ネット投票で在外邦人や障害者にも平等な投票環境を―超党派の国会議員7人が集う (2018/4/20 政治山)
4月18日、東京・永田町において「インターネット投票の実現に向けて-諸課題と検討状況」と題したセミナーが開催されました。主催したインターネット投票研究会によると、参加者数は約130人、議会関係者に加え市民団体や民間企業など幅広い層が参加し、会場は満席となりました。
2017年10月の衆院選では、台風の影響により複数の地域で投票時間が短縮され、開票が遅れました。その後、野田聖子総務大臣と河野太郎外務大臣が相次いでインターネット投票の検討に言及し、現在は総務省の「投票環境の向上方策等に関する研究会」において、具体的な検討が行われています。
ネット投票にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。ネット投票に関心を持つ国会議員と、民間の立場から研究・推進するメンバーによるセミナーの様子をご紹介します。
ICTで運用面の課題も解決できる
はじめに、主催者挨拶として登壇したのはインターネット投票研究会の主査を務める湯淺墾道(ゆあさ・はるみち)情報セキュリティ大学院大学教授。総務省の研究会委員でもある湯淺氏は「2013年のインターネット選挙運動の解禁から5年経つが、この間も法的・技術的・実務的(運用面)などさまざま視点からインターネット投票の検討を重ねてきた。近年サイバー攻撃のリスクは高まっているが、セキュリティも進化している。運用面の課題もICT技術で解決できる部分が大きい。このセミナーを通じて、実現のためのボトルネックを明らかにしていきたい」と述べました。
総務大臣にネット投票を提言
続いて、自由民主党の鈴木隼人 衆議院議員が基調報告に立ち、昨年(2017年)12月に「若者の政治参加検討チーム」として、野田聖子総務大臣に対して主権者教育の推進とインターネット投票の解禁、被選挙権年齢の引き下げなどを提言した背景に触れ、以下のように問題提起しました。
「20代の低投票率を重要な課題として認識している。およそいつの時代も20代以降の投票率は徐々に上がっていって60代後半から70代でピークアウトしていくが、実はその上昇率は大きくは変わらない。つまり、今の20代の低投票率に上昇カーブを当てはめて考えると、今から40年後、投票率がピークを迎えるときの世代投票率が50%を切ることになりかねない。もっとも投票率の高い年代の投票率が50%を切れば、国政選挙における投票率が30%台になる可能性もある。これで健全な民主主義を実現していると言えるのか」
このように警鐘を鳴らした鈴木議員は、若者の投票率が80%を超えると言われるスウェーデンの事例なども紹介しつつ、主権者教育や模擬投票を通じて身近な政策実現を体験できる機会を提供することで、若者の社会参画を促すことの重要性を強調しました。
その上で、上昇カーブの起点となる若者の投票率向上にはインターネット投票の解禁は欠かせず、身近な郵便局やコンビニでの投票も検討すべきとして、基調報告を締めくくりました。
衆参両院から、超党派の7人が登壇
続いて行われたパネルディスカッションには、日本維新の会 浦野靖人衆院議員、希望の党 柿沢未途衆院議員、自由民主党 鈴木隼人衆院議員、立憲民主党 中谷一馬衆院議員、民進党 牧山弘恵参院議員、公明党 三浦信祐参院議員、自由民主党 山下雄平参院議員の7人が登壇。
有識者として総務省の研究会委員も務める、情報セキュリティ大学院大学 湯淺墾道教授と東北大学 河村和徳准教授も参加し、情報通信政策フォーラム 山田肇理事長がコーディネーターを務めました。
在外邦人と障害者の投票環境向上に有効
1つ目のテーマ「インターネット投票の実現に向けて」では、実質投票率が2%ほどに留まる在外邦人の投票機会や障害者の投票環境をどのように改善するのか、紙の選挙と比較した場合にどのようなメリット・デメリットが考えられるのか、登壇者がそれぞれ見解を述べた上で、とくに投票機会を逸失している有権者に対する投票環境の向上には有効であるとの共通認識のもとインターネット投票実現の道を探りました。
2つ目のテーマ「選挙情報のオープンデータ化について」に先だって、視覚障害を持つ当事者として社会福祉法人日本盲人会連合参与 大胡田誠(おおごだ・まこと)弁護士が登壇し、障害者からみた投票のハードルの高さと、候補者などの選挙情報が決定的に不足している実情を訴えました。
すべての有権者に必要な情報を
続いて、視覚障害者向けに選挙情報を届けるwebサイトを開設し、本セミナー開催にも協力しているヤフー株式会社の妹尾正仁 政策企画本部長が「聞こえる選挙」の取り組みを、選挙情報のデータベースを蓄積し情報発信している「政治山」を運営しインターネット投票研究会の事務局も務める株式会社VOTE FORの市ノ澤充 代表取締役が選挙情報の公開状況を紹介しました。
登壇者は、障害者に限らずすべての有権者に選挙情報を届ける必要があるとの認識では一致したものの、選挙公報自体の重要性への疑義やテキストデータ化への慎重な声も聞かれ、政見放送などと合わせて見直すべきとする主張や、民間企業の取り組みに期待すべきといった意見も聞かれました。
インターネット投票の実現に向けて諸課題を検討をしている総務省の「投票環境の向上方策等に関する研究会」は、今夏には研究成果を取りまとめる方針です。来年(2019年)の参院選に間に合うのか、2022年の参院選で大きく前進するのか、議論の行方に注目が集まります。
(パネルディスカッションの詳細は、別途ご紹介します)
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