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インフォデミック―根拠のない「4月1日ロックダウン」はなぜ広がったのか (2020/4/1 衆議院議員 中谷一馬)

関連ワード : 中谷一馬 新型コロナ 

新型コロナウイルスに関するインフォデミックの現状について

 新型コロナウイルスを巡り、インターネット上には毎日のように不安を煽る情報や、医学的に根拠のない対処法、信頼性を図りかねる陰謀論、議員や行政関係者が知らない政府配信とされる情報などが書き込まれている現状があります。

 世界保健機関(WHO)はこの状況を「インフォデミック(SNSやWebでの情報の“大流行”)」と名付け、信頼できる情報源や情報を見つけることが困難になっていると警告しています。

 ソーシャルメディアは、現代人にとって貴重な情報入手手段であると同時に、誤った情報が広く拡散されてしまう欠点もあります。

 人々が新型コロナウイルスのニュースに触れた際、一般的には「怖くて不安という感情による判断」と「さまざまな情報を集めた時に行われる知性による判断」がなされると想定されますが、人々の不安が増大し、感情と知性のバランスが崩れた状況に陥った時には、専門知が軽視され、本来必要な情報が物理的にも心理的にも市民に届きにくくなる現状があるのではないかと懸念いたします。

デマは真実よりも拡散しやすい

 MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボでは、「真実のニュースよりもフェイクニュースの方が早く拡散される」という趣旨の研究を発表しています。

現代メディアの諸問題と政治コミュニケーションの今後

※現代メディアの諸問題と政治コミュニケーションの今後(津田大介氏資料より抜粋)

 その理由は、真実ではない発言の方が恐怖感や不快感などの感情を強力に刺激する可能性があるからだということです。

 そうした中、Google、Facebook、Twitter、YouTubeなどは、WHOやCDC(米疾病対策センター)と協力し、コロナウイルスに関する情報では、明らかな偽情報などを上位に表示しないように対策したり、漂白剤を飲めば新型コロナウイルスによる肺炎の治療になるといった明らかなフェイク情報を削除するなどの対応をしております。

 日本においても、新型コロナウイルスの対応について、現場の関係者は全力を尽くして対応されていますが、結果として初動が後手にまわり、対応も場当たり的かつ市民目線に立ったものでなかったことが、残念ながら国民の不安に拍車をかけています。

 今、政府が行わなければならないことは、保身のために情報を誇張したり、矮小化したりすることではなく、専門機関や専門家からの信頼できる情報源からリスクのある人々にリアルタイムの情報が流れるようにシステムを整えることです。

 そのような情報がない場合、噂はソーシャルメディアを介して急速に広がり、インフォデミックをもたらします。

 そうした中、政府も「新型コロナウイルス政府お役立ち情報」サイトを立ち上げましたが、市民が必要とする情報がまだまだ足りておりません。

 その一方で台湾ではデジタル担当オードリー・タン大臣のリーダーシップでマスク不足の混乱を回避するために在庫マップを公開し、市民が安心してマスクを確保している現状が世界的に話題になりました。

 我が国においても日用品や食料品などに関して不足するとの情報が広がっており、多くの国民が疑念を持っておりますからこれらに対応した仕組みを実装することが必要です。

政府が緊急事態宣言を4月1日に発動するという噂が止まらない理由

 先週あたりから、このようなメッセージが私の周辺に飛び交うようになりました。

友人から送付されてきた真偽不明情報のLINEメッセージ

※友人から送付されてきた真偽不明情報のLINEメッセージ

 私にこのメッセージを送ってくださった方々は、大企業の経営者や行政情報に精通されている方など、一般的にとても優秀だと評価される皆さんでした。

 インフォデミックとして拡がる情報は、漂白剤を飲めば新型コロナウイルスが治るといったような明らかなデマ情報ばかりではなく、上記のように論理的にあり得そうだなという情報も飛び交います。

 そして私の方から、同僚議員や政府関係者の方々に「現時点でこうした状況にありますか?」と尋ねたところ、上記の噂メッセージを見た人はいるけれど、ファクトとして実証できる情報は私の知るところでは誰もキャッチしておりませんでした。

 このような情報を私にメッセージを送って下さった方々に伝えると、「一馬ちゃんは、野党の国会議員だからこういう機密情報は入ってこないんだろう」というリアクションでした。

 なので、与党の先輩議員がFacebook投稿されていた「4月1日のロックダウンは官邸に確認したらデマだから注意しろ」という趣旨の投稿をスクリーンショットに撮って送ってみました。

先輩議員のFacebook投稿

※先輩議員のFacebook投稿(抜粋)

 すると、「この与党議員もまだまだ若い議員(2期生50代)だから重要情報は入ってこないんだろう」という反応が多くありました。

 しかし私が話を聞いた同僚議員には、与党の国会対策委員会、厚生労働部会の中心的な役割を果たしている情報としては逸早くキャッチできる方々から情報収集をしておりましたので、その方々のお名前を挙げながら、「今のところ、そんな話は全く聞いていない。何かあればすぐに連絡をする」と言ってくれていますよと伝えると、「官邸の一部の人しか知らない重要情報だから政府与党の重鎮にも話が流れていないんだよ」という趣旨の返答が複数ありました。

 そうこうしているうちに、安倍首相が「デマやフェイクニュースに気を付けなければならない」と否定し、菅官房長官が「事実はない」と明確に否定したとされる4月1日説を強く否定する報道がなされました。

4月1日説は「デマ」 緊急事態宣言めぐり―安倍首相(時事通信)
緊急事態宣言、4月1日に出すという事実ない=菅官房長官(ロイター)

 ここまでく来れば流石に4月1日の緊急事態宣言説は根拠がないと感じる方が多くなります。

 しかしながら「安倍首相も菅長官は、4月1日は“事実ではない”と言っているだけだから、メッセージに書いてある通り、4月2日はあり得るよ」「企業の決算時期と重なる年度末までは、日経平均株価を下げるわけにはいかないからそりゃ政府としては全力で否定するよね」という話をされる方もいらっしゃいます。

 ここまでの話で要するに、何が言いたいかというと根拠はなくとも論理的に成り立つ情報を否定することは、ある程度のファクトがあったとしてもとても難しいということです。

 ファクトでの説得を試みる難しさを考察した研究も報告されておりますが、真偽不明なニュースを解釈することに、情報に関するリテラシーや情報処理能力はあまり関係ありません。どんなに頭が良い人でも論理的には成り立つ真偽不明な情報に関しては、気に留めざるを得ず、各々の行動に影響を与えてしまうからです。

現代メディアの諸問題と政治コミュニケーションの今後

※現代メディアの諸問題と政治コミュニケーションの今後(津田大介氏資料より抜粋)

 もちろん、野党の枝野幸男立憲民主党代表からも「フェーズが変わりつつある。補償とセットになった緊急事態宣言を真剣に検討しなければならない段階に入った」と発言が出ているくらいですから、感染が拡大し、状況が悪化すれば、どこかの段階で緊急事態宣言がなされる可能性はあります。

緊急事態宣言を検討する段階と枝野氏(共同通信)

 こうした状況下において、情報の受発信を行うにあたって必要な心得は、

  • 真偽不明な情報が出回っているという事実認識を持つこと
  • 簡単に入手できる根拠のわからない情報に対して一喜一憂して鵜呑みにせず、ファクトチェックを行うこと
  • 情報源がはっきりせず、ファクトチェックができていない情報の発信には十分注意すること
  • どんな状況になっても対応できるようにできる限りの備えをしておくこと

 がやはり重要だと思います。

 インフォデミックが起こる状況は、根本を質せば、政府の日頃からの情報発信に大きな問題があるからです。

 例えば中国においては、政府がきちんとした情報を公開せずに普段から情報が徹底的に管理・検閲していることが政府発信情報の信頼性を損ねており、日本においても政府が今まで様々な事象に対して、隠蔽、改竄、捏造を繰り返してきた結果、市民が政府の情報を信頼できなくなっていることが大きな原因の一つであると考えております。

インフォデミックを根本的に是正するには

 フェイクニュースと呼ばれる表現の分類には、捏造、操作、なりすまし、偽背景、誘導などのコンテンツがありますが、そのいずれも扇動、プロバカンダ、経済的または政治的な利益などを目的とした仕掛けが多く散見されます。

 こうした環境下においてあらゆるフェイクニュースサイトは、デマ情報をファクトチェックせず、鵜呑みにしてしまう情報弱者を狙って、情報を常時発信しています。

 日本においても、インターネット上における虚偽の情報が問題とされた事例として、監修なしで非専門家に安価に執筆させた不正確な医療情報を大量に掲載した「キュレーションサイト」、災害時のデマ、広告収入目的で不正確な情報をまとめる「トレンドブログ」などが大きな社会問題となっておりましたので、その対策が急務であると考えます。

 こうした中、EUでは独立したファクトチェックを行う者を支援することやメディア・情報リテラシー教育に関わる取組を進めるなど様々な対策が講じられております。

 日本においても専門家によるファクトチェックを行う第三者機関への支援やメディア・情報リテラシー教育を進め、インフォデミックが発生する根本を是正するような取り組みを政府へ提案し、前に進めてまいりたいと思います。

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著者プロフィール
中谷 一馬(なかたに かずま) [ホームページ]

衆議院議員(神奈川7区:横浜市港北区・都筑区の一部)/立憲民主党 青年局長(初代)

1983年8月30日生。貧しい母子家庭で育つ。厳しい経済環境で育ったことから、経済的な自立に焦り、中学卒業後、高校には進学せず、社会に出る。だがうまく行かず、同じような思いを持った仲間たちとグループを形成し、代表格となる。

しかし「何か違う」と思い直し、働きながら横浜平沼高校に復学。卒業後、呉竹鍼灸柔整専門学校を経て、慶應義塾大学、DHU大学院に進学。その傍ら、飲食店経営や東証一部に上場したIT企業の創業に役員として参画する中で、人の役に立つ人生を歩みたいと政界進出を決意。

元総理大臣の秘書を務めた後に、27歳で神奈川県議会における県政史上最年少議員として当選。県議会議員時代には、World Economic Forum(通称:ダボス会議)のGlobal Shapers2011に地方議員として史上初選出され、33歳以下の日本代表メンバーとして活動。また第7回マニフェスト大賞にて、その年に一番優れた政策を提言した議員に贈られる最優秀政策提言賞を受賞。

現在は、立憲民主党 青年局長(初代)、科学技術・イノベーション議員連盟 事務局長として多方面で活動中。