宗教の違い乗り越え差別撤廃を提言 (2016/6/21 日本財団)
ハンセン病を考える初の国際シンポ
ローマ教皇庁と日本財団が共催
宗教の違いを越えてハンセン病と差別を考える国際シンポジウム「ハンセン病患者・回復者の尊厳の尊重とホリスティックケアに向けて」が6月9、10両日、ローマ教皇庁で開催されました。教皇庁保健従事者評議会と日本財団の共催で、ローマ教皇庁でこうしたシンポジウムが開催されるのは初めてのケースです。
シンポジウムには世界45カ国からハンセン病の差別と闘う回復者団体のリーダーら約230人が参加、ローマ・カトリック教のほかイスラム教、ヒンズー教、仏教、ユダヤ教の宗教指導者も出席し、「ハンセン病問題の軽減」、「病者とその家族への支援」、「回復者の社会復帰」の3つの課題を中心に意見を交換、最終日には世界に向け勧告も発表されました。
ハンセン病は末梢神経が侵され、手足に障害が残ることから、「業病」、「不治の病」と忌み嫌われてきた長い歴史がありますが、1980年代に多剤併用療法(MDT)と呼ばれる治療法が開発され「治る病気」となりました。しかし、治癒した後も「元患者」として引き続き就職や結婚、教育などで厳しい差別を受ける現実があり、シンポジウムでは特に予防の観点から早期発見と治療の必要性が強調されました。
誤った言葉や悪い喩えにハンセン病が使われ、偏見と差別が助長されている現実もあります。旧約聖書にハンセン病を蔑む言葉として「レパー」が記されていることもあって、今でも「レパー」という言葉が度々、使われる実態があり、シンポジウムでも回復者から「『レパー』という言葉を使わないでほしい」「ハンセン病を悪い喩えに使わないでほしい」といった強い要請が出ました。
ハンセン病患者を遠ざけ、隔離してきた事実は聖書に限らず、さまざまな書物に残され、シンポジウムでは、社会の無知、無関心が今もハンセン病患者や回復者を苦しめている現実も報告されました。
「公共交通機関やホテル、レストランの利用を禁止する条例が今も残されている」、「婚約を一方的に破棄された例がある」、「ハンセン病療養所に隔離される時、霊柩車に乗せられた」―。世界各地の深刻な事例が報告され、日本から参加した岡山県のハンセン病療養所「長島愛生園」自治会の石田雅男副会長は「10歳の時に家族と引き離され長島愛生園に送られた。悲しく辛い70年だった」と振り返りました。
また各宗教の代表者からは、「癒しのない病気を神は与えない」、「宗教上、苦しみの中で生きてきた人を無視することはあり得ない」、「生きるものは平等の権利を持っている」など、宗教がハンセン病患者、回復者の人権回復に大きな役割を負っていることを改めて確認する見解が示されました。
ハンセン病に苦しむ人々のために大きな役割を果たした宗教家も少なくありません。19世紀には、聖ダミアン神父が宣教師としてハワイのモラカイ島に渡りハンセン病患者のために生涯を捧げました。ローマ・カトリック教会は全世界760教区でハンセン病の実態調査を実施、病に対する啓蒙、就職、教育支援等が行われている実態を紹介し、同様の支援活動は他の宗教の代表者からも報告されました。エイズ支援を例に、ハンセン病でも宗教間の連携の必要性を指摘する声も出ました。
シンポジウムでは2日間の議論の後、世界各地の回復者団体や各宗教指導者が、シンポジウム協力者の「善きサマリア人財団」、「ラウル・フォレロ財団」、「マルタ騎士団」と連名で、結論と勧告を発表し、ハンセン病に対する偏見・差別の撤廃に向け気持ちを新たにしました。
発表された結論と勧告には、「ハンセン病に対する建研と差別の闘いでは回復者が主役となるようサポートする」、「レパーという差別用語を使わない。また、ハンセン病を悪い喩えに使わない」、「宗教は教育や行動につながる活動に取り組み、重要な役割を果たす」、「各国政府は2010年に国連総会で採択された差別撤廃決議を実行しなければならない」、「差別的な法律は廃止しなければならない」、「新たな患者を生まないためにも、新しい診断等、科学的な研究を進める」など幅広い内容が盛り込まれています。
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