「多胎児を育てる家庭の困難を救いたい」。全国の親の声を政治家や行政に届け、制度創設に結びつけた取り組み (2021/8/20 多胎育児のサポートを考える会)
地方自治体の議会・首長等や地域主権を支える市民等の優れた活動を募集し、表彰する「マニフェスト大賞」。今年で第16回を数える同大賞の募集が始まっており、8月31日まで受け付けています。過去の受賞者に、応募した取り組みの紹介や、受賞して感じたことなどを綴っていただきました。今回は、2020年(第15回)に最優秀成果賞を受賞した多胎育児のサポートを考える会です。
「多胎育児」の困難は、いままで隠れていた
「多胎児」という言葉を聞いたことがある方は、どれくらい居るだろうか。多胎児というのは、双子以上の子供のことを指す言葉で、現代では100人に一人の母親が多胎児の親になると言われている。
多胎児を育てている家庭には、想像を超えた、多大な負担がかかっている。
私がその問題に気付いたのは、友人の双子育児を手伝ったことがきっかけだった。たった3時間ほどの体験だったが、外出中も、帰ってからも、一瞬も気を抜くことができなかったことをよく覚えている。
友人に詳しく話を聞いてみると、彼女は、多胎児家庭特有の悩みを話してくれた。
例えば、多胎児家庭は「子供と一緒にバスに乗る」ただそれだけのことにとても高いハードルがある。二人乗りベビーカーは、折りたたまないと乗ることができないというルールが多くのバス会社で決められているからだ。まだ歩けない子供と一緒に安全に移動するために、二人乗りベビーカーは必須なのに、である。
そういったことがそこらじゅうで起きていて、外出が困難となり、家にひきこもりがちになったり、行政の窓口に行けずに、支援が受けづらい状況となっている。
そういった景色に、私たちは今まで気づくことができていなかった。なぜなら、多胎児のあの可愛さにのみ目が行ってしまい、その陰にある、保護者の苦労や悩みまで思いが至っていなかったからだ。
全国アンケートで親の声を可視化
それから私は、全国の多胎児の親に向けてWEBアンケートを呼びかけた。集まった1591件のアンケートでは、9割を超える保護者が、子どもに対してネガティブな感情を持ったことがあると答え、まとめている私自身も非常に驚いた。
「気が狂うし死にたくなる」「何度子どもを殺してしまうかもと思ったことかわからない」と、本当に胸が詰まる回答も多くあった。
社会の理解や支援が手薄いことが、ここまで親を追い詰めている。このままにしておけないと思った私は、勤務先のNPO法人フローレンスと、立ち上がってくれた当事者と共に、支援を求める活動をスタートさせることになる。
当事者と一緒に記者会見。政治家や行政に訴える活動を続ける
2019年の秋に行った記者会見では、3歳の双子を育てるお母さんが、「子を殺めるか自殺するか迷った」「いつまで続くかわからない暗闇の中でたったひとり孤独だった」と答え、本当にたくさんのメディアに取り上げていただいた。
その声を聞いてくださった議員さん・行政職員の方は100人を超え、その後の国会や都議会でも複数回取り上げられ、国と都でそれぞれ多胎児家庭に特化した制度が創設され、その制度を導入した基礎自治体が出てきている。
マニフェスト大賞を受賞後の成果
マニフェスト大賞で最優秀成果賞をいただいたのは2020年11月であったが、そこからさらに大きな成果を得ることができた。2021年6月より、東京都交通局が運行する都営バス全線においてルールが改善され、二人乗りベビーカーは、折りたたまずにバスに乗車できることとなったのである。
マニフェスト大賞受賞時のコメントで、私は「想像力のある社会になってほしい」と訴えた。その言葉が届き、「二人乗りベビーカーでバスにのれない親の苦悩」を社会が想像した結果、今までは考慮されていなかった「多胎児家庭の移動手段を、他の家庭と同様に確保する」ということを成し遂げられたと考えている。今後は、都営バスだけでなく全国のバス事業者がこの動きに続くよう、引き続き訴えていきたい。
マニフェスト大賞に応募する中で、活動の原点を振り返る時間を大切に
マニフェスト大賞に応募した動機は、「もっと多くの人にこの問題を知ってもらいたい」という気持ちからである。多胎児家庭は当事者となる家庭が非常に少なく、当事者とその周囲だけがこの課題を訴えても、世の中に広く周知され、制度創設に至る事は非常に困難だ。個々の自治体で多胎児家庭への支援を創設・拡充という動きにつながることを期待したい。
また、応募資料を作る中で、自分たちのこれまでの活動を振り返る時間を持ち、なぜこの問題を解決したいのか、原点の気持ちを再確認できた。
1/100というマイノリティであるがゆえに、いろいろな社会制度から弾かれ、様々な困難を社会から押し付けられている親たち。だが、マイノリティに光があたり、配慮される社会は、実は全体にとって優しい社会につながるはずだ。
駅のエレベーター配置が進めば、高齢者や足の不自由な人が使いやすい駅になる。窓口に行きにくい家庭のために行政のサービスのIT化が進めば、皆の手間が省ける。乗り物への乗降に時間がかかる人を暖かく見守れるような社会は、きっと他者に思いやりの溢れる社会のはずだ。
生きていれば誰だって、何かの事情でマイノリティになる可能性があり、その時に「それは無理ですね。諦めてください」と切り捨てる社会か。「そっか、大変だね。一緒に考えて、変えていこうよ」と言える社会か。私は絶対に後者の社会でありたい。そういった認識を一人ひとりが持つことで、社会がアップデートされていくはずなのだ。
マニフェスト大賞の受賞までの道のりで、そういった原点の気持ちを再確認ができたことが、実は受賞と同じくらい、私にとっては大切なことだった。今年のマニフェスト大賞に応募される方も、自分たちの思いの原点を振り返るという時間を大切にしていただきたいなと思う。
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