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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第2回 議員が実践する首長マニフェスト評価~八戸市議会石橋充志議員の取り組み~ (2013/6/13 早大マニフェスト研究所)

関連ワード : 八戸市 小林眞 石橋充志 

5月からスタートした早稲田大学マニフェスト研究所による新コラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第2回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。月イチ連載ですが、今月は特別編成で2週連続でお届けします。

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 マニフェストは、選挙のためだけの道具ではありません。数値目標や期限、財源、工程表が明示され、事後検証が可能な具体的な選挙公約がマニフェストですから、その約束を実現できるかどうかが重要になります。約束の実現には、当選後に、マニフェストを実現するための実行体制を役所の中に構築し、マニフェストを行政計画化し、定期的にその実行の状況を評価することが大事です。このマニフェストを作成し、選挙を戦い、当選後に実行体制を構築し、それを評価し、内容をブラッシュアップさせるといった一連のプロセスを「マニフェスト・サイクル」と言います。このマニフェスト・サイクルを確実に回すことで、マニフェストを起点にして、地域に変化が起き、われわれの生活が大きく改善されます。

 このマニフェスト・サイクルの中でも鍵となるのが、マニフェストの評価の部分です。そのマニフェスト評価に関して、今回と次回の2回に渡り考えてみたいと思います。今回はまず、首長、執行部と対峙(たいじ)し、二元代表制の一翼を担う議会の議員が行う首長のマニフェスト評価の事例として、第4回マニフェスト大賞で、最優秀アイデア賞を受賞した八戸市議会の石橋充志議員の取り組みを紹介します。

マニフェスト評価は誰が行うのか

評価のまとめシート

評価のまとめシート

 市長のマニフェストの評価は、誰が行わなければならないのでしょうか。当然、マニフェストを掲げて選挙を戦い、当選した市長が、市民との約束が果たせているか否か、マニフェストがどれだけ実現したかどうか、自己評価を実施する必要があります。また、そのマニフェストが総合計画など行政計画化しているのであれば、政策評価の一環として、行政が行う場合もあります。行政が行う評価も広い意味での自己評価に含まれますが、自己評価の場合、評価が手前みそになり、どうしても甘い評価、都合の良い評価になりがちです。そうした自己評価の欠点を補うものが、マニフェストの第三者評価です。

 マニフェストの第三者評価を行う主体もさまざまあります。二元代表制の一翼を担う市議会が、議会として市長のマニフェストを評価することも考えられます。その議会を構成する議員個人が評価することも必要です。専門家の立場から、研究者やシンクタンクが評価する場合もあります。マスコミが報道機関として、評価することもできるでしょう。そして、われわれ市民が、主権者たる市民の立場、市民の感覚で評価することも、もちろんできます。その中でも、『地方自治法』で、行政を監視、チェックする権限が付与されている、議会、議員が、マニフェストの第三評価を一義的に行う役割、責任があると思います。

市長の評価は市民意識とかけ離れている

市民に評価を説明

市民に評価を説明

 石橋議員の問題意識のスタートは、八戸市の小林眞市長が行っているマニフェストの自己評価が、市民感覚と乖離(かいり)しているのではないかというところからでした。2005年に初当選した小林市長は、毎年、自身のマニフェストの進捗状況に関して自己評価を行い、公表していました。

 その自己評価は、政策の進捗のみにフォーカスされ、「実施率」「着手率」の2つの評価の軸で評価されています。事業がスタートすればその効果に関わらず即実施率としてカウント、検討を始めると着手率に数えるため、おのずと高い実施率(85.2%)、着手率(98.3%)の数値が出ていました。

 そんなに高い実施率、着手率の数字で、八戸市民の生活は改善されているのか。行政サイドの立場で事業着手され、「高い実施率だからよかった」ではなく、地域社会、地域住民にとって政策、事業が有益であったかどうかといった視点からの評価も必要ではないのか。まさに、「インプット」資源の投入量で評価するのではなく、「アウトカム」それによる質的変化を対象とした事業検証ということです。

 石橋議員はそうした観点から、小林市長のマニフェストに掲げられた168の事業を、政策が実施できたかどうかという「達成度」、マニフェストに掲げられた政策がそもそも必要なのかどうかといった「必要性」、政策が地域住民に理解され、課題解決、市民生活の向上につながっているかといった「有効性」の3つの評価軸を設定して、議員として評価を行うことにしました。

議員の市長マニフェストへの向き合い方

地域の皆さんと

地域の皆さんと

 小林市政の1期4年のうち3年が経過した2008年、石橋議員はまず、マニフェストに掲げられた168の事業を担当する課にヒアリングを行いました。そもそも自分の課の事業と市長のマニフェストの関連性が理解できなかったり、事業の進捗状況を管理していなかったり、議員に対して過度に警戒したりと、職員の反応はさまざまだったようです。

 そのヒアリングを踏まえて、市民感覚と自分の感触の視点で独自に採点し、全体で、それぞれ100点満点で、必要性77.5点、達成度71.5点、有効性52.8点の評価をしました。ヒアリングのスタートから取りまとめまで、3週間の時間を要しました。

 その結果は、議会の一般質問で公表し、小林市長と論戦を戦わせました。市長は、点数が低いことに不本意だったようですが、議会の場で評価を取り上げたことには大きな意味があります。これまで八戸市議会では、小林市長のマニフェストの中でも目立つものだけをピックアップして質問する議員ばかりでした。また、議員が定量的に政策を評価する意味が理解されず、点数化することに否定的な議員も多かったようです。

 このマニフェスト評価の取り組みは、2008年以降、小林市長2期目の2011年、2012年の計3回実施されています。石橋議員は、議員による市長マニフェストの評価の取り組みについて、「市長マニフェストの評価を通して、各種政策、事業の有益性や、行政全体に対する大きな気づきを得ました。マニフェストは、議会として単なる首長との対立の道具とするのではなく、相互に成長し合える緊張感ある関係づくりの手段としていかなければならない」と話しています。

 マニフェストの評価は、さまざまな主体が、それぞれの視点、評価軸で行うことが大事です。石橋議員の評価の仕方も、市民の代表者であり、市民に身近な議員だからこそできるオリジナルなものです。また、市民1人ひとりがマニフェストの状況を評価するには難易度が高いので、プロフェッショナルである議員が評価をし、市民に説明する役割もあります。石橋議員も自身の市政報告会の場などを活用し、マニフェスト評価の結果を分りやすく説明しています。

議員が市長マニフェストを評価する意義

せんべい汁と石橋議員

せんべい汁と石橋議員

 石橋議員の取り組みから、議員が市長マニフェストを評価する意義を、次の3点にまとめたいと思います。

 1つ目は、議員としての政策評価能力の向上です。「事業仕分け」のように、これからの地方議員には、政策を評価する力が必要となります。その政策評価能力をマニフェストの評価を通して、身につけることができると思います。また、マニフェストを評価することで、市政の課題に気づき、それが議会活動にもつながっていきます。

 2つ目は、市長への適度なプレッシャーです。どうしても首長や行政の自己評価だけでは、甘い評価になってしまいます。チェック機関である議員が、マニフェストを網羅的に、また継続的に評価することは、首長にとってもよいプレッシャーになると思われます。ここから、議会と執行部との「善政競争」の関係も生まれてきます。

 3つ目として、職員の意識改革です。八戸では石橋議員の取り組みにより、職員に「マニフェストは評価されるものだ」という意識が定着したと思います。石橋議員は、足りないところは指摘し、うまくいっているところは褒めるといったスタンスで職員に接しているようです。そうした、慣れ合いでも、文句を言い合うだけでもない、議員と職員の緊張感のある良い関係を生みだすことも期待できます。

 首長のマニフェストを評価する役割と責任を有しているのは、一義的にはチェック機関である議会であり、議員です。しかし、首長のマニフェスト、政策をすべて評価するには労力がかかること、政策評価を議員の重要な仕事だと位置付ける議員がまだ少ないこともあり、石橋議員の取り組みをまねする議員がなかなか現れてこないのが現状です。自立した「地方政府」実現のためにも、石橋議員の実践している議員による首長マニフェスト評価の取り組みが、全国に広がってもらいたいと思っています。

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佐藤淳氏

青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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