【衆議院議員選挙2014】
安倍内閣の長期政権化が、日米関係にもたらすもの (2014/12/4 早稲田大学公共政策研究所地域主権研究センター招聘研究員 渡瀬裕哉)
12月2日に公示された衆議院議員選挙ですが、どのような結果になろうとも新しい政権にとって日米関係が最も重要な二国間関係であることに変わりはありません。そこで、今回の選挙が今後の日米関係に与える影響について、米国議会の実情に詳しい早稲田大学招聘研究員の渡瀬裕哉氏に寄稿いただきました。
「代表なくして課税なし」は米国への政治的メッセージ
現状までの世論調査の動向などを鑑みると、総選挙後の政治情勢は自民・公明による安定政権が継続することになる可能性が高い状況となっています。そこで、本論では自公長期政権化、特に安倍内閣の長期政権化という前提で、日米関係はどのように変化していくかについて考察します。
安倍政権は発足以来、米国が掲げる自由と民主主義の価値観に沿った外交・安全保障政策を推進しています。そのため、安倍首相の海外における各種スピーチにおいても常に米国を意識したような内容が盛り込まれており、日米の協調関係がアピールされています。
今回の解散総選挙に際しても、あえて11月18日の記者会見で「代表なくして課税なし」という米独立戦争時の標語を引用する等、米国側に政治的なメッセージを送り続けているように見えます。
米軍基地やガイドライン改訂よりも価値観の共有が課題
ただし、安倍長期政権が今後難しい政治課題をクリアしていく中で、対米関係に困難な状況が発生する可能性があります。一般的には沖縄県普天間基地移設問題や日米ガイドライン改訂が挙げられると思いますが、これらについては日米両政府が進展しないことを織り込み済である可能性があるため、日米間の信頼を棄損する状況に陥るほどのことにはならないと思います。
むしろ安倍政権が、米国から自由の価値を本質的に共有していない政権であると見なされることこそが日米関係における最も大きなリスクです。なぜなら、米国から中国も日本も似たような存在とされ、非常に難しい国際環境を作り出しかねないと予測されるからです。
具体的には、良好な日米関係を保つためには、安倍政権のイデオロギー的な傾向の表面化をどのように抑えるかが課題となります。
「戦後レジームからの脱却」が日米関係を厳しくする
例えば、自民党が掲げている極めて前近代的な価値観による憲法改正、そして安倍政権が有する復古主義的な日本観を米国がどのように捉えていくかは極めてセンシティブな問題です。米国で影響力を拡大している共和党保守派は、国民の自由に対する意識が極めて高く、今後、安部政権の復古的な体質に徐々に気が付いていくことになるでしょう。
安倍首相がかつて掲げていた戦後レジームからの脱却こそが安倍政権の本質であると想定した場合、戦後日本と良好な関係を築いてきた米国との関係は厳しい状況に置かれることになります。
また、現実的な外交・安全保障に関する状況として、共和党は民主党よりも対中政策でタカ派の印象を有することで親日的という一般的な印象がありますが、すでに東欧・中東などにリソースを割いている米国が、安倍政権の中国に対する挑戦的なスタンスを許容するかは不明瞭です。そもそも共和党保守派は軍事予算の拡大に賛成していないため、日米同盟を含めたアジアの安保体制の強化は一筋縄ではいかない状況です。
日米関係の今後、安倍政権の本質が問われる展開に
今後、一層アジアにおける中国の影響力が強まり続ける中で、米国から見て安倍政権が自由と民主主義という普遍的な政治理念を共有できる政権であるか否か、ということが問われていくこととなりますが、それに十分に応えられないならば、米国側は普遍的な価値観を共有できない国として、中国・日本の双方を同質的な権威主義国と捉えた上で外交政策を推進することが予想されます。
すでに起きている昨今の米中接近は、アジアにおける米国のイデオロギー的な同盟国としての地位を日本が失いつつあることの証左と言えます。
国際舞台における表面的な美辞麗句ではなく、今後の日米関係はイデオロギー的・実務的に実質が求められるようになります。将来の増税を確約させるための選挙において、「代表なくして課税なし」という本旨を外した言葉を用いるような認識で、難局を迎える日米関係を乗り切れるとは思えません。今後、安倍政権の本質が米国によって問われることになります。
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