日本財団SIF2017―「日本は将来の食糧生産基地として注目されている」 (2017/12/5 日本財団)
若手経営者が“日本の食の未来”語る
日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム
全体の60%を輸入に頼るわが国の食糧事情は将来どうなるか―。11月17日から3日間、東京都内で開催された日本財団ソーシャルイノベーションフォーラムで、こんな課題をテーマにした分科会が開かれ、若手経営者3人が現状の問題点や将来の目標を語った。予測の難しい大きなテーマだが、3人からは「水の豊富な日本は、将来の食糧生産基地として各国から注目されている」「農業に参入する若手も増えている」といった前向きの見通しが披露された。
世界の食糧問題が深刻化する中、農林水産省によると日本の食糧自給率はカロリーベースで39%、生産額ベースで69%に留まる。主要先進国では最低水準にあり、国は2020年の自給率をカロリーベースで50%、生産額で70%に設定している。一方で生産農家の高齢化・減少が目立つほか、現在73億人の世界人口は2050年には92億人に達し、現在の1.5倍の食糧が必要になると推計され、食の安全保障が大きな問題となりつつある。
こうした背景を受けて行われた分科会のタイトルは「イノベーションが変える、日本の食の未来」。「日本の食卓から様々な食材が消える日はそう遠くない?」のサブタイトルが付された。登壇者は有機野菜の宅配サービス大手「オイシックスドット大地」の執行役員・松本浩平氏、「農業×Any=HAPPYに!」の理念で農業を通じて地域課題の解決を目指す「エムスクエア・ラボ」の代表取締役・加藤百合子氏、2015年からコールドプレスジュースの販売を開始した「イージェイ」代表取締役の岩崎亘氏。農水省大臣官房広報評価課長、長野麻子氏の進行で、それぞれの思いを語った。
食糧の60%以上、年間約5800万トンを輸入する日本は、その一方で約3分の1に当たる1940万トン、年間5000万が生活できる食糧が廃棄され、一人当たりの廃棄量は世界で最も多いとされている。スーパー、コンビニからの返品、家庭では賞味期限切れとなった食品の廃棄が中心といわれるが、形などの「規格」が厳しいのが日本の流通・食品業界の特徴とも言われる。
これに対し、今年10月、「オイシックス」と「大地を守る会」が経営統合して新会社となったオイシックスドット大地の松本氏は「有機野菜農家とのネットワークを拡大しながら“子どもに安心して食べさせられる”を目指し規格外商品である“ふぞろい野菜”なども扱っている。17年前の創業当時はビジネスモデルもなく駄目だったが、ようやく軌道に乗り始めた。これからはいろんなことができる」と今後の可能性を語った。
また静岡県沼津市のミカン専業農家の出身でもある岩崎氏は「ミカンは普通、1キロ(約10個)で300円、ジュースにすると1000円近くで販売され、1キロ10円程度にしかならないキズものの多くは捨てられている。これを150円で買い600~700円でジュースとして販売することで双方がハッピーになる仕組みを考えている」と語った。
エムスクエア・ラボは生産者が育てた農産物を食材にこだわる飲食店や食品加工会社に納めるベジプロバイダーの事業を静岡で展開する。加藤氏は農業ロボットの開発・普及にも関わる異色の創業者。「10年前はなかなか仲間に入れてもらえなかったが今は追い風を感じる。食がなくなることはないし、農業の就業人口も減りつつある。持続的に稼ぐには農業こそベスト」と強気の見通しを披露した。
最後は「2050年に日本人は何を食べているか」を議論。現在、途上国を中心に消費量が急増している肉類を例にとれば、肉1キロを生産するのに大豆11キロが飼料として使われており、今後は大豆から作る「植物的な肉」が増える、といった意見とともに、「おいしいものがどん作れるようになる」(松本氏)、「今、食べていないものを食べるようになる」(岩崎氏)といった意見が出された。
●日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2017 ウェブサイト
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