買い取り強要?シャープの自社製品買い取りノルマは違法か? (2015/11/28 JIJICO)
自社製品購入に実質的なノルマが課される?
もし、勤めている自社の製品やサービスを購入するよう、会社側からノルマが課せられたとしたら、皆さんはどう思われるでしょうか。経営再建中の大手総合家電メーカーであるシャープが、全従業員を対象に自社製品の購入を呼びかける「シャープ製品愛用運動」を始めました。
対象となる期間は2015年11月20日から来年1月29日までの約2カ月間。液晶テレビ、冷蔵庫や洗濯機などの家電全般が対象製品となり、専用の販売サイトから申し込むとされています。購入した社員には購入額の2%分を奨励金として支給すると発表されましたが、同時に取締役や執行役員は20万円、管理職は10万円、一般社員は5万円と役職に応じた目標も設定されています。
広報部は「目標数字は強制でなくお願い。ペナルティーはなく、決して強要ではない」と製品購入は強制ではないということを強調していますが、「全社的な取り組み」として購入状況を会社側が把握できるため、目標金額は事実上の「ノルマ」と受け止められているようです。
自社製品の購入目標に違法性はあるか?
営業社員が販売ノルマを達成するため、自社製品を購入することは家電販売メーカーだけではなくアパレル会社などでも行われていますが、内容によっては法的な問題になるケースを見かけます。今回のケースは全従業員が対象となっていますが、まずは自社製品の購入目標設定の違法性について考えてみます。
自社製品の買い取りを強制される、目標未達成分を給与から天引きされるなどの場合は、労働基準法に違反する可能性が高くなります。労働基準法24条1項では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定められており、この場合は賃金の「通貨払いの原則」と「全額払いの原則」に違反することになります。「通貨払いの原則」とは「賃金は、小切手や自社製品などの現物支給ではなく、通貨で支払わなければならない」と定められているため、自社製品の買い取りを強要された場合、通貨で支払われた賃金の一部が商品と取り替えられることになり、「通貨払いの原則」違反となります。
また、給与から製品の購入代金が天引きされれば、「全額払いの原則」に関しても違反となります。例外として認められるものは所得税や住民税などの源泉徴収、社会保険料(雇用保険・健康保険・厚生年金)の労働者負担分や、労使協約によって一定の金銭を控除することが取り決められている場合(社宅家賃、旅行積立など)に限られるため、労使協定により定められていない限り、一方的に天引きすることはできません。そのほかにも、目標未達成や従わない従業員に対して自社製品を購入させようと上司から精神的な圧力がかけられた場合、パワーハラスメントに該当することにもなります。そして、パワハラがきっかけとなりうつ病などの精神疾患に陥った場合は、労災となる可能性も考えられるでしょう。
労働基準法違反や場合によっては刑法の強要罪に該当することも
このように購入を強制することは違法性が極めて高くなりますが、購入目標を設定すること自体には問題はありません。今回、シャープが発表している「購入額の2%分を奨励金として支給する」という内容については問題ないと考えられます。ただし、購入目標未達成の従業員に対して降格や降職、減給などの罰則や懲戒処分を課すことについては、人事権の濫用として違法性が問われます。
購入目標設定は、購入ノルマと同様に運用方法を間違えれば、労働基準法違反や場合によっては刑法の強要罪に該当することにもなります。シャープはこれまでにも大規模な経費削減対策として「希望退職の募集」や「給与・賞与のカット」「時間外労働などの固定費の削減」などを実施しています。自社製品購入も経営再建の一環と言えますが、さらに従業員の協力が必要となるため、このような方法がどんな結果を生むか、また、業界にどのような影響を与えるか注視したいと思います。
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