「世帯に30万円給付」の発想に垣間見る女性活躍のリアル (2020/4/30 政治山)
政府は2020年までに指導的地位の女性比率30%とすることを目標としてきましたが、女性議員は1割程度、上場企業役員の女性比率は5.2%と大幅な未達となっています。いったい何が、女性活躍社会の推進を妨げているのでしょうか。静岡県で女性議員を増やすネットワーク「なないろの風」を設立し活動を続ける鈴木恵 浜松市議会議員と、「女性の健康推進」セミナーなどの啓発活動を行っている大塚製薬の西山和枝氏の対談の様子をご紹介します。
女性議員は4人から12人に増えたが、管理職の割合はなかなか上がらない
【西山】 議会における女性活躍の現状について、初当選した頃から変わったこと、変わらないことを教えていただけますか。
【鈴木】 1999年に初めて議員になったとき、私はまだ30代で小学生の子どもの子育て中でした。政治活動においては特に後ろ盾があったわけではなく、市民活動の中から出てきた珍しいタイプの議員だったと思います。その当時女性議員は48人中4人でしたが、20年経った今は46人中12人に増えて、すごく変わってきましたね。
世代も20代から60代まで、中には任期中に結婚・出産する方がいたり、介護や孫のことを考えている方がいたり、多様な女性のライフスタイルを感じます。女性議員が少ないときは自分たちがすべての女性の代表であるというような気負いがありましたが、それが少し楽になったことは大きいですね。ただ、女性議員は増えても行政の女性管理職の割合はまだ15、16%くらいなので、30%を目指したいです。
【西山】 政治の領域には特に女性の数が少なく、日本のジェンダーギャップ指数において全体の足を引っ張っている中、若いうちに議員を目指されたのはなぜですか。
【鈴木】 政治や経済にもともと興味があり大学もそちらに進みたかったのですが、当時は女性の進路として認めてもらえない風潮があったため、どちらかというと政治には距離がありました。
でも自分が実際に子育てをしてみて、こんなにやりにくいものなのかと驚きがあり、子育て世代の方たちにアンケートを取りました。最初、300くらい集まればいいかなと思ったらなんと1200も集まってきて。このような経験があり、これは誰かが代弁しなくてはならないと痛感したのがきっかけです。
子育て世代の声が政治に届いていない
【鈴木】 アンケートの内容は、毎月何にお金がかかっているか、何に時間を使っているのか、どのように働きたいかなど、結構ボリュームのあるアンケート用紙だったのですが、最後の自由回答はさらにレポート用紙をくっつけてくるくらい書いてきて。よく聞いてくれました!みたいな。その分析をするのに3年かかりました。
【西山】 企業の女性活躍の現状についても、2020年までに30%女性管理職を、という話はありますが、まだほど遠いかなという感じです。2016年に女性活躍推進法が施行されましたが、各企業そんなに大きく数字は変わってないのではないかと思います。働くママに対して制度を厚くして、働きやすく産後や子育て後も復帰しやすいような環境ができてきてはいるのですが、その先、女性が長く働いて管理職になるというのは、それが女性自身の望みなのかというところも含めて難しいところです。
女性が管理職になるのをためらう理由
【西山】 女性も管理職になるために、若いうちから研修を受けて考え方を身につけたりする必要があると思います。会社としても、見守りながら育てるという姿勢を見せないと、なかなか管理職をやりたい女性は増えないのではないかという印象です。
【西山】 浜松市は企業活動も活発かと思いますが、企業の中の女性活躍について、議員からはどのように見えていますか?
【鈴木】 浜松は製造業が多く、特に男性の割合が高いです。結局、女性が製造業で働くということは人事・総務系が多くなるので、そこは増えていきますが、そこから先が開拓されていません。だから管理職も増えていかない。市としてもそこをどう広げていくかは大きな課題です。
知り合いの印刷会社では子連れ出勤OK、託児ルームもありシングルマザーの方たちが活躍してるという事例も聞きます。ひとつふたつ工夫して働きやすい環境を作っていく。そういう方法もあるのだと思います。
【西山】 私は「女性の健康」という視点から働く女性をサポートしたいと考えているのですが、「女性活躍」と「女性の健康」について、ご自身の経験や身近な出来事があればお聞かせください。
【鈴木】 この「女性の健康」は20年前には全くされていなかった話で、産前産後のホルモンバランスの崩れや産後うつなども最近になってやっと知られるようになってきましたよね。
それまでは、「子ども産んで楽しくていいだろ!」とか「幸せなのに贅沢!」みたいな話だけ。「いやいや実はすごく不安定になってて、子どもを叩きそうになってるんです」とか「イライラして困ってるんです」などといった話は、わがままを言っていると捉えられていました。産後うつという言葉もなかったのです。
かつては児童虐待もしつけの一部とされていましたが、その問題が深刻化してから、産後うつや女性ホルモンの話が政治課題としても挙がってきました。以前は女性自身が何とかするもので、自己管理が悪いからだと個人に押し付けられていましたが、ようやく女性の健康管理問題が政治課題として取り上げられ、解決しなければならない問題だと認識されるようになってきたのです。
さまざまなライフステージの「当事者」が変わるきっかけ
【西山】 議員の中でもそういった話が出てくるようになったのですか?
【鈴木】 そうですね。実は議員には産休というものがありませんでした。議会を欠席する際には「事故」として休むしかなかったので、規則の中に初めて出産というのを入れました。そもそも出産する女性が議員であるという想定がなかったのです。それを入れることによって、彼女がどうやって復帰をしていくのか、ということを男性たちも含めて話ができるようになったのはすごく違いますね。当事者がいることが変わる大きなきっかけになります。
【西山】 男性議員の接し方も変わってきましたか?
【鈴木】 それは格段に違いますよ!かつてはもう、セクハラ発言だらけでした。民間でいるのとこんなに違うのかっていうくらいに。セクハラや脅し、今でいうパワハラですね。私も自治体の管理職からセクハラを受けた経験があるんです。
結構大きな問題になって、セクハラをどうやって無くしていくかというところまでいきました。結局私は、セクハラを受けたことではなく、セクハラを公表したことへのバッシングによってうつ状態になりました。
男性女性どちらからもバッシングを受けました。「お前が誘ったんじゃないか」「お前の格好のせいじゃないか」「そんなことは言わない方が利口だ」など。それがすごく辛かったですね。皆さんセクハラを受けて公表しないのは、そういうことが分かっているから我慢せざるを得ないわけで、こういった環境も女性の活躍を阻んできたと思います。
【西山】 大変なご苦労があったんですね。私は1990年に営業職で入社しましたが、やはりセクハラみたいなものもありました。また、周囲がすべて男性なので、男性が働いているのと同じように働かなくてはいけないと思ってずっと働いてきました。
鈴木議員から話があったように、やはり当事者がいないと変わらないと思います。私は男性のような働き方をしてきましたが、やはり女性ならではの働き方やり方があると思います。営業も女性社員が増えてきて多様な働き方が生まれ、女性ならではの働き方が今、少しずつ定着してきた実感があります。
議会も同じだと思いますが、男性が考えて良かれと思ってやっていることは女性には全く刺さらない。ですから女性、当事者を増やしていくはすごく重要だと思っています。
新型コロナ感染症に気付かされたこと
【西山】 新型コロナウイルス感染症は、私たちの暮らしや働き方を大きく変えました。在宅勤務が当たり前となり、時間や場所に縛られずに働いてみると、今までの仕事のすべてが本当に必要だったのか、いろいろ考えさせられることが多いです。こういう働き方が主になれば、女性もすごく働きやすくなると思うんですよね。特にママ世代の方とか。
今まで定時で帰ったら少し後ろめたさがありましたけど、仕事するときは仕事する、家事をするときは家事をする、メリハリのある働き方ができるようになるのではと期待しています。
【鈴木】 浜松市でもイベントや会合の多くが中止になっています。私たちの仕事がどう見られているか分かりませんが、挨拶だけでなくて、その場に行くことで市民の声を聴ける良いチャンスだったのですが、それがまるっきり見えなくなってしまったんですよ。
もちろんSNSや電話をしたりはしていますが、思わぬところに真実があって、特に困っていることはなかなか言葉にできなかったりする。会って話して、ぽろっと言ってくれる言葉が一番嬉しいのですが、やはり今会えないのがすごくもどかしいです。
【西山】 おっしゃる通りですね。我々も女性の健康セミナーや啓発セミナーをやっています。その中で、女性がすごく苦しかったんだけど、こういう理解のある人たちがいてくれるだけでも嬉しいとか、こういう表現はよくないんじゃないかとか、いろいろと生活者の中からご意見をいただく本当にいい機会でしたので残念です。
男性とともに女性の健康を考える
【西山】 多くの人に議会や行政のことを知ってもらうのは大切なことだと思いますが、女性の議員や傍聴者への配慮は、どのように変わってきていますか?
【鈴木】 子どもを連れて傍聴に来ることは以前からOKでしたが、女性議員が増えたことによりトイレの問題が出てきました。妊婦がいたときに和式を洋式にしたり、男性トイレが外から丸見えだったのを改善しました。今では授乳室なども整備されています。
【西山】 私たちは、女性の体調の変化を緩やかにおさえ、健康に働き続けられるような取り組みとして、女性の健康啓発セミナーを行っているのですが、その中で女性ホルモンの話をしたときに「それが何か?」という顔をされ、女性自身が女性の健康について知らないことが多すぎるという現実を目の当たりにしています。
女性ホルモンの働きとはどういうものかを伝えているのですが、セミナーに来られる方はやはり、健康とか美容に関心のある方になってしまいがちです。そこでより多くの方々に聞いてもらうために、企業に出向いて出張セミナーもさせていただいております。
また、当初は女性だけ集めましょうという話になったのですが、最近は男性管理職にもご参加いただいています。ご自身が部下や同僚、もしくはご家庭で、やはり女性の体には女性特有のリズムがあり、それに伴って家事や仕事をやりづらいといったことがあることを知っていただく機会になる。理解しフォローすることによって、互いの負担を減らしていこうという考えを持ってほしいと思い、男性にも啓発活動をしています。
【鈴木】 女性だけじゃなくて男性の方にもお話をなさってるということですが、男性の反応はどうですか?
【西山】 理解はできたけど、どう声を掛けたらいいのか、セクハラになるんじゃないか、とすごい気にされているようです。直接話すのは難しいので、「こういうセミナーを聞いてきたんだけどどう?」みたいな形で接することによって、少しずつ話をしてもらっています。
また、NPO法人「メノポーズ協会」が「女性の健康検定」というライセンスを発行しているのですが、そのライセンスを取得し、セクハラではなくライセンスを持っている者として、女性の健康を考え、女性が長く働き続けられるような体制をとる男性も増えてきました。
活躍する女性、育児をする男性が「特別」ではない社会へ
【西山】 最後になりますが、女性活躍を実現するために政治や行政が果たすべき役割と、直近での具体的な取り組みについてお聞かせ願えますか。
【鈴木】 賃金の話だけではなく、家事も育児も含めて、男性だけでなく女性も働いています。女性の活躍を阻んでいるものの一つに、それが正当に評価されてないというところがあると思っています。例えば、浜松の中で有名な人っていうと女性が入ってないんですよ。女性でも歴史的に頑張っている人がいるのに、そういう人は選ばれず男性だけが出てくる。それは変えていきたいところだなと。
2点目はやはり暴力、性暴力、DV、セクハラ、圧力的なものがまだあるので、これを無くしていくのは行政的な仕事だと思っています。特に今コロナの影響で家庭内に閉じこもっている人が多いので、家庭内暴力が増えているのではないかと心配です。この問題も行政で取り組むべきだと思います。
3点目に男性の意識改革。小泉進次郎さんの育児休暇が話題となりましたが、まだ特別扱いなので、そうならない形が必要です。
そして4点目に、「男性は外で仕事、女性は中で家事をする」ことを前提として作られた税や社会保障などの諸制度が、時代の変化に追いついていないことも大きな問題です。これは、制度を作り運用する人たちの意識の変化が不十分であることの証とも言えます。
最近では、新型コロナ感染症拡大による収入減に対する支援策が、個人ではなく世帯を対象として検討されましたが、多くの世帯では男性が世帯主であり、女性は配偶者として位置づけられています。あのような発想は、女性を軽んじていると捉えられても仕方がないかと思います。
【西山】 私たちが果たすべき役割は、このような状況になり人を集めてイベントが行えないので、オンラインで婦人科の先生方を講師に女性の健康に関する啓発セミナーを実施したり、何ができるのか模索したりしながら引き続き発信することだと考えています。
「女性の健康」というと、女性ばかりじゃないでしょ、ジェンダーフリーなのに遅れている、とかいろいろ言われます。それでも「女性の」とあえて言い続ける理由は、女性の健康問題について企業や家庭が考える文化が全然根付いていないからです。十分に根付いたら「女性活躍」とか「女性の健康」と言う必要もなくなります。そこに向かって、これからも引き続き頑張っていきたいですね。
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