2026年“デジタル円”始まるか―黒田日銀総裁の見解から見える近未来 (2022/2/10 衆議院議員 中谷一馬)
1万円札や500円硬貨が使われなくなる時代
「今、生まれた子どもはきっと免許を取る必要はない」
十数年後には、自動運転車が普及していることを念頭にこのような話が、ダボス会議における議論で語られました。
こうした観点で言えば、日本においても現在電車に乗るのにSuicaやPASMOのような電子マネーが主流で使われていますが、15年後には1万円札などの紙幣や500円玉など硬貨を使う人は、現在の切符を購入する人くらいまで少なくなり、デジタル通貨を活用する人が主流になっているのではないかと推察します。このような時代の転換期において、国際競争力を維持するためには、どういう未来になるのかを想像して、そこから逆算した投資や施策を講じることが必要になると思います。
そうした中、「Web3(3.0)」と呼ばれる、ブロックチェーン(分散台帳)技術を基盤にしたインターネットの新たな使われ方が注目をされていますが、日本としても、Web3時代の国家基盤に関してDX(デジタルトランスフォーメーション)をどのように進めていくのか、国家戦略の展望を描く必要があります。
中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)の世界潮流
我が国の中央銀行制度に強い影響を与えたドイツでは「通貨発行権が国家の主権」とも言われており、日本においてもWeb3時代に、通貨を時代のニーズに合わせて、どのように発展させていくのかということは、国家戦略上においても大変重要なテーマであると考えております。
CBDCの発行に関する主なメリットは、
- 現金に関わるコストの軽減
- 決済など金融分野の効率化と安定性の確保
- キャッシュレス化を含む経済社会のデジタル化・イノベーション
などがあげられますが、BIS(国際決済銀行)の調査では、回答した世界の中央銀行のうち86%がCBDCに関して、予定を含めて何らかの研究・実験・開発を始めている現状があります。
世界的にCBDCへの関心が加速するなか、基軸通貨米ドルを発行するアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)も今年1月20日に「デジタルドル」に関する初の報告書を公表し、パブリックコメントを求めています。
パウエル議長もデジタルドルについて、「優先度の高いプロジェクト」だと述べておりましたので、CBDCに関わる世界の潮流について、黒田東彦日本銀行総裁、鈴木俊一財務大臣と衆議院予算委員会にて議論を行いました。
●衆議院インターネット審議中継
2022年1月28日(金)予算委員会(1)
2022年1月28日(金)予算委員会(2)
「デジタル人民元」の発行と日本の経済安全保障
中国は、来月行われる北京冬季オリンピックに標準を合わせて、デジタル人民元(通称:e-CNY)の利用を展開する計画とみられており、ウォレットアプリの個人ユーザー数が2億6000万人を超えました。
中国はG20の中で、本格的な中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行する最初の国となる公算が高まり、米中関係の緊張がより顕著になる中で、日本においてもデジタル人民元が持つ潜在的な可能性は経済安全保障上、とても大きな脅威となると考えております。
中国は現在、自国の仕様を国際標準にすることを目指す「中国標準2035」という中期戦略に取り組んでおり、CBDCの基盤システムが世界に普及されることになれば、国際秩序に大きな変化をもたらす可能性があります。
こうした状況を踏まえれば、日本においても欧米と連携し、CBDCの国際標準について、主導権を持って進めていく国家戦略が求められることから提言を致しましたところ、黒田総裁から欧米と連携して国際標準を作り上げていく必要があると返答をいただきました。また、鈴木財務大臣からもG7や国際機関と連携して取り組みたいとのことでした。
「デジタル円」はいつ発行されるのか!?
ECB(欧州中央銀行)は、ラガルド総裁が就任して以降、デジタルユーロの発行に積極的な姿勢を示しており、既にプロジェクトを立ち上げ、2021年10月から発行に向けた2年間の調査フェーズに入りました。
その後、もし正式に発行すると決まった場合には、調査フェーズを終えた後に約3年をかけて発行準備を行う見込みであり、デジタルユーロの研究・開発が計画通りに進む場合には、2026年頃に発行される見込みとなり、2021年3月時点ではラガルド総裁も「4年以内に実現することを望む」と述べ、早期発行のスタンスをみせています。
日本では、現時点においてデジタル円(CBDC)を発行する計画はないと認識していますが、2021年4月に実証実験の第一ステップ(概念実証フェーズ1)を開始し、今年2022年4月には第二ステップとなる概念実証フェーズ2が開始され、その後、パイロット実験に移行することを踏まえれば、どこかのタイミングでデジタル円の発行を決断することが必要になると考えましたので、現時点においてデジタル円はいつ頃までに発行される想定であるのか、年次目標に関してうかがいました。
最短のフローを考えた時には、2026年頃にデジタル円をできる能力があるかの「能否」については、2026年頃までには判断できているという理解で良いかと黒田総裁に尋ねたところ、変動もあるので確約はできないが、「個人的にはそう思います」という答弁をいただきました。
これは社会のコマがまさに一歩進んだ瞬間でありました。
もちろん、政府や民間事業者との議論を十分に行った上で、発行の判断を行うことになりますが、ある程度の目安が見えたことで、皆がデジタル円という新たな価値について、実感を持って向き合うこととなります。
このような時代の変化に、ワクワクすると同時に、こうした科学技術の進化による社会構造の変化にしっかりと対応し、国民生活を豊かにするといった使命を与えられている国会のメンバーの一人として、その非常に重たい責任を与えられていることに対して緊張感を持っております。
そうした想いから、私は、テクノロジーの発展を通じて人々の生活を持続的に豊かにさせることを目標とした「第4次産業革命」を日本が牽引していくことによって、豊かな社会の発展と夢のある未来の創造に貢献できるよう、日々精進し取り組みを前に進めてまいります。
- ※参考URL
- 日銀総裁「26年までに判断」 デジタル通貨発行の可否(日本経済新聞)
- 日本のCBDC発行の判断、2026年くらいにはできている=日銀総裁(朝日新聞)
- 日銀総裁、中銀デジタル通貨の能否を26年ころまでに判断(Bloomberg)
- 日本のCBDC発行の判断、2026年くらいにはできている=日銀総裁(ロイター)
- 「ある時点で決断」 中銀デジタル通貨発行―日銀総裁(時事通信)
- 日銀総裁「デジタル円の発行可否は2026年までに判断可能」(コインポスト)
- 著者プロフィール
- 中谷 一馬 なかたに かずま / Kazuma Nakatani [ホームページ]
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立憲民主党 衆議院議員 神奈川7区(横浜市港北区・都筑区の一部)
1983年8月30日生。貧しい母子家庭で育つ。厳しい経済環境で育ったことから、経済的な自立に焦り、中学卒業後、高校には進学せず、社会に出る。だがうまく行かず、同じような思いを持った仲間たちとグループを形成し、代表格となる。
しかし「何か違う」と思い直し、働きながら横浜平沼高校に復学。卒業後、呉竹鍼灸柔整専門学校を経て、慶應義塾大学、DHU大学院に進学。その傍ら、飲食店経営や東証一部に上場したIT企業の創業に役員として参画する中で、人の役に立つ人生を歩みたいと政界進出を決意。
元総理大臣の秘書を務めた後に、27歳で神奈川県議会における県政史上最年少議員として当選。県議会議員時代には、World Economic Forum(通称:ダボス会議)のGlobal Shapers2011に地方議員として史上初選出され、33歳以下の日本代表メンバーとして活動。また第7回マニフェスト大賞にて、その年に一番優れた政策を提言した議員に贈られる最優秀政策提言賞を受賞。
現在は、立憲民主党 青年局長(初代)、科学技術・イノベーション議員連盟 事務局長として多方面で活動中。
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