【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】
第93回 市民の力で議会改革 (2014/7/9 千葉県松戸市議会議員 山中啓之氏/LM推進地議連会員)
政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。第93回は、千葉県松戸市議会議員の山中啓之氏による「市民の力で議会改革」をお届けします。
市民は何に対してシラけているのか
国政において下野していた自民党が数年ぶりに民主党から政権を奪還したが、多くの市民から見れば、戦後来、政権がどこに移ろうとも政治の質が上がったとは実感できていないのではなかろうか。選挙のたびに現れては消えるのが、政党や候補者が出す「選挙用の」マニフェスト(注:公約、アジェンダ等を総称した意で用いる。以下同様)。任期中に実現されず市民の不平不満が募り、もはや多くの市民は政治に期待しなくなっている。いまやA級戦犯扱いされているのがマニフェストだ。
しかし、悪いのはマニフェストだろうか。否。マニフェスト自体はちっとも悪くない。それどころか時代に翻弄されし“被害者”の感すらある。有権者がシラけているのはどうせ守られないであろうマニフェストそのものにではなく、守らない元凶である政治家に対して、ではなかろうか。
特定の政党に偏ることなく無所属で活動を続けている立場の議員として、どうすれば政治家がしっかりとマニフェストを守るようになるかを考察したい。
天に向かって唾を吐く前に
「政治家にはロクなのがいない」――市民からよく聞くこの声を仮に真とすると、すべての政治家は市民の中から選挙で選ばれて生まれるわけで、畢竟(ひっきょう)、市民は「自分たちはロクなもんじゃないですよ」と正面切って宣言しているようなものだ。選挙に行かない市民がよく口にする「どうせ自分の1票なんかじゃ変わらない」――も同じ。いえいえ、あなたの1票でしか変えられないものがあるでしょう。
このように、天に向かって唾を吐いていることに気付く市民が多くなれば社会は変わると信じる私は、市民に対して他の議員がしていないような“情報”と同時に“責任”を提供するように心がけている。
待っているだけでは教えてくれない政治のコト
「本当に大事なことは、知らない所で知らないうちに決まる」。この状態を打破していくのが私と市民の役目だと考える。政治と情報リテラシーは表裏一体。しかし、義務教育では投票用紙の書き方1つすら習わない。地域住民に最も密接なはずの市議会だが、見学に来る学生はほとんどなく、政治に触れる機会はまったくと言っていいほどない。これでは選挙の時にだけ急に1票投じろと言われて困るのも無理はない。では、どうするべきか。
市民の持つべき情報(リテラシー)と責任(シチズンシップ)
政治家のマニフェストを口約束で終わらせないためには、市民の力が必要だ。各マニフェストに目を通して比較検討の上で投票する候補を決めることも大切だが、それ以上に重要なのはそのマニフェストを覚えておくことだ。任期の4年(参議院は6年)間で忘れたりすっぽかされたりしないように、傍聴に行ってみたり(時間がなければネット中継で観るのでもいい)、定期的にその政治家のHPや広報物を見たり、議会の報告会(をやっていれば)に参加することで、市民の注目がその議員や首長にあることを示すのだ。その中で、その政治家がマニフェストを忘れそうな時には牽制を、実現した時には感謝を、忘れていないけれどもまだ実現できていない場合には知恵や支援を送ることが有効だ。
これらを継続的に行わないと、マニフェストどころか根幹の政治理念すら揺らぐ議員が出かねない。当初は「完全無所属で頑張ります!」と威勢良かった議員がいつの間にかちゃっかり風向きの良い政党に入ったり、「情報公開頑張ります!」といっても内実は掛け声だけだったり…市民は政治不信のサイクルの入口へと容易に誘(いざな)われる。
つまり、これらの行動はシチズンシップのある、真に文化的な市民であるための“責任”だと考える。もう一段高みを目指すならば、政治家に直接話しかけてみよう。どんな場でもいい。それが無理ならメールでもFAXでもいい。普段の何気ない会話や言動から、選挙時のマニフェストや振る舞いだけでは見えない、むしろ大事な部分が見えてくることがよくある。
わずか1週間程度の選挙期間でその候補を見定めることは、テスト前日の一夜漬けに等しい。平時に勤勉な者ほど楽にテスト期間を乗り切れる。学生時代に(私をはじめ)多くの者が実践できなかったであろうこの教訓を、我々は候補者の見極めの際にこそ活かそう。モチロン、上記のことを全部1人でやるのが大変ならば、友人と組んでもいい。大事なのは自分の行動をゼロのままにしないことだ。
現職議員の態度を知る一番の方法は
有権者にとって最も関心が高いことは、自分が1票を投じた議員が議会でどんな態度を取っているのかだろう。それが議決である。今や多くの地方議会で公開されている個々の議員の態度だが、我が松戸市議会ではこの情報公開に後ろ向きな議員が多く、議会だよりにも議会のHPにも載っていない。それどころか、公的な記録にすら残さない。税金の増減も全市民を律する条例(ルール)も、すべて議決を経て決まるのに、これでは議員の責任の所在が不明確になる。よって私は数年前から「個々の議員の賛否態度」を一覧表にして、市長提出議案・請願・陳情・議員提出議案等、あらゆる結果を調査し、自分のHPに掲載している(※山中啓之公式ホームページ www.k-ji.jp)。
これは私と同じ会派の議員や、公開の意義に賛同するほかの議員や傍聴者などの協力が次第に増え、実施を開始して以来、一度も公開が途絶えていない。最近では採決後24時間以内のスピード掲載も定着してきた。
有権者である市民が知るべき最低限の情報は、その議員の態度が自分の想いと一致しているかどうかであろう。議会におけるその政治家の決定的な態度を知ることができるだけでなく、「この会派とこの会派は態度が全く一致しているぞ」「会派内でも態度が割れているところがあるね」「この議員が反対(賛成)した理由を今度直接聞いてみようかしら」…など、次の一歩への“招待状”となるのだ。
ちなみにこの取り組みが第7回「マニフェスト大賞」の受賞につながったが、すべての栄誉は協力してくださった皆様に捧げたいと思う。この感謝も“次の一手”につなげたい。
政治の門戸は地方から常に開いている
究極的には、有権者である市民の意識が変われば、政治(政治家・議会)も変わらざるを得ないということを書いてきた。そして、その門戸は常に開いていたいと思っている。
主義・主張を問わず、市議会や地方自治について勉強したいという人を対象に個人的に開いた政治塾も3年目に入り、最初は『議会ってなに?』と言っていた者が、今や自ら設定した市政の課題解決に乗り出している姿を見ていると、マニフェストも議会改革も、推進する原動力は、すべて市民の力であるということに改めて気付かされる。これからも市民と共に切磋琢磨したい。
【お知らせ】
平成26年7月16日(水)、千葉県(千葉市議会)において議員と市民を対象にしたローカル・マニフェストの地域勉強会を全国に先駆けて行います。実行委員会は超党派の地方議員たちで構成され、先進事例を分かりやすく学ぶとともに、議員と意見交換をすることもできます。
この文章を読んでいただいた御礼には及びませんが、希望参加者には実行委員長の私の意志でなんとか席を確保するよう全力で努めたいと思います。
*詳細・申し込みはこちらから*
- 著者プロフィール
山中啓之(やまなかけいじ)
昭和54年生。松戸市出身。早大(政経)卒。サラリーマン、松下政経塾を経て、現在市議会議員。無所属。会派「市民力」代表
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