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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェスト学校特別講座「衆議院議員選挙2012特集」】

2013年、自公政権への展望~北川正恭氏インタビュー[後編](2013/1/4 早大マニフェスト研究所)

自民党の圧勝で終わった衆院選の結果を受け、2012年末には安倍内閣が発足しました。 絶対安定多数を確保した自民党は、連立を組む公明党とどのように連携するのか? 2013年、自公政権は日本をどのように引っ張っていくのか? 前回に引き続き、「早稲田大学マニフェスト研究所」所長で早大大学院教授の北川正恭氏にお話をうかがいました。(政治山)

関連ページ:自民党が圧勝し、民主党が惨敗した理由~北川正恭氏インタビュー[前編]特集:衆議院議員選挙2012

まだまだ検討課題のある小選挙区制

 小選挙区制というのは2大政党に収れんしていくという性質を持っていますから、お互いが体系立った政策を競わせていくわけです。民主主義は調整です。1つの政策だけで決めるのではなく、全体のパッケージを見て「民主党の政策がいい」「自民党の政策が好きだよ」といって投票先を決める──。そういう習慣を身につけていかないと、自分の組織の利益バラマキ政治になってしまう、そこを“マニフェスト”という手段で変えていきたいなと思います。

小選挙区制は見直すべき点が多い、と指摘する北川氏 小選挙区制は見直すべき点が多い、と指摘する北川氏

 1990年代の政治腐敗はひどく、中選挙区は「サービス合戦」でした。それを打破しようというのが、小選挙区制やマニフェストでした。小選挙区制がすべてよいとは言いませんし、どんどん変えていけばいいのですが、「中選挙区制を再導入する」という議論は、時期尚早だと思います。小選挙区と比例区の重複立候補などが問題視されますが、小選挙区で否定された人がゾンビのように復活するというのは、多数決の原理からするとおかしいとは思います。とはいえ、さまざまな考え方があるので、重複立候補が必ずしもだめだ、ということではありません。

 ただ、1990年代のことを知っていれば、中選挙区制には戻してはいけないですよ。私自身が、中選挙区制で4回戦った候補者です。組織がそうなっているのです。同じ自民党の中に派閥ができて、族議員ができて。省庁に国益はなかったですよ。そこに族議員が付いて、あのときは経世会の面々が逮捕されました。政治は数だ、お金だということだったので、政治不信が極まりました。だから、自民党内部から「政治改革」が叫ばれたのです。

 選挙を利益誘導から公平な政治へ、「サービス合戦」からいわゆる「政策合戦」に変えていくには、選挙は「契約」に変えなければなりません。2015年の統一地方選も踏まえて、選挙を「お願い」から「約束」にしていくということをしないと、この国の民主主義は育たないと思います。

政策の協議にはシンクタンクが不可欠

 自民党も民主党もだめなのは、政策を協議するシンクタンクを廃止してしまった点です。これは、「政策は命」というのを自らが放棄している、ということです。大きな問題ですよ。政策を練り上げる組織も時間も持てなかったという点で、既存の政党は厳しいバッシングを受けたのですよ。

 シンクタンクがないと、体系立った政策ができるわけがありません。なので、与党が書いた政策は「官僚主導」になります。それは当たり前です。官僚は法律に基づいての「現状維持」が仕事ですから。一方で、民意を反映して、現状を打破しながらやっていく。それが政党です。だから、民主主義の原点は政党政治なのです。

自民党は公明党を大切にする

「官僚主導の政策ではダメだ」と語気を強める北川氏 「官僚主導の政策ではダメだ」と語気を強める北川氏

 自民党は政権奪取に成功しました。野党だったころ、絶対安定多数を持っているのに何もできなかったという「民主党の失敗」を学習しています。なので、公明党を大事にしますよ。民主主義は理念も大切ですが、運営も大切です。民主党は運営術が下手だったので、自民党は公明党を立てるし、公明党は与党にいる利点をうまく使い分けます。

 「結党理念だ」ということになったら、存在基盤は中道路線ですから、そこで議論が分かれます。そうなると自民党は、政策ごとにパーシャル連合でやっていくと思います。でも政権運営は誰がやっても難しいですから、途中で失敗することも出てくると思います。

 政権交代は10~15年くらいがいいと思っています。世間の組織が持たない。最近の「振れ」が大きいのは、時代の流れがそうさせていると思います。まったく新しい文明が始まったわけで、どうしようというのを世間も迷っているわけです。だから、政治も混乱しているのです。

 10年くらいでこの「振れ」を収めて、体系立った政党が2大政党で政権を安定して運営するというのがいいと思っています。「振れ」が大きいというのは、時代がそうさせているというのと、非自民は55年も野党のままだったから、与党としての政権運営が下手だったということです。

思いつきではなく、あせらずに実行する2013年に

 自民党が政権を取ったわけですから、7月の参院選までは補正予算、インフレターゲットを進めて、少しは景気が良くなるのではないかと思います。ただ、本質的に、焦らずやることはやってもらいたいと思います。思いついたことをやるのではなく、体系立ってやってほしいです。それだけの人数がいますからね。この先の4年間は、将来に向けて腰を据えて、「日本の未来のため」にやって実行してほしいです。

 民主党はいろいろことを壊そうとしましたが、政治なので一気に壊せないですよ。なので、自民党も過去のことを全部知っていますから、そこを思い切り、新しい体制でやっていく、本質的な政治を自民党に期待したいです。

◇        ◇        ◇

北川正恭(マニフェスト大賞審査委員長、早大大学院教授)
1944年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、1972年三重県議会議員(3期)、1983年衆議院議員(4期)、1995年三重県知事当選(2期)。2003年退任後、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)共同代表。2004年早稲田大学マニフェスト研究所設立、所長に就任。2009年11月内閣府「地域主権戦略会議」委員に就任。
■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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