第1回 マニフェスト大賞が誘発する地域の善政競争  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第1回 マニフェスト大賞が誘発する地域の善政競争~「マニフェスト大賞2013キックオフミーティング in 静岡」開催~ (2013/5/9 早大マニフェスト研究所)

関連ワード : 川勝平太 田辺信宏 鈴木康友 静岡 

 今回から、早稲田大学マニフェスト研究所によるコラムは、新シリーズがスタートします。タイトルは「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。掲載は、毎月第2木曜日。月イチ連載です。

◇     ◇     ◇

 マニフェストが日本の政治に登場し、今年で10年になります。地方政治ではその間、地域の首長や議会、自治体職員、市民などによって、マニフェスト、日本の民主主義は確実に進化してきました。また、これからの地方自治体は、国と対等協力の関係、自治立法権、自治行政権、自治財政権を有し、自立した『地方政府』にならなければなりません。新連載「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」では、マニフェストを切り口に、全国で実践されている、首長、議会、行政職員、市民の先進的な取り組みを紹介するとともに、真の『地方政府』の実現に必要なものは何かを具体的に考えていきたいと思います。

マニフェストで地方政治は変わったのか

マニフェスト10年を総括する北川正恭早稲田大学マニフェスト研究所所長

マニフェスト10年を総括する北川正恭早稲田大学マニフェスト研究所所長

 マニフェストは、選挙を「お願い」から「約束」に変えるもの、そして、政治をより有権者に近づける道具です。国政では、民主党政権の失脚により、マニフェストに対する信頼は一部失墜した部分はありますが、地方政治では、地域の首長、議会、自治体職員、市民の努力により、マニフェスト、日本の民主主義は確実に進化しています。地方を中心に、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営が定着し始めています。

 マニフェスト運動を全国に広めるため、また、これまで注目を集めることが少なかった地方自治体の首長、議員や地方分権を支える市民の活動や実績を表彰するために始まった「マニフェスト大賞」も、2013年で開催が8回目になります。第8回マニフェスト大賞に向けて、4月24日と25日、静岡市で、「マニフェスト大賞2013キックオフミーティング in 静岡『マニフェストで地方政治は変わったのか?変えられるのか!?~誕生10年の総括とこれから~』」が開催されました。キックオフミーティングでは、歴代のマニフェスト大賞受賞者の事例報告が、首長部門、議会部門、市民部門の3部門で行われました。

 今回のコラムでは、マニフェストで地方政治が変った証左として、キックオフミーティングで発表された事例を簡単に紹介していきたいと思います。

マニフェスト大賞は地方分権時代のバイブル

【首長部門】
○川勝平太 静岡県知事
 第7回マニフェスト大賞でグランプリを受賞した静岡県の川勝平太知事は、当選後取り組まれているマニフェスト・サイクルについて話されました。川勝知事は、知事就任から9カ月後の2010年4月に初年度のマニフェストの進捗状況を取りまとめました。2年目にはマニフェストを発展的に継承した総合計画を策定し、マニフェストを行政計画化しました。3年目には、各政策について、県の各部局による自己評価、総合計画審議会、県議会、パブリックコメントによる外部評価を行い、その評価の結果を「ふじのくにづくり白書」にまとめ県民に公開するなど、マニフェストを軸にスピード感を持った行政運営を行っています。

川勝静岡県知事、鈴木浜松市長、田辺静岡市長、参加のパネルデイスカッション

川勝静岡県知事、鈴木浜松市長、田辺静岡市長、参加のパネルデイスカッション

○鈴木康友 浜松市長
 第3回マニフェスト大賞でグランプリを受賞した静岡県浜松市の鈴木康友市長は、マニフェストにも掲げ実際に取り組んでいるファシリティマネジメント、資産経営の話をされました。浜松市は、12市町村が合併してできた最大の面積を有する政令指定都市のため、市内の公共施設の重複、老朽化が大きな課題になっています。鈴木市長は、「資産経営推進方針」を定め、施設評価を実施、評価に基づき施設配置を見直し、2010年から2014年の間に既存施設を20%削減するマニフェストに取組んでいます。

○田辺信宏 静岡市長
 ゲストとして参加いただいた静岡市の田辺信宏市長は、マニフェストがぶち当たる選挙の壁、行政の壁について、ご自身の経験をもとに話されました。マニフェストは読んだ有権者がワクワクするものでなければならない。しかし、財源もしっかり考慮して、夢と現実のバランスが取れたマニフェストが求められます。また、マニフェストを実現させていくには、市の職員、そして、市民を巻き込まなければなりません。官民の力を結集するために、「官民連携地域活性化会議」を立ち上げ、提言するだけではなく行動する審議会、「DOタンク」を目指しています。

活動を報告する静岡市議会新政会の遠藤広樹議員

活動を報告する静岡市議会新政会の遠藤広樹議員

【議会部門】
○静岡市議会新政会
 第5回マニフェスト大賞で優秀賞を受賞した静岡市議会新政会は、2011年の静岡市長選挙に際して、田辺市長と、政治姿勢、基本政策、個別政策について政策協定を結びました。また、選挙後は、市長マニフェストと政策協定の整合性を確認するとともに、定期的に市長と政策・情報交換会議を開催し、年度毎に政策提言を取りまとめ提出しています。

○豊田市議会自民クラブ議員団
 第7回マニフェスト大賞で優秀賞を受賞した愛知県豊田市議会自民クラブ議員団は、現状調査や市民の方からの意見を参考に、「豊田市議会自民クラブ未来ビジョン」を作成しました。それをもとに、毎年度「予算への要望書」を作成するとともに、議会での一般質問による進捗状況の確認や、「未来ビジョンチェックシート」により、成果の確認、評価を行っています。

○自民党横浜市会議員団
 第7回マニフェスト大賞で優秀賞を受賞した自民党横浜市会議員団は、二元代表制の一翼として、議会の力を最大限に発揮するには、条例制定権を使うことだという思いから、2011年の選挙の際に、8つの条例制定を掲げた会派マニフェストを作成しました。当選後、会派の中に8つの条例プロジェクトチームを組織して勉強会を重ね、素案を策定するとともに、他会派への働きかけも行い、条例制定を目指しています。

○倉敷市議会青空市民クラブ
 第7回マニフェスト大賞でグランプリを受賞した岡山県倉敷市議会青空市民クラブは、2009年に実施された選挙で、5つのテーマにまとめられた会派マニフェストを掲げて戦いました。選挙後には、定例会ごとに会派所属議員が会派マニフェストの内容を一般質問で取り上げました。また、毎年、会派マニフェストの自己評価を行い、4年目には有識者や市民による第三者評価を実施するなど、会派としてマニフェスト・サイクルを意識した活動を行っています。

牧之原市民の活動を総括する西原茂樹牧之原市長

牧之原市民の活動を総括する西原茂樹牧之原市長

【市民部門】
○牧之原市市民ファシリテーター
 第6回マニフェスト大賞で優秀マニフェスト推進賞を受賞した静岡県牧之原市では、西原茂樹市長がマニフェストで掲げる市民参加協働のまちづくりを実現するために、ファシリテーションの知識を身に付けた市民ファシリテーターが大活躍しています。市民ファシリテーターが中心となり「男女協働サロン」というワークショップの場で、市民を巻き込み、沿岸部の地区では「津波防災まちづくり計画」や、一部の地区では「地区まちづくり計画」の作成を支援しています。

※マニフェスト学校~政治山出張講座~を参照
マニフェストを起点とした市民参加と協働のまちづくり~静岡県牧之原市~
マニフェストを起点とした市民参加と協働のまちづくり

 以上が、キックオフミーティングで報告された取り組みです。このように、マニフェスト大賞には、地方政治における、さまざまな好事例が蓄積されています。これまでの受賞した取り組みには、他の地域でも活用できるヒントがたくさんあります。まさに、マニフェスト大賞は、地方分権時代を生き抜くためのバイブルになるものだと思います。

地域の善政競争が日本の未来を変える

 「地方政府」は、国に依存し国の決めた仕事を担うだけの従来の「地方公共団体」とは大きく異なります。「地方政府」は、国と対等協力の関係であり、国から自立し、自治立法権、自治行政権、自治財政権を有しています。地域のことは地域に住む住民が責任を持って決める。その責任は、首長、行政だけではなく、議会や市民も一緒に担うものです。それが「地方政府」のあり方です。政策には特許はありません。よい政策はどんどんマネをして結構です。新たなよい政策、取り組みが行われ、それをその他の地域がマネをしてさらに進化させる。それが“善い政治”の競争、「善政競争」です。この地域間の「善政競争」が、地方から日本の未来を変える大きなうねりになっていくと思います。その起点に、マニフェスト大賞がなっていると思います。

◇       ◇       ◇

佐藤淳氏

青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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