【社会】過疎地区の学校や役場に、350体のかかしを設置 一人の女性の取り組みが海外で話題、ツアー客も来訪 ニュースフィア 2014年5月12日
福島県の奥地に、人口37名の集落、名頃地区がある。以前は林業や名頃ダムの建設工事などで栄えており、ピーク時の1955年には人口9000人程を数えたという。
この地域に、一人の女性が、350体におよぶ案山子(かかし)を設置。一風変わった景色がつくりあげられている。
案山子の創作者は、名頃で生まれた小椋辰幸さん(64歳)。11年前に大阪から故郷に戻り、淋しい雰囲気を少しでもまぎらわせるために始めた案山子作りが話題を呼び、国内外から注目されるようになってきた。最近は、ドイツ人フィルムメーカーのFritz Schumannさんが制作した映像「The Village of Dolls」が、多くの海外メディアに取り上げられている。
案山子の裏にあるドラマ
小椋さんは、名頃に住む父親(83歳)と同居するため、大阪に家族を残し故郷に戻ってきたという。時間を持て余していた当初、畑に大根などの野菜の種を蒔いてみたがうまくいかったため、なんとなく案山子を作ってみたのがきっかけだったと各紙は紹介している。
作品第1号は父親をモデルにしたという。その案山子を畑に設置したところ、閑散とした雰囲気が少し紛れたため、その後も続々と案山子を作ってきた。モデルは、職を求めて都会へ出て行く人や、亡くなってしまった人などだ。彼らの笑顔や楽しかったひと時を思い出しながら、制作に励んでいるそうだ。
等身大の案山子があちこちに置かれていることを気味悪く思う人もいるようだ。しかし、小椋さんは1体ずつ思いを込めて、町並みに自然に溶け込むものを作っているため、奇抜さというよりノスタルジックな雰囲気がある、と英ガーディアン紙は紹介している。
また、美しくまとめられたドキュメンタリー映像では、彼女が「大きな病院は遠くにあるため何かあれば命はないと思っている。死ぬのは怖くない」などと語るシーンもある。衰退する山間地区を守ろうとする女性の思いや、都市化の歴史、人類の存在のさみしさなどを映し出している、とハフィントン・ポスト(米国版)も賞賛している。映像を観た読者からも、「人との親交、社会の変化、コミュニティの喪失などが描かれていて胸を打たれた」と、感動をつづるコメントが寄せられている。
国内外から注目
10年かけて地域おこしとして定着した小椋さんの活動は、国内外から注目を集めるようになってきている。おかげで観光客も訪れるようになり、「生きている人間に出会える」と彼女自身も喜びを表している。
オーストラリアでは、秋にツアーを組む会社もあるようだ。ツアー会社は、名頃について、地図上には表示されていないうえに、数年内には住民がいなくなってしまう可能性もある、とその希少価値を訴えている。
また、道沿いなどに設置された案山子は、訪れた人々には見つけやすい上に、グーグルのストリートビューでその様子を見ることができる、とクリエイティブサイト『The Verge』は報じている。