防衛費、過去最大の5兆円を海外はどう見た? 向上する自衛隊と米軍の相互運用性 ニュースフィア 2015年12月28日
政府は24日、2016年度の予算案を閣議決定した。一般会計の歳出総額は96兆7218億円で、過去最大となる。防衛費に関しても、過去最大、初の5兆円台となる。中国が海洋での主権主張を強めていることや、今年9月に国会で安全保障関連法が成立したことを背景として、多数の海外メディアがこの防衛予算案に注目した。
◆尖閣諸島に対する中国の主権主張への警戒
2016年度の防衛費は、今年度から1.5%(740億円)増の5兆541億円とされた。今年度の4兆9801億円がこれまでの最高額だった。
主要メディアはいずれも、第2次安倍政権が2012年12月に発足して以来、防衛費は4年連続での増加となることを記事の始めのほうで言及している。それによって、防衛費の増額は安倍政権の傾向だと示している。AP通信は、安倍首相が10年間続いた減少(傾向)を(2013年度予算で)終わらせた、と語る。なお、2015年度の防衛費は対前年度比2.0%増、2014年度は同2.8%増で、2016年度の伸び率が際立って高いというわけではない。
だが、中国が東シナ海、南シナ海で、強引な主権主張を展開しているという事情が、この予算案についての海外メディアの関心を高めたようだ(22日には、中国海警局が、尖閣諸島周辺の日本の領海のすぐ外側の接続水域で、初めて機関砲らしきものを搭載した船を航行させるという事案もあった)。
防衛費が過去最大となることについて、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、中国との領有権問題の中心にある離島(尖閣諸島)の防衛強化という安倍首相の願望を反映したもの、と語る。ブルームバーグは、中国が地域においてますます主張的な軍事的姿勢を取っている中、島国日本の領海と領空の安全を確保することを求めてのものだと説明した。
それを裏付ける事実として、新たに購入が決められた防衛装備の多くが、離島防衛を主眼に置いたものであることをWSJやAP通信が伝えている。例えば、水陸両用車、垂直離着陸輸送機オスプレイ、機動戦闘車などである。機動戦闘車は戦車よりも離島への配備が容易である、とWSJは説明する。AP通信は、日本は南西諸島の監視と防衛を強化しつつある、と述べ、来年度予算には、弾道ミサイル防衛能力を有する先進的イージス艦、潜水艦の建造費、新型ソナー開発費用も含まれる、と伝えた(高額の装備に関しては支払いは複数年に分けて行われるものが多い)。
WSJは、防衛省が、尖閣周辺により多くの部隊とレーダーを配備する準備と、米海兵隊と同様の、上陸作戦を行う部隊の創設準備を進めている、と伝える。国際大学の教授で元自衛官の山口昇氏は、予算案は機動性に重点を置いたもの、すなわち重大局面の際に、本州から南西諸島への部隊の移動をより容易にするものだとWSJに語ったという。
◆日米防衛協力の強化に向けた高額装備の調達
主要海外メディアは残らず、9月に国会で安保法が成立したことにも触れている。成立後初の防衛予算案だと強調しているメディアも多い。安倍政権が、日本の軍事的役割の拡大や、同盟国アメリカとの協力の深化を図っていることも、防衛費の増大に結びついているという見方のようだ。AP通信やWSJは、4月に日米両政府間で「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」が改定されたことにも触れ、その見方を強調している。
AP通信は、中国が地域の海洋でますます主張的な活動を行っている中、日本政府は米政府との協力を強化している、と背景を説明する。そして、この予算案の閣議決定は、高価なアメリカの無人偵察機や、ジェット戦闘機F-35の購入計画を承認するものだとした。来年度は、翌年度以降の支払い分も含め、無人偵察機「グローバルホーク」3機(146億円)、6機のF-35(1084億円)、1機の空中給油機ボーイングKC-46A(231億円)が予算に計上される。
AP通信によると、防衛省官僚が「この予算には、ISR(情報、監視、偵察)分野で、日米の協力強化に寄与するだろうアイテムが含まれているとわれわれは考えている」と語ったそうだ。またロイター(日本語版)は、装備は離島防衛強化と米軍との共同運用を主眼に置いて調達すると説明している。WSJは、(取得する)航空機の多くはアメリカで開発されたもので、防衛省が、それによって自衛隊と米軍の相互運用性が向上するだろうと語っていると伝える。円安のために、米製兵器の取得費用が上昇している、とも指摘した。
◆実は普天間基地の移設費用と自衛隊の人件費上昇が最大要因?
このように、防衛費増額のメインファクターとして、尖閣諸島に対する中国の領有権主張への警戒を挙げたメディアが多い中、ロイターは他とは一線を画した見方をしている。来年度の増額について、ロイターは、米軍基地の移設費用と、人件費の上昇によって余儀なくされたものだ、と語った。日本語版では、740億円の増額分のうち半分を米軍再編費が占める、と語る。その中でもとりわけ大きいのが普天間基地の移設費で、今年度の244億円から595億円へと、351億円の増額となっている。
自衛隊関連の費用では、今年度からの増額分が386億円のところ、351億円を人件・糧食費の上昇が占めているという。英語版では、民間の賃金上昇を反映して、自衛隊でも人件費が上昇している、と説明している。日本語版では、(その反面)南西諸島の防衛力強化に振り向ける予算は限られている、と報じた。