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半数が島外からの留学生―海士町の「学校の魅力化」プロジェクト(中) (2017/1/4 日本財団)

統廃合寸前だった島前高校が大変身
全校生徒の半数が島外からの“留学生”

「あっ、悠君だ。お久しぶり!」。島根県隠岐諸島のひとつ、海士町に来て2日目の11月7日、岩本悠さんと県立隠岐島前(どうぜん)高校を訪ねました。校内を案内してもらっていると、女子高生たちが岩本さんの周りに集まってきました。岩本さんは昨年4月、県教育庁の教育魅力化特命官に任命されて松江市勤務になり、海士町に来ることは少なくなったのです。このため、女子高生から「食事会に来ませんか」と誘われていました。

島前高校の図書館で女子高生と語り合う岩本さん

島前高校の図書館で女子高生と語り合う岩本さん

隠岐諸島は島前地区と島後地区に分かれ、島前地区は西ノ島町、海士町、知夫(ちぶ)村の3町村で構成されています。隠岐島前高校は、3町村で唯1つの高校で、西ノ島町、知夫村からも通学しています。生徒数は1989年(平成元年)には242人でしたが、2004年ごろから減り始め、2008年には88人と100人を切ってしまいました。入学者数が21人に減ると統廃合の対象になりますが、2008年には28人になり、統廃合が目前といわれていました。海士町から本土の高校に入ると、親の仕送りは年間約100万円に上ることから、子どもが中学生になると家族で島を出るケースが増えていたのです。

こうした状況を受けて、岩本さんたちは住民の島外移住を食い止めるため、学校の魅力化に取り組み始めました。つまり、魅力的な子どもを育てるのが目的で、具体的には(1)自分たちと違う文化を取り入れる(2)主体的に解決する能力を身に付ける(3)自分の生き方を自分で決めていく、の3つが柱です。そのために地域の課題を学ぶ「地域学」と、将来自分がやりたいことを探す「夢探求」の2つの科目を生み出しました。その一方、大学へ進学する生徒のための「特別進学コース」を廃止しました。さらに、地域学はその後、保健・情報・家庭科を融合した「地域生活学」に変化しています。こうした学校の魅力化が進み、2012年ごろから生徒が増え始め、現在は180人になっています。

生徒の自主性を尊重する授業で笑いが巻き起こる(世界史の授業)

生徒の自主性を尊重する授業で笑いが巻き起こる(世界史の授業)

進路指導主任の中村怜詞先生に、授業の現状などについて聞きました。中村先生は世界史が専門ですが、夢探求と地域学も教えています。岩本さんの学校魅力化に関する役割を聞くと、「島前高校の航路と船をデザインした人です。我々教員はその船の漕ぎ手です」と答えました。岩本さんの航路に対する教員サイドの抵抗は当初、激しかったといいます。「我々は計画をつくるところから参加していたのですが、参加していない教員の反発は強かった。とくに、地域学を担当する社会科の先生の多くが反対しました。でも、今では皆納得して教えています」と話していました。

また、島前高校は文科省からグローバルリーダー育成のための「スーパーグローバルハイスクール」に指定され、ロシアやブータンなど世界8カ国と交流を行っています。2年次にはシンガポールへ海外研修に行き、現地の大学生に地域の課題についてプレゼンテーションする機会が設けられています。

島前高校には、教員以外に「教育魅力化コーディネーター」がいます。教員免許はないが、職員室に席があり、地域と教員とをつなぐパイプ役です。現在、コーディネーターを務める大野佳祐さんは、早稲田大学職員から同高校に迎えられました。大野さんは「重要な授業の前には、担当教員全員と話し合って授業の内容などを決めます。この2年間でそうした場面が増えています」と話していました。

学校の魅力化について語り合う大野コーディネーター(左)と岩本さん

学校の魅力化について語り合う大野コーディネーター(左)と岩本さん

常松徹校長は「教員の9割は本土の出身で、地元の方々の協力を得るためにはコーディネーターの存在が大きい。生徒が18歳で島を出て行く時、どんな18歳になってほしいかを探るには、コーディネーターは不可欠です。離島だけでなく、どの高校でも同様だと思います」と強調していました。

この後、岩本さんと島前高校の授業を見学しました。世界史の授業をのぞくと、パレスチナ紛争の歴史について動画を見ながら学んでいました。担当の生徒が事前に調べた内容を発表し、それを基に先生と質疑・応答を行っていました。考える力を育成するアクティブ・ラーニング型授業でした。また、英語の授業を行っている教室に入ると、先生と生徒が英語でやり取りしていました。英語の先生のほかに、語学教師のアシスタントがいて、授業をサポートしていました。現在はニュージーランドからの留学生がサポート役を務めているそうです。

常松校長(中央)と弁当を食べながら話し合う女生徒たち。左は岩本さん

常松校長(中央)と弁当を食べながら話し合う女生徒たち。左は岩本さん

その後、校長室へ行くと、女生徒5人が常松校長と一緒に昼食を取りながら話し合っていました。生徒たちは全員、今春島外から入学した1年生で、地域の人たちと食事会を開き、交流する計画を校長に提案していました。女生徒たちに島前高校を選んだ理由を聞くと、「島が好きなので」「離島の生活が気に入った」「都会と違って何もないところがいい」などと答えていました。

高校の敷地内に昨年1月、学生寮「清明寮」が新設されました。定員は92人で現在、男子40人、女子45人が入居しています。居室が冷暖房完備のうえ、ワークショップのスペースや自習室があり、地域の人たちと交流する場にもなっています。寮の運営は生徒の自主性に任せられています。最近は、学生寮を見て入学を決める親が多いそうです。

冷暖房などが完備した、最先端の学生寮

冷暖房などが完備した、最先端の学生寮

校内を見学して気が付いたのは、会う生徒がだれも明るく、楽しそうだったことです。これは、みんながやりたい授業ができるからだろうと思いました。とくに1,2年生は、地域の課題に取り組む「地域生活学」が週3時限あり、生徒自身が課題を決め、解決策を探るのです。たとえば、町内に400軒もある空き家をどうしようかと問題提起し、専門家の話などを聞いて活用法を研究します。押し付けられたテーマとは違って、やる気が出てくるし、問題解決も容易になるのでしょう。次回、最終回では、学校の魅力化プロジェクトの今後を探ります。

(続く)

◇        ◇

【メモ】県立隠岐島前高校
全校の生徒数は180人で、男女比は男子49、女子51。このうち島外からの学生は85人。部活が盛んで、中でもレスリング部は20年以上連続してインターハイに出場する強豪で、強化校にも指定されている。男子部員だけでなく、女子部員も活躍している。このほか運動系では、男女ソフトテニス、男女バレーボール、女子バスケットボールの各部がある。文科系では、地域国際交流部、島内外の人たちに島前の魅力を伝えるユニークな「ヒトツナギ部」がある。

●日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016 ウェブサイト

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