【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】
第21回「議会と住民自治の関係を考える~直接民主主義と間接民主主義の間で~」(2013/1/30 大分県由布市議会議員 小林華弥子/LM推進地議連運営委員)
政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。9月からは、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を開始しています。第21回目は、由布市議会議員の小林華弥子氏による「議会と住民自治の関係を考える~直接民主主義と間接民主主義の間で~」をお届けします。
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大分県由布市は、2005年10月に「平成の大合併」で旧3町(挾間町・庄内町・湯布院町)が対等合併してできた新市だ。新生・由布市が誕生して早くも8年が経過。2013年10月には市長・市議会議員の3期目の改選が控えている。そして、多くの合併市町村に共通する課題を、由布市も同様に抱えている。
私自身は、旧・湯布院町の最後の町議会議員選挙に初当選して以来、町議1期、市議2期を務めてきた。その中で、新しい自治体と地方議会づくりを通して、議会のあり方や議員の役割、地方議会の存在意義についてさまざまに思い悩み、感じるところが多くあった。そのような中、試行錯誤しながら活動してきた成果を「議員が個人で政策提言をし続け、実現にまでこぎ着けた事例は珍しい」と評価され、2006年の「第1回マニフェスト大賞」で審査員特別賞をいただいた。
しかし、市議会議員として活動すればするほど、議会や議員のあり方をめぐる課題や問題をどのように考えればよいのか、悩みや疑問は深まるばかりである。そのような疑問や課題点を2011年、修士論文にまとめたところであるが(※1)、ここではその中で論じた諸課題のうち、特に全国で活躍されている多くの地方議会議員仲間と問題意識を共有したい「住民自治と地方議会の関係」について、少し取り出して述べてみたい。
今、本格的な地方分権時代を迎え、住民の直接参加による住民自治の重要性はますます高まっている。地域の住民たちが地域づくりや自治体運営に直接関われば、地域住民のニーズと意向が反映されやすい自治体づくりが進められる。その結果、地域の自治力が高められるとして、住民の直接参加による住民自治の機会が拡充されている。
そのような中で、住民の代表機関であり自治体の最高決議権を持つ議会、そして代表者として有権者から選ばれた議員たちは、この住民自治とどのような関係を築けばよいのか。住民自治と地方議会は相容れないものであるのか。住民の直接参加による自治と代表機関としての議会が、ともに機能するためにはどうすればよいのか。「地方分権推進」や「地方自治の充実」という名目の下で、地域の住民自治が推進されればされるほど、地方議会と地方議員の存在意義と役割は、ますます厳しく問われることになる。
議会の役割と住民自治との関係を考察するには、議会がその存在のよりどころとしている「代表制民主主義」と、住民による直接自治が成り立つ「直接民主主義」とのあり方について注目しなければならない。詳しい論拠は拙文の修士論文で述べたので詳細はそちらに譲るが、まとめて言うと、住民投票や住民の直接請求(リコール)のあり方や、現在は町村にのみ認められている「町村住民総会」の設置規定を通して考えたときに、直接民主主義と間接民主主義は対立したり、どちらかがどちらかに勝ったり、あるいは上下関係の中で補完するという発想ではない。それぞれに別の役割と意義があり、それぞれの特徴として得意とする分野が違うのであり、それをうまく配置して使い分けることが必要なのではないか、ということである。
それとまったく同じ意味で、代表民主制による「議会」と、住民投票などで実施される直接民主制による「住民自治」とは、相反したり、対立したり、どちらかがどちらかを上回ったり、勝ったり、あるいは優先されたりするのではなく、それぞれが別の役割、意味を持つ。言い換えれば、それぞれに特異な特徴と機能を持っており、それらを生かす「得意な分野」がそれぞれにあるはずである。
それぞれの役割、それぞれに特異な特徴と機能とは、
- (1)議論の場が補償されているか
- 議会:されている、住民自治:されていない
- (2)議論の参加者が変わるか
- 議会:変わらない、住民自治:変わりやすい
- (3)議論する視点と立場が違う
- 議会:自治体全体や市民全体、将来にわたっての長期的視点から総体的・相対的利害を考える、住民自治:直面している課題の直接利害者として当面の利害を考える
- (4)課題設定の違い
- 議会:自治体全体の総体的課題設定、住民自治:個別具体的な課題設定
──といった点である。これらの観点から考えたときに、住民の直接参加による住民自治と、代表機関としての議会の熟議に基づく合議決定には、それぞれに得意・不得意とする分野があり、そのことによって、果たすべき役割や目的がそれぞれあると言える。
特に議会の役割について言えば、議会制による間接民主主義は、単に住民参加による直接民主主義の代替なのではない。直接民主主義ではなかなか実現しえないことを、「代表」と“見なされている(※2)”人たちが「熟議」するという最大の特徴を生かすことによって実現し得る、特異な性能を持っているのである。大森彌(わたる)氏の言葉を借りれば「合議体として議会の持ち味である地域社会の統合力」は逆に言えば、議会にしか持ち得ないものである。
議会が熟議をつくし、自らが「見なされている」ことを自覚したうえで、何を代表しているのかという問題をきちんと見つめ直す。それと同時に、市民も徹底的な議論と自治力の向上を図ったうえで、自らの直接自治で実現しようとしている「自治」の中身を確かなものにする。そのためには、それぞれの特異な特徴や特質を見極め、それにあった熟議のあり方を考える必要がある。それぞれが議論する場所や立場と視点、問題や課題設定の違いを明確にしたとき、議会制による間接民主主義と住民自治による直接民主主義には、それぞれに別のミッションがあることに初めて気づくだろう。そのときこそ、新たな分権型自治社会における議会の存在意義と役割、議会と住民自治との新たな関係が見えるのではないだろうか。
そして肝心なのは、自分たちの自治体や地域社会では、直接民主主義と間接民主主義の関係をどう考えるのか、自分たちの町の自治制度として地方議会と住民の直接参加はどういう関係におき、その相関関係にはどういう制度をつくるのか。それを地域が主体的に考えなくては、本当の地方自治は生まれないであろう。今こそ、それぞれの自治体や地域社会に応じて独自の思想と主義を模索し、それに合わせた直接民主主義と代表民主主義の関係性をつくっていくことが必要なのではないか、と思う。
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※1 参照:『地方分権時代における地方議会と地方自治 ~直接民主主義と間接民主主義の間で 地方議会・議員の代表性と存在意義~』(2011.3.小林華弥子)(記事に戻る)
※2 民主制においては、選挙によって選ばれた者を「代表者」として見なす、選挙の擬制(ぎせい)のこと。(記事に戻る)
- 参照
- 大森彌『分権改革と地方議会』p.89,90,91(ぎょうせい、2002年)。
- 佐々木毅『民主主義という不思議な仕組み』p.69(筑摩書房、2007年)。
- 杉田敦「自治体と代表制─競争としての代表=表象 (特集 自治体における代表制)」(『年報 自治体学』19号、自治体学会(編)、第一法規、2006年5月)。
- 著者プロフィール
- 小林華弥子(こばやし かやこ):1968年アフリカ・エチオピア生まれ、香港育ち。日本女子大学文学部英文学科、早稲田大学第二文学部卒業。バブル全盛期を英国系外資系銀行東京支店で勤務後、1997年、湯布院に移住。都市計画・地域づくりコンサルタント会社勤務を経て、2004年湯布院町議会議員選挙に初当選。2005年合併に伴う由布市議会議員選挙に当選。町議1期、現在は市議2期目。無所属。2006年第1回「マニフェスト大賞」で、審査委員特別賞受賞。2007年「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2008」(日経WOMAN主催)に選出。
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