“夢”のもんじゅ 視察報告 その2(2012/08/15 武蔵野市議会議員 川名ゆうじ)
「グリーンテーブル」特集ページでは、7月17、18日に行われたJビレッジ視察・同発足会の議員レポートを掲載してきた。今回は、30日に行われた国会議員らによる高速増殖炉もんじゅ視察に同行した東京都武蔵野市議の川名ゆうじ氏のレポートの第2弾を、議員のブログから転載する。
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高速増殖炉「もんじゅ」は現在、外部有識者による「安全性総合評価検討委員会」が安全性を検証している。7月31日に委員会が開かれたが、安全性の結論は出されていない状況だ(2012年8月1日付中日新聞)。視察の際にも、福島第一原発の事故を受けて、安全性を再確認している。福島第一原発のようなことは起きない、電源車も確保しているともんじゅ側から説明されたが、もんじゅに実際に入ってみて感じたのは、「本当に大丈夫なのか」という不安だった。想定外で事故が起きてしまった以上、そう簡単に結論は出せないと思う。
そして、もんじゅを止める止めないを決定することは必要だが、その前に現場の人のことを考えることも重要だと思った。
説明によると、福島第一原発などの軽水炉(水で冷却する)は、最終的に海へ熱を逃がすため複数の設備が必要で、電源が必要になる。しかし、もんじゅはナトリウムを封入している配管を空気で冷やすことが可能であり、電源がなくても熱を冷却できる。主要施設は海面から21m以上の高さにあるため、福島第一原発のようなことは起きない。なおかつ、事故後、電源車を用意してあり高台に配置してあるとしていた。
地震は大丈夫? 地層には破砕帯
しかし、福島第一原発の事故は、津波ではなく地震が原因で、配管が壊れた可能性があると指摘されている。そう考えると、熱を加えていないと液状にならないナトリウムの特性から、ナトリウムの配管にニクロム線を巻きつけて熱を保つことや熱交換器との間を複雑に走る複雑な配管構造(説明資料の図参照)を見ると、素人目にも振動には弱い、つまり、地震に弱いのではないかと思えてしまう。
実際の配管には、2方向からダンパー(衝撃吸収装置)によって配管が支えられていたが、建物自体が損傷したらどうなるだろう。もんじゅが止まっている直接の原因が、この配管からのナトリウム漏れであることを考えると、巨大地震には耐えうるのか、そして、そうなった場合の被害が福島の事故以上の影響になるだろうと考えると、恐ろしさを感じてしまった。
もんじゅが建設されている地層には、破砕帯(帯状に砕かれた地層部分)があり、周辺の活断層によって引きずられる形で動き、建屋へ影響が出る可能性があると指摘されている。視察資料には周辺に活断層があるとしていたが、安全性は確保されていると視察の際にも説明していた。だが、7月31日付読売新聞では、この破砕帯について日本原子力研究開発機構が自主調査を行うと報道している。調査結果を待たないと何とも言えないが、不安材料はここにもあるという状況だ。
ウルトラ警備隊基地
施設内に入って感じたのは、「ウルトラ警備隊本部みたいだな」とも思ってしまった。最新鋭の設備の秘密基地というイメージだが、今の時代から見ると、なんだか古さを感じてしまうからだ。最近の工場はコンピューター仕掛けでいろいろな装置が所狭しと動くイメージがあるが、ここはほとんどの場所に人は少なく、しーんとしていて、金属製の巨大なケースと複雑に伸びる配管、中央制御室を見ると、原子力発電所というよりも、何かの工場のようだった。これは、先に視察した六ヶ所村の施設も同じような雰囲気だったので、原子力施設では共通なのかもしれない。
想定外は大丈夫か
炉の視察のさなか、菅直人前総理が担当者に向かって、「ナトリウムの沸点を超えたらどうなるのか。格納容器が溶けてしまったらどうなるか」と質問していたが、「そうはならない」という担当者との押し問答になっていた。「そうはならない」と言われてしまうと、想定外のことが起きてしまった現実を考えると「大丈夫なのかな」とも思う。あくまでも技術的な検証ではなく、素人の感想だが。
また、もんじゅの研究が成功したとしても、高速増殖炉を実用化するには、さらに規模を大きくした「実証炉」を建設しなくてはならない。その実証炉を検証した後でやっと「実用炉(商業炉)」となるのだそうだ。実証炉の規模はもんじゅの5倍程度。実用炉は2050年にというのが目標となっている。
だが、建設する場所も決まっていないばかりか、もんじゅ自体が稼働していないことを考えると、この先の計画も先行きは不透明ということになる。実証炉にする際には、もっと配管を短くしたい、熱膨張しない材質にしなくてはならないとの説明もあったが、その材質があるかとの質問には、「革新的な技術が必要」という答えだった。
だから“もんじゅの研究が必要”なのか、あるいは、“革新的技術ができるまではできない”との意味だったのか確認はできなかったが、現状ではまだまだ課題があることは確かなようだ。となると、費用はまだまだかかることになる。
動いていなくても1日5,500万円
もんじゅに費やしたコストも課題ともんじゅの反対派からは指摘されている。視察資料によれば、これまでにかかった費用は、9,656億円。約1兆円だ。
元京都大学原子炉実験所講師の小林桂二さんによれば、この全額には燃料費や専用の燃料製造費などが抜けており、総額は1兆3,000億円を超えるという。停止している現在でも、年間約200億円、1日当たり約5,500万円の費用がかかっている。
今後、実証炉をつくるとなると3,000億~4,000億円。実用炉で7,000億円がかかるだろうとの説明だった。これは炉の建設費のみで、土地代などは含まれていない。
目的が変わっている
今回の視察でもんじゅの必要性として強調されていたのは、高速増殖炉で使用済み核燃料のリサイクルができることだ。国内の原発で使われた使用済み核燃料をリサイクルして燃料とするので、高速増殖炉が実用化されない限りは、現在でも処理方法が決まっていない使用済み核燃料の行き先ができないことになる。行き先がない中で、国内の原発には核燃料があり、再稼働するかどうかは別としても、いずれは処理しなくてはならなくなる。もんじゅの技術が確立していれば話は違うのだが、現状では実験用に稼働さえしていないのだ。
高速増殖炉は本来、使用した以上に燃料を生み出すという夢のような目標があった。しかし今では、そのことよりも、使用済み核燃料の処理をする施設との意味合いが強くなっていると、今回の視察では受け取れた。だが、その技術は確立されていないばかりか、多額の費用が、稼働していなくてもかかってしまっている。
菅前首相は、視察後の記者会見で、「当初目的と異なってきている以上、原発をゼロにすれば、このもんじゅも必要なくなる。原発をなくし、もんじゅもなくすべきだ」との見解を述べていた。私もそう思う。
しかし、だ。ここで働いている人・研究者はどうすればいいのだろう。目的も変わってきて、その先も不透明。その状況で仕事をすることでいいのか。何よりも、モチベーションを保てるのだろうかと、もし自分が仕事をしていたらと考えてしまった。
止めるとしても、決めた翌日から仕事や研究がなくなるのではない。この施設をどうするのかといった新たな課題も出てくる。止めればいいと後先考えないで主張することは、野党なら簡単に言えることだが、与党である民主党は止めたとしても、その後をどうするかの目標も設定をすべきだろう。
「止めろ」というのは簡単。その先を考えること。特に再生可能エネルギーによる発電がどこまで可能なのか。不要な電気、なくてもことが足りる電気などをなくしていく節電も同時に考えていく必要があるはずだ。
結局は、「自らのライフスタイルの問題でもある」と改めて思った視察だった。そして、原発をどうすべきか結論を出し、その結論に基づいた目標設定と現実的なロードマップを今こそ示すことが必要なのだとも思った。それは、国任せではなく、“自治体から”“国民1人ひとりから”だ。この観点からは、自治体議員の役割はあり、重い責任を持っているはずだ。
そして、いつまでも“夢”を見続けているわけにはいかない。現実を考え、決める時期になっている。今年、2012年はもんじゅが運転を再開する予定の年だからだ。
※内部の写真撮影が許可されていないため、説明しにくいことをご容赦ください。
- 川名雄児(かわな・ゆうじ)
- 東京都武蔵野市議会議員。3期目。民主党所属。市議会では議会運営委員会委員長、総務委員会委員など。フリーライターとしてアウトドアやパソコン雑誌などでの執筆活動を経て市議会議員に。ローカルマニフェスト推進地方議員連盟事務局長。
HP:川名ゆうじのサイト