【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】
第96回 鶴ヶ島市議会で初!議員提案の政策条例への取り組み (2014/7/30 埼玉県鶴ヶ島市議会議員 山中基充氏/LM推進地議連会員)
政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。第95回は、埼玉県鶴ヶ島市議会議員の山中基充氏による「鶴ヶ島市議会で初!議員提案の政策条例への取り組み」をお届けします。
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鶴ヶ島市は、埼玉県中部にある人口約7万人の市で面積は17.73平方キロメートル、大きな川もなく土地の高低差も少ない、なだらかな地域を東武東上線・東武越生線が縦断しており、また関越自動車道と圏央道のジャンクションが所在しています。
都内から急行で約45分、ベッドタウンとして昭和50年代の急激な人口増により、約1万人だった鶴ヶ島町が1991年に6万人の都市として、市制施行。都市化が進み、農業は衰退ぎみですが、最近では有機農法を推奨し、新しい特産品としてサフランに注目し、栽培や関連商品の開発を進めています。
4年に1度行われる全長36メートル、重さ3トンの竹と麦わらでできた龍蛇(りゅうだ)を担いで練り歩く「脚折(すねおり)雨乞」は、第17回ふるさとイベント大賞の最高賞である大賞(総務大臣表彰)を受賞しています。
市議会としては、2007年の市議会議員選挙より定数を24人から18人に削減、2008年に県内初の議会報告会を実施し、翌2009年に県内3番目となる議会基本条例を制定しました。現在日経グローカルの議会改革度ランキングでは、埼玉県で2位、全国で86位という位置にいます。
今議会でやろうとしていること
鶴ヶ島市議会の議会改革の特徴は、「全員賛成」で進められてきたことです。そして、実行の伴った取り組みを重視する点です。議会基本条例も全員賛成で可決し、また、その推進役である議会改革委員会、その前身である議会改革検討委員会、同推進委員会においても、すべて全員賛成で事が進められてきました。
議会基本条例制定においても、「やってみてよかった事しか条例に載せない」という方針で15項目の取り組みを決め、1年間のタイムスケジュールに落とし込みました。まず初めに取り組んだのが議会報告会でした。その後、一問一答での委員会質疑や一般質問の導入、委員会での自由討議など実際に実践してから基本条例制定に臨みました。
その際にも、反問権(本会議や委員会での論点を明確にして、より活発で充実した議論を行うために、議員の質問に対して執行部が質問できる)に関しては、反対する議員がいたので話し合いを進め、1年後の2010年に総合計画の議決権の拡大とともに反問権についても基本条例に載せるように条例改正しました。
そんな鶴ヶ島市議会の次の取り組みが議員提案での政策条例である「空き家条例」制定です。しかし、初めての取り組みですから、今後の鶴ヶ島市議会における政策条例提案の1つのモデルを構築したいという思いで、ことに臨んでいます。
現在の鶴ヶ島市議会の定数だと2人いれば議案を出せますが、6人からなる改革委員会で出すのではなく、一度議会運営委員会で提案し、了解を得て、原案作りを議運から議会改革委員会に諮問するという段取りを取りました。作成に当たっては、まず、「なぜその条例が必要か」という報告書を作成しました。そして、先進事例を参考にしつつ、鶴ヶ島らしさということで、空き家の活用についても盛り込みました。行政側が執行する担保として、計画の策定とその成果の議会への報告を義務付け、むろん、予算の措置の義務付けも入れてたたき台を作りました。さらに、議長を通して調整し、市の関連する部署の職員とのたたき台をもとにした意見交換を行い、原案を作成したところです。
先に作成した報告書と原案の概要を示しての市民コメントの準備も進め、9月定例会での成立を目指しています。このように書くとスムーズに事が運んだようにみえますが、本来なら2013年の12月定例会で成立させる予定でした。執行部側との調整が思うように進まない中でも、見切り発車はせずに粘り強く対応して1年近い歳月をかけることになりました。また、市民公聴会を開くことは、執行権がない中で、具体的に「あそこの空き家をどうにかしてくれ」という意見ばかりが続出したら答え切れないという判断もあり行わず、市民コメントのみとする予定です。
鶴ヶ島市議会が県内でも先進的に議会改革を進めてきたことにより、注目されていた時代は過ぎ去ろうとしています。しかし、事をなすために実直に取り組む姿勢は議会の文化として残るのではないでしょうか。
個人的には、議会発のFacebook導入などによる広報の強化、また、モニターを導入し映像を活用した一般質問の導入、議会での資料の電子化などを進めるとともに、新たな政策条例への取り組みの中で、市民との対話のチャンネルを広げていくようにしていきたいと思っています。
議会改革に終わりはありません。だからこそ、次の世代にその志が引き継がれていく鶴ヶ島市議会の文化の深化を願っています。
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2014年9月22日、鶴ヶ島市議会第3回定例会で「鶴ヶ島市空き家の適正な管理に関する条例について」が全会一致で可決されました。コラム掲載後の動きをご説明いたします。
「空き家条例」について市民コメントの結果、大きくは3つの意見がありましたが、原案を修正する必要はありませんでした。コメントには、議会としての対応の内容を記載してHPで載せました。
最後にもう一度建築課や安心安全課などとの意見交換を行いました。より具体的な意見が出てきて、課題もでてきました。相手もいよいよ条例ができるというなかですから、必死です。
ただ、いろいろな課題が出てくると「では慎重に次の議会を目指して」というように、12月議会に先延ばししようという意見が首をもたげます。しかし、本当に実のあるものにしようとするなら、予算措置も必要ですし、場合によっては人の配置も必要です。12月だと遅すぎ支障をきたします。強い意志で9月をデットラインと決めました。
執行部の課長級との最後の調整を特筆すると――
【課題】議員提案の空き家条例ではほぼ標準装備の「代執行」について、隣接する坂戸市では、市長提案でも「代執行」が盛り込まれていますが、実際に行うときは、条例ではなく「建築基準法」に基づき行うことになります。法で定めていない部分について、条例で実施していいのでしょうか。鶴ヶ島市の場合、許認可は4号(木造2階建て)住宅だけ、それ以上は、県が対応。県との調整も必要です。
【議会側から】他の市町村の既に400ある条例で、市長提案の条例でも多数その規定が見受けられるので、問題ないのでは?そこまで見る必要があるのだろうか?
【建築課から見た他市の条例批判】安心安全課などその担当課が、建築部門との協議なしに勝手に作っていると思われます。条例としては、いいものではありません。→議会側として執行部側提案の条例にも不備なものがあるということを再認識。
【調整】鶴ヶ島市議会提案の条例では、命令や代執行は、4号住宅に限るという事で規定しました(それ以上の建物の場合は条例ではなく、法で対応をする)。
【課題】市の環境保全条例では、空き家は規定していないが、空き地は規定していて、管理不全な状態の場合、勧告まで行っている。それが、家があるだけで代執行まで行うのでは、つじつまが合わないようになります。
【課題】空き家条例でも、環境条例でも、空き地部分を扱うのであれば、生活環境課、安心安全課どちらが取り扱うが判断に困ります。
【調整】縦割りの弊害を行政側から直してもらうきっかけとなればと思っていたのですが、混乱を避けるために、「空き家等~」を「空き家~」と、「等」を外し、空き家に関しては空き家条例で安心安全課、敷地部分に関しては環境保全条例で生活環境課と分けやすくなるよう配慮しました。空き家の定義から庭木や雑草の繁茂については載せないようにしました。
これらにより、市長提案、議会提案双方で約400ある空き家条例のどれよりもより実務的で、しかも、計画の策定や議会への報告義務などを課す、どこよりも斬新な条例になったと自負できるものになりました。
(2014年10月7日)
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