“夢”のもんじゅ 視察報告 その1(2012/08/03 武蔵野市議会議員 川名ゆうじ)
「グリーンテーブル」特集ページでは、7月17、18日に行われたJビレッジ視察・同発足会の議員レポートを3本にわたって掲載してきた。今回は、30日に行われた国会議員らによる高速増殖炉もんじゅ視察に同行した東京都武蔵野市議の川名ゆうじ氏のレポートを、議員のブログから転載する。
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福井県敦賀市にあるもんじゅを視察した。もんじゅは、消費した量以上の燃料を生み出すことができるという“夢の”高速増殖炉の原型炉。つまりは、実験、研究用の原子炉だ。この炉での検証が上手くいけば、実証炉を建設し検証、その後に実際に使うための実用炉を建設することで、その夢を実現することになる。しかし、1995年に起きたナトリウム漏れの影響で、14年半にわたって停止したままだ。今後も続けていくべきなのか。現在、大きな岐路に立っている。この炉をどうするかは、日本の原発政策の大きな課題でもある。
夢の施設
高速増殖炉は、原発の使用済み燃料を再処理(青森県六ヶ所村の施設)して取り出したプルトニウムを燃料とする原子炉だ。燃料として燃やしながら、プルトニウムを取り出して再び高速増殖炉で使う。これが成功すれば、燃料が永遠に近く使い続けられるサイクルができることになる。日本のエネルギーの確保、安全保障からも重要とされている。
また、日本にある原発のほとんどが軽水炉であり、発電とともに高速増殖炉の燃料を作ることにもなる。原発からの高レベル廃棄物の処理方法が決まっていない(10万年かけて保管するとしている場所は未定)ことを考えると、このサイクルができ上がらないことには今ある原発の使用済み燃料の処理ができないことにもなる。つまり、使用済み核燃料を処理する施設というわけだ。使用した以上の燃料が作り出せるのなら、夢のように思えてしまう。現代の錬金術師かとも思ってしまう。
ナトリウムでないとなりたたない
もんじゅは他の原子炉と違い、水を冷却剤に使わずナトリウムを使用していることから大きな課題を抱えている。
ナトリウムを冷却剤に使う理由は、中性子の速度を減速させずに増殖しやすくするためだ。水の約100倍も熱を伝えることができ、熱を効率よく取り出すことが可能で比較的安価に供給が可能などという特徴がある。他の物質の冷却材を検討したが、ナトリウムが優れていると判断されたため採用されている(2012年6月27日民主党エネルギーPTに示された文科省資料『「もんじゅ」の歴史とげんじょうについて』より)。
つまり、ナトリウムを使わないと成り立たない原子炉ということだ。
しかし、ナトリウムには、『化学的に活性であり水、蒸気などと反応する (空気中でも燃える)十分な対策(取扱技術)が必要となる』(前出資料)と文部科学省も認めるように水や空気と触れてはならないという課題があるのだ。そのため、実験炉であるもんじゅには『運転を通じて「発電プラントとしての信頼性の実評」と「運転経験を通じたナトリウム取扱技術の確立を達成することを目的とした研究開発」が使命ともなっている』(前出資料)。
ナトリウムの危険性
今回の視察では、もんじゅの施設だけではなく、反対派の市民グループ「ストップ・ザ・もんじゅ」の方々からもお話を伺わせていただいたが、その場にいらした小林桂二さん(元京都大学原子炉実験所講師)によれば、下記のような問題点があるという。
(1)水との危険性
高速増殖炉も最終的に蒸気タービンを回し発電するため、原子炉内で水を循環させているが、この水とナトリウムは暑さ3ミリ強の薄い金属壁を隔てただけとなっている。しかも、150気圧で流れている水の外側に数気圧程度のナトリウムが隣り合っている。もし、配管に穴が開けば、内外の大きな圧力差によって一気に大量の水がナトリウム中へ噴出し大爆発になる。諸外国でも管も破裂させる大事故がある。
(2)空気との危険性
炉心を冷やすために加熱してナトリウムを液状にしているが、加熱されたナトリウムは、空気に触れると燃えてしまう。もんじゅでは二次冷却系が空気雰囲気の室内に設けられているため、ナトリウムの漏えいによる火災事故の危険に常時さらされている。軽水炉の冷却水漏えいが日常茶飯事であることを考えれば危険性が高い。現在でもナトリウム漏れの事故が起きて以来、14年も停止したままである。これまでに、世界のどの高速増殖炉でも例外なくナトリウム火災事故を経験し、その数はもんじゅの事故までに、米国を除いて138件を数える。
(3)コンクリートと反応する
コンクリートは水分を含んでいるため、ナトリウムが触れるとその水と反応し、コンクリートの強度を失わせて破壊する。
(4)不透明なので監視ができない
ナトリウムは水と違い不透明なため、炉心作業や炉内状態監視が困難である。炉内の構造物に異常があっても発見できず、それがもとで事故を引き起こすことがある。2007年、実験装置の不完全な設置に気がつかず、炉内を破損させる事故が発生している。
(5)地震に弱い
熱衝撃による破壊を防止するため、機器や配管の肉厚を薄くしなければならないことや曲がりくねった配管構造のため地震に対し潜在的に弱い。
(6)プルトニウムの危険性
燃料となるプルトニウムは、放射能毒性の極めて強い物質であり、主な核種のプルトニウム239の毒性は、ウラン235の約4万倍、ウラン238の約27万倍である。もしもの事故が起きたときには、風の流れを実証事件したところ、関東地方まで影響が出ると想定できた(いただいた資料を抜粋)。
もんじゅの必要性
これらの課題の指摘について、もんじゅの研究・開発を行っている日本原子力研究開発機構、および文部科学省は、当然ながら否定し、大きなトラブルはないとしたうえで以下の大きな2つの理由から必要としている(前出資料)。
○エネルギー安定供給・安全保障
高速増殖炉サイクルが実用化すれば、ウラン資源の利用効率が格段に高まり、現在杷握されている利用可能なウラン資源だけでも数百年間にわたって原子力エネルギーを利用し続けることが可能(2005年10月決定の『原子力政策大綱』から抜粋)
消費した以上の燃料が作れるため、燃料を輸入に頼ることがなくなり、エネルギーの安定供給・安全保障に大きく貢献する。少なくともウランの採掘可能年数約100年が数百年利用可能になる。
○廃棄物対策
高速増殖炉サイクルが実用化すれば、高レベル放射性廃棄物中に長期に残留する放射線量を少なくし、発生エネルギーあたりの環境負荷を大幅に低減できる可能性も生まれる(『原子力政策大綱』から抜粋)。
また、高速炉では、半減期の長いマイナーアクチノイドを燃料として使用できるため、廃棄物の有害度がもともと当該燃料を製造するのに要した天然ウランと同じレベルになるために必要な期間が、約10万年から約300年に短縮できる。
もんじゅを視察した際、現地での説明では、使用済み核燃料の処理には必要な施設であることを強調していた。他の原発の最終処理が決まっていないため、高速増殖炉が実用化になれば、高レベル廃棄物の量を減らせることになるからだ。
14年間停止したまま
もんじゅは現在、停止したままとなっている。停止している直接の原因は、1995年にナトリウムの漏えい事故があったためだ。事故は、1994年4月に初臨界を達成し原子炉出力を段階的に上げる操作を行っている時に発生したもの。配管に挿入されている温度計のさやとなる管が折れ、こぼれ出たナトリウムが、空気中の水分と反応して火災となった。さらに、事故直後に撮影していたビデオを隠し発表しなかったことなどから大きな批判を受け、原子炉設置許可無効を求めて住民が訴訟を起こすなどした。その後、改善策が取られたが、炉内の中継装置が落下するなどの事故が発生したことから現在でも運転がされていないのが実情だ。本来であれば今年、運転を再開する予定なのだ。
技術的なことについては専門家でもないので、どちらが正しいかは簡単に判断できない。しかし、感覚としては気が付くものはある。それは、実際にもんじゅの中に入ってみて感じたことだった。
(つづく)
※視察は民主党の国会議員有志による脱原発ロードマップを考える会に民主党地方議員が同行しておこなったもの(グリーンテーブルメンバー)。
- 川名雄児(かわな・ゆうじ)
- 東京都武蔵野市議会議員。3期目。民主党所属。市議会では議会運営委員会委員長、総務委員会委員など。フリーライターとしてアウトドアやパソコン雑誌などでの執筆活動を経て市議会議員に。ローカルマニフェスト推進地方議員連盟事務局長。
HP:川名ゆうじのサイト