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【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】

第18回「まんじゅうとマニフェスト」(2013/1/9 熊本県議会議員 大西一史/LM推進地議連元共同代表)

ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟 連載・コラム

 政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。9月からは、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を開始しています。第18回目は、熊本県議会議員の大西一史氏による「毒まんじゅうとマニフェスト」をお届けします。

◇        ◇        ◇

2003年、マニフェスト型選挙のスタート

 今ではすっかり「詐欺の代名詞」とまで言われるようになったマニフェストであるが、わが国で初めてマニフェストによる選挙は、2003年4月の統一地方選挙からスタートした。そして、同年11月の衆議院議員総選挙では、各政党はこぞってマニフェストを作成した。

 そのころの政治状況は、現在と同じように政局・権力闘争にあけくれ、政党不信が高まっているような状況でもあった。そうした政治背景もあり、各政党にとって「政策力」をアピールできるマニフェストは、次の選挙に勝利するための「魔法のコトバ」だったのかもしれないし、今になってみれば、「マニフェスト」と名前の入ったものさえつくればイメージがアップする、という誤解が生じていたようにも感じる。

 2003年当時の政治状況を振り返ってみると、与党自民党の小泉純一郎首相(当時)が掲げた、いくつかの公約や主張が論争になっていた。特に自民党の中で「小泉構造改革」路線に反対の議員らが、各派閥から自民党総裁選に立候補し、「財政出動」を声高に主張していた。しかし、小泉人気が根強かったころでもあり、徐々に「政策には反対だが、小泉首相を支持する」という“矛盾”を抱えながら、政策よりも政局を中心に動いていった。そして、総裁選の攻防の過程で、それまで反小泉だったが急きょ、小泉支持に動いた一部派閥幹部に対し、反小泉急先鋒の野中広務元幹事長が「毒まんじゅうを食ったんか?」と痛烈に批判したことが大きく報道された。政治家も国民も、政策を地道に論じていくよりも、こうした「劇場型」の政局の動きに興味・関心が向いていくのである。

 政策よりも政局を重視したこのような動きに対し、当時野党だった民主党の菅直人代表は、「自民党の人たちが毒まんじゅうを食べるのは勝手だが、本当に苦しみを感じているのは国民だ。『小泉毒まんじゅう政権』を3年も続けさせたら、日本中に毒が回って生き返れなくなる」と猛烈に批判。「われわれは政局ではなく政策、マニフェストで勝負する」と、目玉政策である「高速道路無料化」や「衆議院議員の比例80人削減」などを盛り込んだマニフェストを発表して、「政策には反対だが、小泉首相を支持する」という「政策軽視」の自民党の矛盾を徹底的に攻撃した。

 国政選挙ではそれ以降、各政党が毎回マニフェストを掲げて戦ったが、前回(2009年)の総選挙において、ようやく政権交代が実現。民主党はマニフェストをもとに改革を推し進めようとした。ここまでは政策重視の姿勢が「表面的」には貫かれていたが、マニフェストに掲げられた政策がことごとく実現できず、政党自体が破たんし始めた。政策軽視を批判していた民主党自らが、「政策の不履行」によって政党自体を破壊に追い込む、という皮肉な結果になったのである。

 そして今、「約束を守れない」政党や政治家に対して有権者はもう、あきらめを通り越して、どのように政治家や政党を選べばよいのか分からないと感じている。さらに混乱に拍車をかけたのが、「第3極」と呼ばれる政党の離合集散だ。「小異を捨てて……」という言葉とともに、政策がここでも極めて軽い存在であるということを露呈させた。

衆院選で敬遠された「マニフェスト」という言葉

熊本県議会議員・大西一史氏 熊本県議会議員・大西一史氏

 こうした状況の中、2012年12月16日に行われた衆議院議員総選挙では、自民党が歴史的勝利をし、民主党から自民党へと政権が交代した。そして、各党がこれまでこぞって使用してきたマニフェストであったが、今回の総選挙では「民主党の手あかの付いた言葉」とされた「マニフェスト」という文言を自民党は一切使わず、「政権公約」という言葉をあえて用いた。マニフェストという言葉自体の持つ「表面的な力」が失われていることを、多くの政治家は感じ取っているのである。

 それでは今回の総選挙で、候補者や政党は有権者に対し、言葉はともかくその中身である「政策」を中心に呼びかけたのだろうか? そして、「政策」中心に投票行動が行われたのだろうか?

 おそらく答えは「NO」であろう。

 選挙前に矢継ぎ早に有権者に対し示されたのは、「政策」ではなかった。「古い政治に戻すのか?それとも前に進めるのか?」「日本を取り戻す」「今こそ維新を」「日本再建」「脱原発」「卒原発」「消費増税反対」など、“キャッチフレーズ”のオンパレードであった。自らの政策を丁寧に訴えた政党や候補者がどれだけいたのだろうか? そして、メディアも有権者に分かりやすく争点や論点を提示できたのだろうか? はなはだ疑問である。その証拠に、投票日当日の私の携帯電話は、朝から鳴り止まない状態になった。「結局、誰に入れていいかわからない。どうすればいいか? あなたの判断を聞きたい」

マニフェストを精査し、政治の信頼回復を

 さて、私たちがマニフェスト運動を始めた原点として踏まえておかなければならないのは、政治は権力闘争など、さまざまな駆け引きや妥協が繰り返される、ということ。しかし、そこを抜けだし、「政局から政策へ」転換させ、政治の質を向上するためにマニフェスト運動を始めたわけで、政治家にとって「最終的に政策実現が生命線である」ということをもう一度、肝に銘じることである。そして、マニフェストを少しでも確かなものにしていくためには、徹底的な「事後検証」により、新たなマニフェストをつくり出すということである。

 従来の公約では、「新しい公約をつくれば過去の公約不履行が水に流されがちになる」という点を改善し、「過去の公約不履行を検証し、なぜ履行できなかったのか、どうすれば実現できるのか?」という事後検証可能な点が、マニフェストの機能と効果として大きかったはずである。徹底的に検証し、そのうえで新たなマニフェストを作成することで、政策の実現性も高まるというものである。その「政策」の循環をつくり出すことでしか政治の質は高まらず、政治が信頼を回復することは絶対にあり得ない。

 ところが、選挙前に民主党が「マニフェストを1カ月ほどで作成するように党首が幹部に指示をした」と報道されていて、大変驚いた。その記事を見て、「たった1カ月で過去の公約不履行を検証し、実現可能なマニフェストを書けるのか? あれだけいい加減なマニフェストをつくって、懲りているはずなのに。なんでだろう?」と、開いた口がふさがらなかった。

 野党であった自民党は政権を奪還し、「政権公約」をもとにこれから政権を運営する。最近では、「アベノミクス」と呼ばれる経済政策を手始めに、信頼を取り戻そうと必死になっている。今後は「政権公約」に掲げた、それぞれの政策に対する履行や不履行、政策の結果が与党として厳しく問われていくことになるし、3年あまりの野党時代に「政権公約」策定のために、政策の精度を高める努力をどれだけしたのかも、問われるだろう。そのうえで確実に「政権公約」に掲げられた政策が責任を持って推進され、仮に政策を変更する際にも国民に説明責任を果たすのであれば、民主党のような失敗は繰り返さないはずである。

 そして、野党となる民主党も批判だけでなく、いかに政策論争で国会というオープンな場で議論していくのか。さらには、今までの反省を踏まえて、コツコツと政策を練り直し、参議院選挙や次の政権交代を見すえたマニフェストが書けるのか。党内で徹底的に検証することにより、壊滅的な打撃を受けた政党を立て直すことにつながるだろう。

 いずれにしても、「選挙の票目当て」の動きに対する処方せんが本来のマニフェストであり、「選挙の票目当てのマニフェスト」は政党や政治家を破滅に向かわせ、日本中に毒が回ってしまう、まさに「毒まんじゅう」となることを民主党が証明した。これからは、国民が「なんでだろう?」と首をかしげないように、各政党や政治家が「政策重視」の姿勢で信頼回復に努めることが、最も必要である。ある意味では、これからがマニフェストの正念場なのかもしれない。

 ちなみに、2003年の流行語大賞では「マニフェスト」と同時に、皮肉にも「毒まんじゅう」と「なんでだろう」も受賞したのである。

 はやり言葉は消えていくかもしれないが、「政局から政策へ」というマニフェストの本質は、日本の政治から決して消してはならないのである。

著者プロフィール
大西一史(おおにしかずふみ): 1967年12月9日、熊本市生まれ。九州大学大学院法学府公法・社会法学専攻修了。商社勤務、衆議院議員秘書を経て、熊本県議会議員(連続5期)。無所属改革クラブ代表
熊本大学大学院 法曹養成研究科 非常勤講師。
HP:熊本県議会議員・大西一史の県政レポート
twitter:@k_onishi
facebook:kazufumi.onishi
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