第64回 通称「乾杯条例」の劇的!? ビフォー・アフター  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】

第64回 通称「乾杯条例」の劇的!? ビフォー・アフター (2013/12/11 京都市議会議員 山本ひろふみ氏/LM推進地議連会員)

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政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。第64回は、京都府京都市議会議員の山本ひろふみ氏による『通称「乾杯条例」の劇的!?ビフォー・アフター』をお届けします。

◇      ◇      ◇

 安価な発泡酒、ワインなどの台頭により、清酒の出荷量はおおむね昭和50年度をピークに平成23年度までに約6割減少しています。全国の清酒の生産量の約2割を生産している京都府、その多くを占める酒どころ「伏見」を抱える京都市においても、清酒業界の復活は地元経済にも大きな影響があり、長年の課題でもありました。

 そんな折、2012年12月26日の11月市会最終本会議において、議員により提案された「京都市清酒の普及の促進に関する条例」が全会派一致で可決されました。

 今回は、リレーコラム第61回の上村崇・京都府議会議員からのバトンを受け継ぎ、その制定に至った経緯とその後を私からご紹介させていただきます。

「ビフォー」

京都市議会議員 山本ひろふみ氏

京都市議会議員
山本ひろふみ氏

 そもそものきっかけは2011年2月。造り酒屋で組織される酒造組合から、伏見区選出議員ならびに各会派に対し、「(前略)京都における宴会やパーティーでの乾杯は、日本酒、そして伏見をはじめとする京都の清酒をご利用いただくことを普及促進するための条例を早期に制定していただくよう強く要望いたします。」という要望書が出されたことでした。請願でも陳情でもなかったためか(?)、正直に申し上げると、当時はそんなに大きな議論にもならずにやり過ごされてしまいました。
 それから、約1年半が経過した2013年10月ごろになり、議会改革の一環として取り組んでいる「議員立法」の俎上(そじょう)にこの条例が上り、以降さまざまな観点から議論されました。

  • 宣言や憲章、議会決議などではなくなぜ条例なのか?
  • 京都市には、「京都市伝統産業活性化推進条例」があるが、それでは不足なのか?
  • 京都には国指定の17の伝統工芸品、京都市が条例で指定する73の伝統産業(清酒はこの中に含まれます)がある中で、なぜ清酒なのか?
  • 現在の「乾杯」のスタイルは元来の日本の文化ではなく、外来のスタイルではないか?
  • 嗜(し)好品を条例で縛るのはいかがか?

などが主な論点です。
事前のすり合わせの後、委員会での質疑が行われましたが、結果的には・・・

  • 「既に根付いている『乾杯』という習慣」を「清酒」で行うことで、「清酒を通じて、日本食や漆器、焼き物、さらには織物や染物などの伝統産業全体が盛り上がる」というロジックが受け入れられたこと
  • 飲めない人、断酒をしている人などにも配慮し、強制するものではないこと

 という、大きく2点について議会内で理解が進み、条例のうち「第2条から第4条までの規定中「を利用した乾杯」を削る。」という修正がされ、より、「乾杯」ではなく、「清酒を通じた他の伝統産業の普及や継承」に焦点をしぼった条例として、全会派一致で可決、成立をいたしました。

 京都市における乾杯条例とは、決して清酒での乾杯を強いるものではなく、清酒を通じて、日本の伝統産業に想いをはせることを促進する条例であると理解をしております。

「アフター」

 条例の第3条には事業者の役割として、「清酒の生産を業として行う者は,清酒の普及を促進するために主体的に取り組む」とうたっています。

 条例制定後、何よりも頑張ったのは、酒造メーカーの集まりである「酒造組合」です。条例が制定されたことを受けて、条例施行日(2013年1月16日)よりも前から、各業界の新年会の主催者に相当の営業活動をされたとお聞きします。「これを機に、ぜひとも乾杯は日本酒で!」「樽酒も準備できますから、ぜひ、鏡開きを!」といった具合です。かくいう私たちも政党の新年会ではお世話になりました。

 次に、積極的に動き出したのは、宴席をしつらえるホテルなどです。特に、市長が出席をする新年会などでは「市長が来られますので、ぜひ乾杯は日本酒でされませんか?」といったような働きかけが主催者にあったように聞き及んでいます。

 かくして、京都市内で行われた多くの新年会や賀詞交換会における「乾杯」は、これまでのビールから清酒へと一気に様変わりをしました。もちろん、乾杯の後は、それぞれの趣向に合わせて、ビールを飲んだり、焼酎を飲んだり、ワインを飲んだり、もちろん清酒を飲んだりもするわけですが・・とにかく、「乾杯は日本酒で」という文化は徐々に浸透していきました。

 酒造組合の努力は、これにとどまりません。2013年10月には「日本酒の魅力を発信するアンバサダー」として、初めて「ミス日本酒」なるミスコンの京都開催を誘致したり、11月17日には、多くの酒蔵がある伏見で、「キズナ杯in大手筋商店街」という企画に参画し、802名で腕を交差させて一斉に乾杯するというギネス記録を樹立するなど、市民を巻き込んだ取り組みを行ってこられました。

 一方で、条例の第2条には、本市の役割として、「本市は,清酒の普及の促進に必要な措置を講じるよう努める」とうたっています。

千社札

京都市長が作成した千社札「にほんしゅでかんぱいしておくれやす」

 大規模な予算計上は難しい中でも、京都市は10月12日に、京都の食文化の普及、さらには、酒にまつわる焼き物や、漆器などの伝統工芸品の普及にと「京都・日本酒サミット2013」を初開催しました。京都のみならず、全国の酒造メーカー約150蔵が参加する中、2時間2200円で試飲し放題のイベント等は大盛況でした。また、最近、市長は、独自に写真のような千社札を作成し、宴席などで配り歩き、そのPRの一助を担っています。「議員提案で」って、小さく書いてあるところがしおらしいですね。

 私たち議員としても、主催するパーティーなどの宴席は、ビアパーティーに至るまで、基本的に清酒で乾杯をするように努めております(笑)。

 条例に定めた通り「事業者」「本市(執行機関)」それぞれが、それぞれに役割を果たし、さらにはマスコミ報道などの効果も相まって、京都市における「乾杯条例」は広く市民はもとより、全国に知られるようになりました。

 これが、低迷する伝統産業関連業界のV字回復にすぐにつながるとは思えませんが、小さくとも明るい兆しが見えたようには思います。今後も、それぞれがそれぞれの立場で、努力を重ね、清酒で乾杯することをはじめ、京都の伝統産業品が実生活に根付き、販路や需要が拡大していくことを、立法に携わった一員として期待するものです。

著者プロフィール
山本 ひろふみ(やまもと ひろふみ):京都市会議員(2期目)。民主党所属。1976年3月19日生まれ。新潟大学工学部中退。2003年より、泉ケンタ衆議院議員秘書。2007年京都市会議員選挙にて初当選。現在:【党の役職】民主党京都府連副幹事長、組織委員長代理、政治スクール代表理事 【議会での役職】市会運営委員会副委員長、市会改革推進委員会副委員長、交通水道消防委員会委員。趣味:アイスホッケー
blog:山本ひろふみの一歩、一歩。
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