北朝鮮との交渉にあたっては、平時より十分な戦略を策定しておくことが重要である (2016/2/10 政治山)
日本政策学校は2015年12月9日、東京大学大学院公共政策特任教授/日本総合研究所国際戦略研究所理事長/日本国際交流センターシニア・フェローの田中均氏による、「北朝鮮にどう対処すべきか」というテーマの講義を開催しました。以下はそのサマリです。
はじめに
北朝鮮は、日本と国交のない国であり、核兵器の保有を疑われている危険な国である。
この北朝鮮と外交交渉するには、十分な戦略が必要である。
過去に外交交渉した際に考慮した戦略は、情報を全体的に評価し、何をすべきか確信をもち、双方のメリットとコストのバランスを考え、ウイン・ウインになるような絵を書くことであった。
今後の外交交渉については、中国が北朝鮮の変化を導くために経済的支援をやめる覚悟を持たない限り、結果をつくるのは難しい。
日本と国交のない北朝鮮
北朝鮮は、前述のとおり日本と国交がない国である。さらに核兵器の保有が疑われており、きわめて危険な国である。
現在、わが国には20万人くらいの北朝鮮出身者がいると言われており、難しい課題が多い。
どこの国に対しても言えることであるが、特にこのような状況にある北朝鮮と外交交渉するには、十分な戦略が必要である。
これまで北朝鮮と交渉する際、必要であった戦略
私が過去に北朝鮮と交渉するにあたり、具体的に行った戦略は、以下のようにまとめられる。
私はこれを、ICBMといっている。
I=intelligence
情報は、断片的な収集だけでは駄目で、情報を分析し、更に最も重要なことは、それらを全体的にsystematicに評価することである。
C=conviction
交渉において重要なことは、情報を精査して何をすればどのような結果が出るのか、今は何をすべきなのかについて、確信(conviction)をもつことである。
私が交渉を行った際にも、解決すべき問題は拉致に関するものだけではなく、核兵器など、将来的、包括的に取り組む必要のあるさまざまな問題があった。それらに対して、確信をもって取り組んできたと思う。
B=big picture
交渉して、よい結果を出すためには、自国と相手国の双方の、メリットとコストのバランスを考えるべきである。
将来的なことも踏まえ、大きな絵(big picture)を描くことができるかどうかにかかってくる。
M=might
力(might)がないと結果は作れないが、力は軍事力とか経済力だけではなく、見つけ出すものである。北朝鮮は、自らの安全を担保することであり、日本は米国の力を活用できる。
今後、北朝鮮と交渉するにあたり、必要となる戦略
それでは、今後、どのような戦略を用いるべきか。
北朝鮮は政権が替わったが、依然として、恐怖心を植えつけて体制を維持しようとしている。しかし、このようなやり方は、長続きしない。
そこで平時から、以下の点について、計画をきちんと作っておくべきである。
- 自力で経済を維持できない北朝鮮が、国家財政を維持しているのは、中国の支援があるからである。北朝鮮の変化を可能とするためには、中国に北朝鮮の支援をやめさせることが鍵となる。グローバル国家を目指す中国に対して、北朝鮮への制裁に加わらざるを得ないような計画を作らなければならない。
- 朝鮮半島の不測の事態に備え日米韓で危機管理計画をつくっておかなければならない。
- 拉致の問題については継続的な交渉を行いつつ、北朝鮮問題の包括的解決の中で最終的な解決を達成すべきである。
(2015年12月9日に開催された、政策議論講義「北朝鮮にどう対処すべきか」より)
- 講師:田中均(たなか ひとし)氏
- 京都府京都市生まれ。
1969年 京都大学法学部卒業後、外務省に入省。
1972年 オックスフォード大学政治経済学修士課程修了。
退官後は、公益財団法人である日本国際交流センターにて、シニア・フェローに就任した。
東京大学の大学院では、公共政策学連携研究部の特任教授を兼任している。
また、日本総合研究所においては、国際戦略研究所の理事長を兼任している。