【参院選】海外紙「投票率が低いのは、安倍氏のナショナリズムへの懸念では?」 NewSphere(ニュースフィア) 2013年7月24日
21日の参院選で、自民党は圧勝した。これにより、自公両党での過半数を確保し、参院で与党が少数の「ねじれ国会」が解消された。
繰り返される「経済最優先」のスローガン
安倍氏は、昨年12月の衆院選での圧勝後「規格外」の金融緩和策など、積極的な経済政策「アベノミクス」を進めつつも、6月の参院選を見据え、「政治に本当の意味で本腰が入れられるのは、参院選で勝ったあと」と述べてきた。
今回の大勝によって、2006年に5年間続いた小泉政権終結以来、初の「長期政権」となる見通しの安倍政権。安倍氏が手にした、「権力」が、日本経済再生をもたらすことを期待する声は大きい。他国に遅れて交渉に臨むTPP、世界有数の負債額、進む一方の少子高齢化、年金問題、消費税増税、高値を更新し続ける燃料費、未だ収束の気配がない福島第一原発と、停止された原発の再稼働問題・・・。安倍氏が取り組むべき経済問題はまさに山積みだ。
安倍氏はこうした経済問題に最優先で取り組むと、繰り返し述べてきた。今回の選挙後も、「国民は自民党の経済政策を信任してくれた」と分析したうえで、「今、国民が最も求めているのは全国津々浦々まで実感できる強い経済を取り戻すことだ。仕事環境が向上し、賃金が上がり、個人消費が活性化され、企業がより投資にお金をかけるという、ポジティブな連鎖がうまれるよう全力を尽くす」と述べている。「憲法改正には、時間をかけた論議が必要だ」とも述べている。
日本国民が安倍氏に託したものとは?
では、今回の選挙戦を通じて、日本人はどのように「民意」を表明したのか。自民圧勝の一面、今回の参院選の特徴は、52.61%という低い投票率だった。投票に「行った」日本人と「行かなかった」日本人。それぞれの思いとはなんだったのか。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、企業人、経済人の「素早い経済改革」に寄せる熱い思いと、街角のさまざまな意見を紹介している。
「経済改革を進めてほしいという一念のみで自民党に投票した」という若者。
「中国が台頭し、果敢に攻めてくるなかで、国を守るためには軍隊が必要」という壮年女性。
「自民党が圧勝すれば、安倍さんの政策への歯止めがきかなくなってしまう。対抗勢力が強くなければいけないと思うが、魅力ある政党がない」として投票しなかった会社員女性。
「共産党に投票した。自民に反対してほしいから」とする壮年男性。
それらが浮き彫りにするのは、国際的に力を持つ国家づくりを期待しつつ、暴走を懸念する日本人の複雑な心情だ。同紙は、投票率の低さは、安倍氏のナショナリズムに対する国民の懸念の表れだと指摘している。
安倍氏のナショナリズム
安倍氏が経済再生と同時に、日本にもたらそうとしている変化とは、集団的自衛権に関する憲法解釈を緩和がある。北朝鮮が同盟国であるアメリカにミサイルを発射した場合などに「自衛権」を行使できるようにすること。そして、攻撃が「差し迫っていて」「ほかに取れるべき手だてがない」場合に、敵基地を攻撃できるようになることなどがこれにあたる。
さらに、軍隊の保有を禁じる憲法9条に反する、海兵隊の創設計画もあるという。これは、中国との熾烈な領土問題の舞台である、尖閣諸島などの離島を守るためのものだと報じられている。
日本が「誇り高い」「普通の国」になるためには、「自衛」隊ではなく「国防」軍が必要だ。そのためには憲法改正が必要。 靖国参拝は、国のために命を捧げた英霊を悼むという国民として当然の行為であり、個人の思想の自由によるべきだ。
安倍氏はそうした主張を、折に触れて繰り返してきた。
安倍氏の本音
選挙終盤、安倍氏は街角の選挙演説で、日の丸を背に、こう叫んでいた。
「誇り高い国にするために、憲法を改正しようではありませんか!」
聴衆のなかからは「そうだ!」という力強い声が返っていたという。
「決められる政治によって、この道をぶれずに前に進んでいけと、国民の皆様から力強く背中を押していただいたと感じております。まず自由民主党を応援をしていただきました国民の皆様に心よりお礼を申し上げたいと思います」
安倍氏の選挙後の発言は、国民の信任が「経済だけではない」という自信を感じさせる。インディペンデント紙(英)は、そうした姿勢から、自民党が、憲法改正に消極的な公明党を「切り捨てる」可能性を見ている。
中国との領土問題が「一触即発」であり、「何かが起こってもおかしくない」と専門家が指摘する現状において、「現実主義」の仮面の向こうに垣間見える安倍氏の「ナショナリスト」の素顔と意外性。これからの「安倍政権」が注目され続けることは間違いない。