【衆議院議員選挙2014】
第22回政治山調査「消費増税は争点にはなりえない―主婦から見た衆院選」(1/2) (2014/12/4 政治山)
12月2日、第47回衆議院議員選挙が公示となりましたが、衆議院解散のきっかけは消費税率10%への引き上げ時期について国民に問うという安倍首相の決断でした。
今年4月の8%への増税から8カ月、消費増税は私たちの日々の暮らしにどのような影響を与えているのか-政治山では、株式会社うるるとの共同調査として同社が提供する主婦特化型マーケティング調査サイト「暮らしの根っこ」会員のうち、既婚の成人女性を対象に11月20日~25日の間でインターネット調査を実施しました(回答数1000、調査概要へ)。
本調査の結果を受けて、選挙・投票行動の研究や世論調査分析を専門とする早稲田大学現代政治経済研究所特別研究員の今井亮佑氏のレポートを紹介します。
◇ ◇ ◇
本年4月1日、消費税の税率が従来の5%から8%へと引き上げられた。その直後の今年4月10日から12日にかけて、政治山は「暮らしと消費増税に関する有権者意識調査」というテーマのインターネット調査を行い、既婚の成人女性1000人から有効回答を得た。
さらに、この調査から半年強を経た11月20日から25日に、同一テーマのインターネット調査を行い、同じく既婚の成人女性1000人から有効回答を寄せてもらった。
その目的は、消費増税から約半年の間に主婦層の意識と行動にどのような変化が生じたのか、消費増税に対する態度は来る衆院選における投票行動にどのような影響を及ぼす可能性があるのかを見ることにあった。
本小論では、調査結果をもとにこれら論点について検証する。まずは、4月調査から11月調査にかけての変化から見ていくことにしよう。
増税から半年、固くなった主婦の財布の紐
両調査で尋ねた質問の中に、「消費税についておうかがいします。次にあげるものの中に、今年4月1日に実施された消費税増税を機に節約するようになったものはありますか。あてはまるものを全てお選びください」というものがある。この問いに対する回答の変化をまとめたのがグラフ1である。
筆者は、「外食」や「ファッション・美容費」「レジャー・娯楽費」「自分や家族の小遣い」といった項目に関して、4月から11月にかけて「節約するようになった」と回答する人が増える一方で、「食費(外食を除く)」「光熱費」「住宅費」「日用雑貨」など、日々の生活に直結する費目に関しては、「節約するようになった」と回答する人の数に変化はないのではないかと予想した。
しかし実際に得られた調査結果は、この予想には合致しないものであった。具体的には、「外食」「日用雑貨」「レジャー・娯楽費」「交通費」「その他」の5項目に関しては、4月調査と11月調査の間で統計学的に意味のある選択率の差が見られなかった。
一方、4月調査から11月調査にかけて、「光熱費」に関しては選択率が有意に低下し、「食費(外食を除く)」「ファッション・美容費」「通信費」「交際費」「医療・保険費」「住宅費」「教育費・自己研鑽費」「自分や家族の小遣い」と、「特にない」に関しては選択率が有意に上昇した。その結果、「特にない」を除く14項目の中での選択数の平均は、4月の2.52個から11月の2.92個へと増加した。
それと同時に、この質問に対する主婦層の回答が二極化する傾向も垣間見える。グラフ2は、「特にない」を除く14項目の中での選択数を、「0個(特にない)」「1~2個」「3個以上」の3つにまとめて示したものである。これを見ると、4月から11月にかけて、「1~2個」の比率が39.0%から30.5%に大きく低下する一方で、「0個(特にない)」の比率は23.3%から27.3%へ、「3個以上」の比率は37.7%から42.2%へと、それぞれ上昇していることがわかる。
つまり、消費増税に加えてじわりと物価が上昇する中で、多くの費目での支出について財布のひもを固くした主婦が多数いる一方で、増税や物価上昇傾向には無頓着で、節約志向を高めるようなことはしていないという主婦も一定数いることがうかがえるのである。
負担軽減のための給付措置の効果は?
「消費税率を8%に引き上げるにあたり、政府は低所得者や子育て世帯への負担に配慮し、臨時の給付措置を実施しました。中には該当世帯が申請をしなければ受給できないものがあります。あなたは、次にあげる(1)から(5)の措置を利用しましたか。今後利用する予定はありますか、それともありませんか」という質問も両調査で行っているため、回答の分布に関する時系列的な変化を追うことができる。それをまとめたグラフ3からは、次の3点を読み取ることができる。
(1)「子育て世帯臨時特例給付金」を3割近くが利用
第1に、給付措置の中で唯一「子育て世帯臨時特例給付金」のみ、11月調査で4分の1を超える主婦が「利用した」と回答している。他の4項目について11月調査で「利用した」と回答した比率が、「臨時福祉給付金(簡素な給付措置)」が6.7%、「住宅取得等に係る給付措置(住宅ローン減税等の拡充、すまい給付金等の創設)」が3.7%、「車体課税(自動車取得税・自動車重量税)の見直し」が2.2%、「住んでいる自治体が実施する助成」が2.4%と非常に低いのとは対照的に、「子育て世帯臨時特例給付金」については28.2%の回答者が「利用した」としているのである。
しかも、4月調査から11月調査にかけて、「子育て世帯臨時特例給付金」を「今後利用する予定である」とする回答が26.0%から5.0%へと減少する一方で、「利用した」とする回答が0.6%から28.2%へと増加している。これは、もともと利用するつもりであった人がこの半年で実際に利用したということを意味している。こうした傾向を示すのも、この「子育て世帯臨時特例給付金」のみである。
(2)大きく向上した給付措置の認知度
第2に、この半年でいずれの給付措置についても認知度は大きく上昇している。消費増税実施直後の4月調査では、「子育て世帯臨時特例給付金」を除き、回答者の4割から6割が「このような措置があることについて知らなかった」と回答していた。
ところが11月調査では、知らなかったとする回答の比率が、「子育て世帯臨時特例給付金」については28.5%から18.9%へ、「臨時福祉給付金」が50.3%から37.1%へ、「住宅取得等に係る給付措置」が42.1%から31.5%へ、「車体課税の見直し」が45.7%から37.1%へ、「住んでいる自治体が実施する助成」が59.9%から45.4%へと、いずれも大きく低下しているのである。
とはいえ、増税から半年以上が経過した時点でも「このような措置があることについて知らなかった」とする回答が「子育て世帯臨時特例給付金」を除き3割を超えていることから、依然として給付措置の認知度は低いと言わざるを得ないだろう。
(3)認知度の向上は利用者増には直結しない
第3に、受給条件を満たさない人が多いということもあってか、給付措置の認知度の上昇は、それを利用する人の増加にはつながっていない。むしろ、給付措置の存在を知った上で、自分(たち)は「利用する予定はない」と考える主婦が増加しているようである。
というのも、4月調査から11月調査にかけて、先に見たように「このような措置があることについて知らなかった」とする回答の比率が大きく低下する一方で、「利用する予定はない」という回答の比率は、「子育て世帯臨時特例給付金」が44.9%から47.9%へ、「臨時福祉給付金」が44.7%から53.2%へ、「住宅取得等に係る給付措置」が52.5%から60.3%へ、「車体課税の見直し」が45.9%から50.8%へ、「住んでいる自治体が実施する助成」が33.9%から46.0%へと、それぞれ上昇しているからである。
この調査結果だけから断定することはできないが、「子育て世帯臨時特例給付金」を除き、給付措置が必ずしも十分な効果を上げていない可能性があるように思われる。給付措置のあり方について、実態を踏まえた検証を今後行う必要があろう。
◇ ◇ ◇
次のページでは、消費増税の時期は衆院選の争点になり得るかについて紹介します。
<調査概要>
調査対象者 | 全国、20歳以上の既婚女性 |
---|---|
回答者数 | 1,000 |
調査期間 | 2014年11月20日(木)~11月25日(火) |
主な質問 | 調査テーマ「暮らしと消費増税に関する有権者意識調査」 ・普段あなたは何党を支持していますか。 ・あなたは、現在の安倍晋三内閣を支持しますか。 ・現在の日本が直面している8つの政策課題について、安倍晋三内閣はよくやってきたと思いますか。 (1)医療・介護(2)外交・安全保障(3)景気・雇用対策 (4)原発・エネルギー政策(5)子育て支援・教育政策 (6)消費税増税(7)女性の活躍推進(8)地方創生(地方活性化) ・現在の日本の景気は、1年前と比べるとどうでしょうか。 ・現在のお宅の暮らし向きは、1年前と比べるとどうでしょうか。 ・今年4月の消費税増税を機に節約するようになったものはありますか。 (1)食費(外食を除く)(2)外食(3)日用雑貨 (4)ファッション・美容費(5)光熱費(6)通信費(7)交際費 (8)レジャー・娯楽費(9)交通費(10)医療・保険費 (11)住宅費(12)教育費・自己研鑽費(13)自分や家族の小遣い ・消費税の税率について、あなたのお考えに近いものをお選びください。 ・臨時の給付措置を利用しましたか。今後利用する予定はありますか。 ・今度の衆院選で、どの政党の候補者に投票しようと思っていますか。 |
調査手法 | インターネット調査(主婦特化型マーケティング調査サイト「暮らしの根っこ」) |
調査実施機関 | 株式会社パイプドビッツ、株式会社うるる |