第4回 「マンガ」で政治をもっと身近に。「オタク議員」が目指すまちづくりとは  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ >  記事 >  連載・コラム >  20代当選議員の挑戦 >  第4回 「マンガ」で政治をもっと身近に。「オタク議員」が目指すまちづくりとは

【20代当選議員の挑戦】

第4回 「マンガ」で政治をもっと身近に。「オタク議員」が目指すまちづくりとは (2015/12/10 一般社団法人ユースデモクラシー推進機構 代表理事 仁木崇嗣)

東京23区内の最南部に位置する大田区。東部には大田区全体の面積の3分の1を占める羽田空港があり、最近では「民泊」条例案が可決され全国に先駆けて条例に基づいた民泊が始まることで注目される等、外国人観光客を強く意識している大田区(Ota-ku)ですが、そんな大田区議会の「オタク(Otaku)議員」である荻野稔さん(30歳・当選時29歳)にお話を伺いました。

大田区議 荻野稔さん

議員の調査権を使ってあぶり出した社会課題をマンガで伝えていきたいと話す、生粋の「オタク」趣味をもつ荻野さん。

読んだよ、「マンガ」だからわかりやすいよね。

仁木
荻野さんは、チラシやポスターで「マンガ」をうまく活用されてらっしゃいますね。
荻野
そうですね。議員の役割の1つとして、区政の情報も含めて広く政治に関わる諸問題を区民の皆さんにお伝えしていくということがあると思うのです。皆さんの代わりに調査権を用いて行政としっかりやりとりをして、そこで得た内容を「マンガ」という表現で情報発信をすることでいろんな人たちにわかってもらいたい、知ってもらいたい、という思いがあります。
仁木
たしかに、単なるイラストではなく「マンガ」になっていることでしっかりと内容を読ませることができますよね。
荻野
政治家のチラシってどうしても文字ばかりで難しいことがいっぱい書いてあると思われているので読まれにくいですし、中身の良し悪し以前に、名前と党と年齢と顔だけ見て捨てられるのがほとんどですから、読んでもらう工夫の1つとして私は「マンガ」という方法を選んでいます。
仁木
反応はいかがですか?
荻野
若い人から面白いと言われたり、ネット上の反応もあります。選挙の時だったのですが、中学生とか高校生ぐらいの人たちが話しかけてくれたんです。マンガ読んでますって。嬉しかったですね、投票権はないですけど(笑)。
マンガチラシには、普通の文字だけの部分とマンガの部分を両方いれてお配りするのですが、そうすると50歳ぐらいの人たちからも、読んだよ、マンガだからわかりやすいよねって感想くれたりするんですよ。
仁木
なるほど、仮に『少年ジャンプ』の創刊と共に育った世代をマンガ世代としたら、50代、60代もマンガ世代ですからね。
荻野
私たちのような少数会派は一般の市民の方の後押しがあって初めて力を持つことができるので、専門家以外の方にも世代をまたいで問題の存在を伝えることができる「マンガ」は有効なコミュニケーションツールだと思います。
マンガで埋め尽くされた荻野さんの本棚

区議でありながら「ラブライバー」と「提督」を兼務する荻野さんの本棚はマンガで埋め尽くされている。

仁木
制作期間はどのくらいかかるのですか?
荻野
内容に関する研究や調査に一番時間がかかりますが、それを除いて純粋な「マンガ」の制作期間としては、私が描くネームに1~2週間、プロの方とのやり取りと仕上げてもらうのを合わせて1カ月ぐらいです。セリフやキャラの配置とネームまでは私の方で作っているので比較的短いほうだと思います。

政策マンガ

「政策マンガ」は、荻野さんがセリフやレイアウト等の構成を下書きし(左2枚)、プロの漫画家により仕上げられる(右)。


「政策マンガ」を制作する荻野さん

いわゆる「オタク」としてのこだわりと、政治家としての情熱が「政策マンガ」を生み出した。

きっかけは、家族の自殺

仁木
続いて、荻野さんが政治に関わろうと思った理由を教えてください。
荻野
まず、政治の前に社会問題へ関心が向くきっかけは、家族の自殺というのを経験したことです。家庭内の問題を苦に生命を絶ってしまった家族がいるんです。私が小学校5年生のときです。
仁木
そうなのですね。とても悲しい思いをされたと思いますが、悲しみを抱える方の気持ちがわかるというのは、公職では特に大切な資質だと思います。
荻野
その経験から、本会議で自殺対策の中で自死遺族へのケアについて発言をさせていただきました。
それから私はてんかんの持病があって、身体に不自由がある方に寄り添いたいという思いが強く、最初の社会活動としてリボングラフィックスというNPO法人の一員として、障害のある人の創作活動の支援を行っていました。
仁木
政治はあくまで社会問題を解決するプロセスであって、先に社会活動で世の中の役に立とうと活動されていたのですね。

他の人から後ろ指さされたり、眉をひそめる表現であっても守られることが大事だと思うんです

荻野
その後、2008年に、表現規制が強くなってきた頃ですが、その流れに対抗するために、コンテンツ文化研究会の立ち上げに参画することになり、そこから政治に関わることになります。東京都青少年健全育成条例改正案(非実在青少年条例、マンガ規制条例とも)に反対する運動を始めることになったんです。
仁木
石原都政下で唯一廃案になった都知事提案条例ですね。どういう思いでその運動に関わられたのですか?
荻野
他の人から後ろ指さされたり、眉をひそめる表現であっても守られることが大事だと思うんですよね。そうしないと、あらゆる表現がみんなが素晴らしいっていうものしかなくなってしまいます。そんな世界はきっと面白くないし、息苦しいと思います。“表現の自由”は民主主義の基礎になるものだと思いますね。
仁木
おっしゃるとおりですね。そういう意味で「オタク」も自己表現の一種といえるのでしょうか。
荻野
そうですね。ようやく市民権を得たといえるかもしれませんが、「潜在的オタク」という方も多いと思います。
先日、議員事務所にインターンしたいという学生とのマッチングイベントがあったんです。みんな社会的な意識が高くてまじめな方が多い印象なのですが、その中で、「実は私も提督なんです」っていう方がいました。リクルートスーツの提督さんですね。政治や社会問題にも関心のある方や公務員、志望者にもマンガ好きな方は結構いると思います。
仁木
そういえば、荻野さんは議会質問で「初音ミク」について発言していましたよね。
荻野
議事録にボーカロイドを載せたのは初めてかもしれません。先輩議員はポカンとしている中で、隣の議員さんが吹き出していたのですが、吹き出すってことはあなた知ってますよね?って(笑)。
仁木
オタクがオタクとして自己表現できない社会の空気は不健全なのかもしれませんね。
荻野
みんなもっと自由に自分の好きなことや趣味を前面に出していいと思うんですよ。他人に迷惑をかけてはいけないですが、自己表現はもっと自由であるべきです。
自分だけを認めてくれという表現の自由の強制では無く、相手の、お互いの表現を認め合おうということです。「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」というやつですよね。

1つでもマイノリティの分野に関与していれば、他にも違うマイノリティの世界があると認識できる

仁木
そうしたオタク的な視点は政治活動に活きていますか?
荻野
そうですね、皆が関わる大きなテーマの問題は皆拾ってくれるし、私などより研究・活動されている。でも、老若男女関係なく地域のコミュニティと断絶した問題はなかなか出てこないんです。
マイノリティ議員は、マイノリティの問題を取り上げやすいと思うのです。1つでもマイノリティの分野に関与していれば、他にも違うマイノリティの世界があると認識できると思います。
病気や精神的・肉体的な課題、仕事や人間関係での困難を、ご自身や家族が抱えている方は意外と多く、皆さん何かしらのマイノリティか、その関係者である事が多いものです。
多様性を担保するために、色んなマイノリティの声を拾っていきたいと思っており、議会質問ではもっと調べて固めてから取り上げようと思っていますが、加害者の社会復帰支援や触法少年の更生保護に取り組んでいます。この前は鑑別所に行ってきて、今度は少年院に行ってきます。
仁木
なるほど、まさに地域のコミュニティの外にある世界ですし、見えていない問題がありそうですね。

いろんな人が主役となって町のにぎわいづくりができる手助けをしていきたい

仁木
議会外での地域活動は何かされていますか?
荻野
9月に地域の商店街と協力して『おた★かま』というイベントを開催することができました。テレビでも放映されまして、町の賑わいづくりや蒲田東口商店街の宣伝に貢献できたのではないでしょうか。これがかなり好評で12月12日からも第2回が始まります。
『おた★かま』の参加者

後列左から3人目の赤い忍者が荻野さん。年齢や性別、種族をも超えてにぎわいが生まれている。

荻野
これからも町の賑わいづくりで色んな人が主役になれたり、色んなひとがそこに居られる、参加できる居場所を作る手助けをしていきたいです。
仁木
多様な価値観を認め合って、どんな人でもイキイキと自己表現できる社会は素晴らしいですね。これからも「オタク議員」として独自の視点を活かして頑張ってください!
荻野
ありがとうございます、声の大きい方々の声だけでなく、声をあげられない多数の方の声や少数派、若者と言った方々をはじめ、集団ではない一人一人の苦しみや悩み、幸福追求にも寄り添えるように引き続き頑張ります!
関連記事
第3回 猟師から町議へ 「狩りガール」は政界で何を狩るのか?
第2回 日本で唯一!?よそ者20代当選議員だけでつくる2人会派の挑戦(後編)
第1回 日本で唯一!?よそ者20代当選議員だけでつくる2人会派の挑戦(前編)
[PR]28パターンで考える“あなたの会社の”マイナンバー対策
荻野稔荻野 稔(おぎの みのる) 大田区議会議員
1985年11月群馬県生まれ。アミューズメント総合学院卒。自身も持病を抱えて生きてきた事から、NPO法人で身体・精神障害をお持ちの方の支援に取り組み、働きながら慶応義塾大学経済学部通信課程に進学。表現の自由の問題に携わり、政治家や行政と折衝、東京都議会で12年ぶり(当時)の都知事提案条例の否決にかかわる。2013年より都議会議員秘書を経て、2015年の大田区議会議員選挙で3,653票を得て初当選(当選時29歳)。
WebサイトfacebookTwitter
荻野稔氏プロフィールページ
一般社団法人ユースデモクラシー推進機構 代表理事 仁木崇嗣一般社団法人ユースデモクラシー推進機構 代表理事 仁木崇嗣
1986年10月奈良県生まれ。デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツ研究科修了。陸上自衛隊少年工科学校卒、ベンチャー企業勤務を経て、2010年に株式会社火力支援を設立。デザイン&ICTを活用した公共部門のロジスティックスを支える事業を展開し、選挙支援の実績は延べ100件を超える。2015年、若者・将来世代のための政治を実現するべく、仲間と共に一般社団法人ユースデモクラシー推進機構を立ち上げ、代表理事に就任。
関連リンク
一般社団法人ユースデモクラシー推進機構ホームページ
facebookページ(ydpajapan)