今回の流出から、政治スキャンダルなどの発生が予想される。
◆これまでにない規模でタックスヘイブンの実態を暴露
流出したのは、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の1977年から昨年末までの内部資料で、電子メールや顧客情報、銀行取引記録など文書1150万点、情報量にして2.6テラバイトに及ぶものだ。ガーディアン紙によると、2010年のウィキリークスによるアメリカの外交公電のリーク、2013年のエドワード・スノーデン氏によるアメリカの情報収集活動の暴露よりも規模が大きく、過去最大のリークの1つだという。
米ニュース専門放送局CNBCによると、データは1年前から、匿名の情報提供者によって、独紙・南ドイツ新聞(SZ)への提供が始まった。SZは国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)、ガーディアン紙やBBCなど100以上の報道機関と情報を共有し、共同で分析調査に当たった。ドイツの国際公共放送ドイチェ・ベレ(DW)によると、調査には76ヶ国、370人以上の報道関係者が携わった。3日、各報道機関は一斉に報道を始めた。
この報道の調整に当たったICIJのディレクター、ジェラルド・ライル氏は、「このリークは、文書の範囲の広さから、オフショア世界がこれまでに受けたおそらく最大の打撃になると私は考えている」と語っている(DW)。
◆「極めて多数のうさんくさい金融取引が明らかになった」
今回の流出の画期的な点は、厚いベールに覆われているタックスヘイブンへの資産退避の実態が、これまでになく明るみに出たことだ。政治家やスター選手など大物の名前が挙がっていることから、DWは、エリートたちがお金を隠す方法を観察する前例のない機会を与えた、と語っている。フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、今回の流出は、裕福な有力人物によるオフショア金融センターの利用について、これまでにない実情の把握をもたらした、と語った。
CNBCは、モサック・フォンセカが設立したオフショア会社を通じた極めて多数のうさんくさい金融取引を、流出文書が明らかにした、とSZが発表したことを伝えている。同紙は今回の流出を「ジャーナリストがこれまでに取り組んだ中で最大」と呼んでいる。
流出元となったモサック・フォンセカは、公式ウェブサイトによると、42ヶ国、従業員600人の世界的ネットワークを有するという(ガーディアン紙)。その主要業務の1つは、英国領バージン諸島、キプロスといったタックスヘイブンに法人を設立することにあるようだ。CNBCは、同事務所はペーパーカンパニーとして知られる無名のオフショアカンパニーの販売を専門的に扱っていた、と伝える。ガーディアン紙によると、同事務所はオフショアサービス・プロバイダーとして世界4位の規模であるという。
◆タックスヘイブンには脱税やマネーロンダリングの疑いがつきまとう
モサック・フォンセカの流出文書の中には、多数のビッグネームが含まれている。SZによると、ペーパーカンパニーの設立者として、アルゼンチンのマクリ大統領、アイスランドのグンロイグソン首相、サウジアラビアのサルマン国王、アラブ首長国連邦のハリーファ大統領、ウクライナのポロシェンコ大統領の名前が挙がっていたという。また、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席、シリアのアサド大統領、イギリスのキャメロン首相らの親類や友人によるオフショアカンパニーの利用も、文書中で確認されたそうだ。
プーチン大統領に近しい人物がタックスヘイブンに所有する法人と、銀行の間で、少なくとも20億ドル(約2224億円)が移動していたとICIJは結論しており、FTはこの点に注目した。CNBCによると、コンサルティング会社ユーラシア・グループの社長のイアン・ブレマー氏は、この金は「ロシア政府が実際にロンダリングしている金額のごく一部」だと考えているという。
オフショアカンパニーを所有すること自体は違法ではないことに注意するのは大切だが、SZは、モサック・フォンセカの場合、その本当の所有者の身元を隠すことが大部分のケースで第一の目的だった、と主張した(CNBC)。またオフショアカンパニーは、マネーロンダリングのような重大な違法活動に加えて、脱税に一般的に関連付けられてもいる、と語る。DWも、オフショアカンパニーの利用は違法ではないが、税金の支払いを避ける行為は違法となる可能性がある、と伝える。
DWは、タックスヘイブンに籍を置く一部の会社が、マネーロンダリング、武器、ドラッグ取引、税金逃れのために利用されている疑いがあることを文書が示していると言われていることを伝える。
脱税の他、主要な懸念点は、一部の国がオフショア会社を違法な活動の隠れみの(フロント)として使用しているということで、北朝鮮のような、いわゆるならず者国家に関しては特にそうだ、とライル氏はCNBCに語っている。
◆この流出による騒動はまだ始まったばかり?
今回の流出による騒動はまだ始まったばかりだ。ロイターによると、オーストラリアやニュージーランドの税務当局はすでに、モサック・フォンセカの自国民の顧客への調査を開始しているという。
アイスランドのグンロイグソン首相は、オフショアカンパニーを通じて、自国の銀行に間接的に投資していたことが流出文書で示された。国会議員になった際にこのことが報告されておらず、隠ぺいであるとして、同首相は退任要求を突きつけられているという。
DWは、政治にも影響が及ぶ可能性がある、と指摘し、中国共産党中央政治局常務委員会の現委員および元委員8人の家族が、タックスヘイブンに財産を置いていたことが発見されていると伝えている。
CNBCは、専門家が金融、政治面で恐ろしい結果が訪れると警告しており、暴露が世界的な騒動を引き起こしている、と語る。ブレマー氏は「今回の件は、スノーデン氏の件で見られた以上の不安定を引き起こすだろう」と語っている。
さらにブレマー氏は、ICIJがアメリカの大富豪ジョージ・ソロス氏のオープンソサエティ財団から一部出資を受けていることを考慮して、ロシア政府がアメリカに対しこれまで以上に敵対的な政策を取ることを予想している。
ライル氏はCNBCで「今後数日、数週間にわたる暴露の奔流となるものの始まりを、みなさんはいま目にしている」と語っている。またブレマー氏も「これは氷山のほんの一角だ。私たちはそのはるかに多くを目にするだろう」と語ったという。