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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第37回 議会と高校生が創る地域の未来~岐阜県可児市議会の地域課題懇談会(キャリア教育支援)の取り組みから (2015/11/12 早大マニフェスト研究所)

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早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第37回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、「議会と高校生が創る地域の未来~岐阜県可児市議会の地域課題懇談会(キャリア教育支援)の取り組みから~」をお届けします。

地方創生と議会の役割

 「地方創生」の掛け声の中、多くの地方自治体では、「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」の策定作業が最終局面を迎えています。地方創生の大きな目的は、人口減少の克服、成長力の確保です。国は地方に、自立につながるよう、自ら考え責任を持って戦略を推進することを求めています。地方がどれだけ地域の特性を活かし、知恵を絞れるかが問われています。また、地方議会に対しても、その策定、検証には積極的に関与するよう促しています。

 議会が地方創生のアイデアのタネを発掘する場は、議会報告会や住民との意見交換会からです。重要になるのは、そうした場の話し合いの質になります。地域からアイデアが生まれ、実現できるインフラ(仕組み)になれるか否かが鍵になると思います。

 今回は、岐阜県可児市議会(2015年「第10回マニフェスト大賞」議会グランプリ受賞)が地元の可児高校の高校生などと行っている「地域課題懇談会(キャリア教育支援)」の取り組みから、地方創生の基本目標の一つである「地方への新しいひとの流れをつくる」方策に対して、議会がどのように関われるかについて考えたいと思います。

マニフェスト大賞議会部門グランプリを受賞した可児市議会

マニフェスト大賞議会部門グランプリを受賞した可児市議会
(左から)北川正恭 審査委員長、川上文浩 前議長、川合敏己 現議長

可児市議会の議会改革

 可児市議会では、2003年9月、「議会活性化特別委員会」(2007年9月で廃止)を立ち上げ、議会改革に取り組み始めました。一問一答・対面方式の導入、費用弁償の廃止など、できることから改革を実践してきました。この改革の流れが加速したのは、2007年7月の改選で新人議員が8人当選したことによります。この新人議員が会派を超えて、2008年7月から名城大学の昇秀樹教授ゼミに参加し、地方自治や時事問題について意見交換を行う勉強会を開催、改革の中心を担っています。

 2010年12月には、有志議員による「議会基本条例調査研究プロジェクトチーム(PT)」(2011年5月廃止)を立ち上げました。翌2011年2月にこのPTが主体になり、全議員が政務調査費を出し合って、「議会改革のためのアンケート調査」を無作為抽出した市民2,000人を対象として行いました。その結果(回収数810件、回収率40.6%)は、「市議会に関心がない」36.7%、「議員の活動内容を知らない」64.2%、「市民の意見が市議会に反映されていると感じる」6.4%などと、厳しい現状と、議会改革を進める必要性を再認識するものとなりました。

 このアンケートを受けて、PTでは「議会基本条例特別委員会」の設置、議員定数および議員報酬についての調査研究、議会報告会や意見交換会の実施などをうたった提言書をまとめ、議会運営委員会に答申しました。

 可児市議会では、このように課題に対して有志によるPTを組成し議論、提言にまとめ、それを議会運営委員会で決定、アクションにつなげる流れが定着しています。そのほか、1年任期の議長、委員長に関して、議長マニフェストや委員会継続課題の引き継ぎを書面で行う「議会運営サイクル」、決算審査を重視し、議会報告会などの意見を反映、議員間討議で項目を絞り込み全会一致で提言に取りまとめる「予算決算審査サイクル」、無料のグループウエアの活用など、ICTを活用した委員会運営等、先進的な取り組みを実践してきました。

可児市議会の地域課題懇談会(キャリア教育支援)

 可児市にある進学校岐阜県立可児高校では、物理を担当する浦崎太郎先生(文部科学省中央教育審議会生涯学習分科会学校地域協働部会専門委員)が中心になり、2013年度から「地域課題解決型キャリア教育」を実践してきました。多くの地方都市の悩みは、多額の投資を行った若い世代が都市部へ大量に流出してしまうこと。それに伴い地域の担い手が減少、ひいてはその都市が衰退してしまう。中でも、地方の進学校は、優秀な大学に子どもたちを送り込むことが一番の目的になっているので、浦崎先生の言葉を借りると地方の「人口流出装置」になっています。その流れに歯止めをかけるには、進学による流出前に、さまざまな職業や経験がある大人と接し、地域への愛着や当事者意識を高め、地域課題の解決に取り組むことが重要になります。それが、浦崎先生の問題意識であり、仮説になります。

 それと同じころ、可児市議会でも川上文浩前議長を中心に、議会報告会を開催しているものの、20歳以下の市民の意見に対して議会はどう対応しているのかといった議論が起きました。議会事務局職員から可児高校のキャリア教育の取り組みの話を聞いた川上前議長は、すぐに浦崎先生を訪問、思いが一致して可児市議会と可児高校の連携がスタートしました。

 まず実施されたのが、2014年1月、可児市議会に浦崎先生を招いてのキャリア教育研修会です。また、同年2月には、議場で高校生によるキャリア教育の活動報告を行う「高校生議会」が開催されました。それを受けて、各種団体の協力を得て若い世代の意見を聞く機会として「地域課題懇談会(キャリア教育支援)」を実施していくことが決まり、2015年6月にその実施会議を会議規則内に位置付け、議員が議会活動として取り組む体制整備を行いました。

高校生議会の風景

高校生議会の風景

 2014年度は、7月に地元医師会の協力を得て地域課題懇談会が開催されました。医療系の進学を目指す学生と、議員、医師、保健師などが参加。医師会の会長の講演後、「医療と健康の可児のビジョンをつくろう」をテーマにワークショップが行われました。議員は各テーブルでファシリテーター(進行役)を務め、高校生の声に耳を傾けました。2015年3月には前年度と同様、「高校生議会」が開催されて、活動報告と「子育て支援」をテーマに、高校生、議員、子育て関係者などによるワークショップも行われました。

 2015年度は6月に、可児高校だけでなく可児工業高校・東濃実業高校にも参加を呼びかけ、地元の金融協会の協力を得て開催されました。金融協会の講演と、高校生、議員、銀行員による「どんな街に住み続けたいか・自分でできること」をテーマにしたワークショップが行われています。議会のネットワークにより、高校生と地域の団体が結び付けられ、高校生が地域の課題を地域の大人と一緒に考える貴重な場になっています。

 参加した高校生からは、「あまり深く考えることのなかった可児市のことを考えることができた」「地域の一員であることが実感できた。地域との関わりを大切にしたい」「一生懸命勉強し、地域に貢献できる人間になり、地元に帰ってきたい」など、前向きな感想がたくさん出ています。また、議会としても、「若い世代の考えを政策に反映できる」「各種団体との接点ができ、さまざまな職種の人との意見交換ができる」「議会が開かれたものと認識される」「議会の活動が住民に認知される」など、メリットも多いと思われます。

地域課題懇談会の様子

地域課題懇談会の様子

縁塾の「エンリッチ・プロジェクト」

 このキャリア教育支援について議会に課題がない訳ではありません。大きな問題は、こうした場を頻繁に開催できないということです。その課題を解決するため、「NPO縁塾(えんじゅく)」が立ち上げられました。

 可児市を含む可茂地区の学校(小・中・高)と地域をつなぐことが目的のNPOです。代表を務める松尾和樹さんをはじめ、運営を担うメンバーは30歳代の子育て世代、子どもたちのキャリア教育が自分事の世代です。議会の支援のもと、地域の子どもたちのキャリア教育支援を、地域のNPOが担う理想的な形ができ始めました。これにより、選挙や人事異動で人が変わったとしても、活動の持続性が担保されることになります。

 縁塾では、2015年7月から8月の夏休みの期間に「夏の!OPENエンリッチ・プロジェクト2015」を開催しました。エンリッチ・プロジェクトとは、enrich、縁リッチ、縁立知、縁立地の意味が込められた名前です。このプロジェクトでは、地域課題に関わる大人や卒業生の先輩大学生が講演、その講演を受けて大人、大学生と高校生が一緒に学び考える、多様かつ小規模な場(1回1時間半から2時間程度)を用意しました。期間中71のプログラムが準備され、その中の17のプログラムは大学生が担当しました。可児高校の1年生は、全員必ず1つの参加が義務付けられ、2・3年生も興味があれば参加も可能であったこと、複数参加した生徒もあったことから、のべ400人もの生徒が参加しました。可児市職員による「求む!未来の可児市職員」、防災の会による「防災クロスロード」、OBの大学生による「大学生活って何?」などのテーマが並び、テーマによっては議員も参加しました。

エンリッチプロジェクトの様子

エンリッチプロジェクトの様子

本気の大人と高校生が地方創生を担う

 地域の本気の大人と高校生が混ざり化学変化を起こすことで、高校生のやる気にスイッチが入り、学力向上とその結果としてのキャリア保障が実現し、最終的には地方創生につながる。議会は、そうした化学反応が起こる場のお膳立てをして、コーディネートする。首長部局と教育委員会の壁を突破できる力を、両方を所管する議会は持っています。

 また、高校生段階での市町村の担い手育成は、これまで見過ごされてきました。原因は、高校を所管する都道府県と市町村の大きな壁です。思いと覚悟さえあれば、その壁も議会は超えることができます。それを、可児市議会の取り組みが証明しています。こうした縦割りの壁を超えられなければ、地方創生など夢のまた夢です。

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佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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