政経セミナー「専門家の目線で、政治・経済がわかる!」
第1回 緊急報告・トランプ政権の危機-前編- 渡瀬裕哉PAI所長講演 (2017/6/30 パシフィック・アライアンス総研株式会社)
共同ピーアール株式会社とパシフィック・アライアンス総研株式会社が主催する『90分で分かる政経セミナー』は、正確かつ多角的な情報分析を通じて、政治、経済とメディアをつなぐ“場”を提供する政治・経済セミナーです。政治家・学者・シンクタンク・ジャーナリストなど高いインテリジェンス・スキルを持つ専門家をゲストスピーカーにお招きして、2カ月に一度、開催しています。
今後、本コーナーでは当該セミナーを記事コンテンツ化し、セミナーで共有された専門家の正確かつ多角的な情報分析の一部を開示し、より多くの人々に複雑化する社会を分かりやすく伝えてまいります。
2017年6月26日(月)、『90分で分かる政経セミナー(第1回)』が開催されました。第1回となる本セミナーの講演テーマは「緊急報告・トランプ政権の危機」で、講演者は渡瀬裕哉氏(パシフィック・アライアンス総研=PAI=所長)、モデレーターは古賀尚文氏(共同ピーアール代表取締役会長)になります。
この日の講演者の渡瀬氏は、パシフィック・アライアンス総研所長・早稲田大学招聘研究員で、2009年グローバー・ノーキスト全米税制改革協議会議長(ATR)との御縁を得たことをきっかけに共和党保守派との強固な関係を構築。共和党保守派のインナーミーティングである水曜会参加資格保有者で、全米最大級の保守派集会であるFREEPAC2012で日本人唯一の来賓となるなど、現在、ATR、ワシントンタイムズやヘリテージ財団など共和党保守派との幅広い人間関係を持つことで知られています。それらの知見をもとに、2017年3月31日には著作「トランプの黒幕-日本人が知らない共和党保守派の正体」(祥伝社)を発刊しています。
本セミナーでは同氏から「緊急報告・トランプ政権の危機」についてお話いただきました。本セミナーの様子は、上・下(講演・質疑)に分けて配信されます。
日本からでは分かりづらい、トランプ政権の現状は?
日本でも報道されているとおり、トランプ大統領の支持率は全体として低下傾向にあります。ただし、共和党支持者・民主党支持者のトランプ大統領に関する支持率は明確に分かれているため、共和党支持者からの支持は必ずしも低下していません。
既に終了した与野党対決型の下院補欠選挙での数字は2016年選挙時よりも大幅に悪化しています。オバマケアの見直しを担当するトム・プライス厚生長官の地元ジョージア州の補欠選挙は民主党が世論調査で上回っていましたが、最終結果としては共和党候補が辛勝。約40年ぶりに共和党が民主党に議席を明け渡す寸前でした。
今後、巨額の選挙費用を投じて民主党内でジョージア州の補欠選挙キャンペーンを主導した民主党指導部の責任が問われることになり、共和党側ではなく民主党側の体制に変更が生じる可能性があります。
2018年の中間選挙は、上院はオバマ時代の民主党大勝時の入れ替えであるため、共和党が有利の構図です。ただし、中間選挙に関する共和党の世論調査では、同党が劣勢のデータが続いており、中間選挙の見通しは共和党連邦議員のトランプ大統領への信任に影響すると考えられます。
また、ロシアゲート問題の調査機関は5つ存在しており、特定の一つの証言などをクリアしても延々と調査は継続します。明確な証拠が出ないロシアゲート問題は政局上の問題であり、トランプ大統領への共和党議員及び共和党支持者の信任が維持されるかどうかにかかっているということです。
トランプ大統領の実行力・これからの見通しは?
トランプ大統領による大統領令・大統領覚書は、大筋は選挙期間中の公約に沿った形で実行されています。トランプ大統領の特異なキャラクターから日本では誤解されている方も多いようですが、トランプ大統領の原則的な行動は予測可能性が高く、政策の方向性について予測不能とする議論は完全な間違いです。
どのタイミングで何を実行するかは、その都度必要なタイミングで実行されているものと判断すべきです。この傾向は大統領選挙時から継続しており、予め用意されたカードの中から政局的に必要なタイミングで行動を実施しています。
政策判断の内容は、政権内の保守派と主流派派の間でその都度必要な内容の綱引きがあるものの、大統領令・大統領覚書に関しては保守派の意向を反映する傾向があります。当初は保守派の影響力が強く、その後一時的にNY派の意向が強まっていたものの、再び保守派による揺り戻しが起きています。
予算・減税案・インフラ投資案・重要法案などの決断に時間を要するものは、大統領の一存で短期間に決定を下すことが出来る大統領令・大統領覚書と異なり、政権内で保守派・主流派の綱引きが長期化するために細部まで詰まった内容が出てきません。
連邦議会においても保守派・主流派の勢力は拮抗しており、あちらを立てればこちらが立たずの手詰まり状態が生まれています。連邦議員の保守派・主流派の色分けは全米保守連合(ACU)が発表している連邦議員の投票行動を採点するACU Ratingでおおよそ判断することができます。
したがって、大統領令・大統領覚書で実行できるもの(特に外交・安保・通商関連)は積極的に採用・発表されるが、予算・減税案・インフラ投資案・オバマケア見直しなどは大統領ではなく議会主導になる可能性があります。
トランプ政権の人事と安全保障政策の焦点
当初からのトランプ側近(ナショナリスト・反ネオコン)は追放または降格されつつあります。また、保守派はパリ協定・貿易問題などで一時的に影響力を回復しつつありますが、政権発足当初の影響力まで復権しているとは言い難い状況です。
クシュナー上級顧問を中心としたNY派の勢力は増加させつつあり、クシュナーが新たに設置されたイノベーションオフィスを掌握した前後から影響力が増加。ただし、ロシアゲート問題の影響によって一時的には影響力が減少しています。
ロシアゲート問題はナショナリスト及びNY派の双方に対してマイナスの影響を与えています。同問題はトランプ側近にとってマイナスでしたが、クシュナー上級顧問の関与が懸念される中で両派に影響が出ています。世論調査でもクシュナーが影響を持つことは共和党支持者内でも賛否が割れています。
一方、ロシアゲート問題に無関係の反ロシアのネオコン系勢力が安全保障系人事で復権しつつあります。特に国家安全保障会議の人事はネオコン系・非親ロシアの色彩が強まっています。これはトランプ大統領の当初方針とは必ずしも一致していないと思われます。
今後、北朝鮮問題よりも対ロシア・対イランに外交・安全保障の焦点が集中する可能性が高いと考えます。なぜなら共和党の保守派、そしてネオコンは、伝統的に東アジアよりも中東方面に関心が高いからで、同地域における外交・安全保障上の動きが活発化しつつあります。
<『90分で分かる政経セミナー(第1回)』テーマ「緊急報告・トランプ政権の危機」>
- 講演者:渡瀬 裕哉
- パシフィック・アライアンス総研所長、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員
[略歴]
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。1981年生まれ。東国原英夫氏など自治体の首長・議会選挙の政策立案・政治活動のプランニングにも関わる。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することから Tokyo Tea Party を創設。全米の保守派指導者が集う FREEPAC の日本人初の来賓。その知見を活かして、日米の政治についての分析を発信している。著書に「トランプの黒幕」(祥伝社)。
- モデレーター:古賀 尚文
- 共同ピーアール株式会社取締役会長、学校法人十文字学園評議員・理事、公益財団法人柔道整復師研修財団理事、一般社団法人地域活性化センター評議員
[略歴]
早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1947年東京都生まれ。一般社団法人共同通信社入社し、社会部配属、警視庁キャップ、社会部部長を経て、株式会社共同通信社社長相談役を歴任。2016年より現職。幅広い政財界、報道機関とネットワークを活かして、パブリックアフェーズを担当している。
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