北川正恭氏インタビュー
民主政治を進化させるために、ネット選挙を活用せよ
~政策で選挙を勝負する時代に~
(2013/7/3 早大マニフェスト研究所)
7月4日公示日の参議院議員選挙は、日本の選挙史上初のインターネットによる選挙運動(ネット選挙)が解禁され、候補者や有権者が選挙期間中、ブログやツイッターで自由に意見を表明できるようになります。この大きな変革の中で、選挙はどう変わり、有権者は何をしなければならないのでしょうか。早稲田大マニフェスト研究所の北川正恭所長に、ネット選挙の意義と有権者の意識について聞きました。
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ネット選挙で政治が変わる
政治や行政はこれまで、非公開の情報を独占することで縦割り・階層型社会の頂点に君臨してきた。“地盤・看板・かばん”という三種の神器を持った人だけで政治が行われ、有権者は白紙委任を強いられてきた。
従来は候補者が政策を訴える手段に制約を加える公職選挙法(公選法)が、閉じられた政治を補完してきた。紙の文化を前提とした公選法では、法定はがきや法定ビラの枚数には上限がある。候補者から法定はがきが送られてきた経験のある有権者が何人いるだろうか。
インターネットの普及による社会の変化に、政治もようやく追いついてかじを切ったのだから、民主政治にとっては重要な転換点と言える。三種の神器を持たない候補者も政策で勝負できるようになる。ネットの世界は横展開型であり、階層社会をいとも簡単にフラット化してしまう。選挙ポスターに20年前の写真を使う候補者もいるが、ネット動画でそれは通用しない。政党遍歴など有権者に内緒にしておきたかった過去も全部さらけ出される。
政見放送は早朝や深夜、あるいは働く人が視聴できない日中という視聴率が低い時間帯に流される。ネットなら24時間、いつでも有権者が情報を引き出せる。また、告示前は政治活動、告示後は選挙活動という線引きも事実上なくなる。選挙の前後で主張が正反対などという政治家は、有権者に一発で見抜かれてしまうだろう。逆に、普段から説明責任を果たしてきた政治家は、それがそのまま選挙活動になる。
ネットによる有権者とのやり取りが必然的に増えるのだから、政治家もネットで政策を伝えるように変わらざるを得ない。後援組織にだけ依存し、有権者をないがしろにしてきた政治家は淘汰されるだろう。ネット選挙解禁で、慌ててブログやツイッターを始める政治家と、熟議の道具、政策伝達の手段にしようと努力してきた政治家で差も生じる。最初は、「どこどこの会合に出席した」など、無意味な書き込みも散見されるだろうが、これは経験を重ねて減っていくはずだ。
有権者の意識も変わる必要がある
確かにネット選挙は危ない。なりすまし、誹謗中傷など、問題は起こるだろう。だが、政治や行政は必ず、法律に基づいて制度を補完する方向に動く。法律的、技術的な整備でリスクを最小化しつつメリットを最大化できるはずだ。
有権者には、ネットにあふれる膨大な情報の中から自律して選択する能力が求められる。有権者のレベル以上の政治はあり得ないのであり、民度が問われることになる。選挙活動のスタイルが大きく変わるのだから、選管も選挙違反の監視といった消極的な取り組みから、民主政治を進化させる組織へと意識変革が求められる。
衆院選が中選挙区制だった時代は、候補者が利益誘導で団体票を集めて当選できた。これを本来の政党政治にするため、政党対決の小選挙区制に改めた。政党対決とは政策選択であるから、マニフェスト型選挙が始まった。ネット選挙は、こうした一連の政治改革史の延長線上にある。
マニフェストを前面に掲げた民主党政権の崩壊で、マニフェストは進化の踊り場にある。だが、政治を有権者の手に取り戻そうという流れは変えようがない。民主政治を実現する道具としてネット選挙を活用してほしい。
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- 北川正恭(マニフェスト大賞審査委員長、早大大学院教授)
- 1944年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、1972年三重県議会議員(3期)、1983年衆議院議員(4期)、1995年三重県知事当選(2期)。2003年退任後、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)共同代表。2004年早稲田大学マニフェスト研究所設立、所長に就任。2009年11月内閣府「地域主権戦略会議」委員に就任。
- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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