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副業・兼業解禁に向けて企業が検討しておくべき事項 (2018/12/4 企業法務ナビ

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1 はじめに

 総務省の実施した「平成29年度就業構造基本調査結果」によれば、副業人口とそれを希望する追加就業希望者の数は691万人に達しているとのことです。

 2017年、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表しました。ガイドラインは原則として副業・兼業を認めるべきという方向性になっており、これを受け、副業人口と追加就業希望者はさらに増えることが予想されます。

 そこで今回は、副業・兼業解禁に向けて企業が検討しておくべき事項を検討したいと思います。

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2 兼業・副業のメリットと懸念事項

 労働者に兼業・副業を認めることのメリットとして、ガイドラインでは、以下のようなメリットが挙げられています。

  1. 社内では得られない知識・スキルを会得することができる
  2. 労働者の自立性・自主性を促すことができる
  3. 優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する
  4. 労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる

 一方で、「必要な終業時間の把握・管理や健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという懸念への対応が必要」とされています。

3 モデル就業規則の改定について

 厚労省がこれまで公表していたモデル就業規則には「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定があり、副業については一律許可制の立場がとられていました。

 時代の流れや「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由である」という最近の裁判例を踏まえ、最新のモデルでは、「労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする」(67条2項)という届出制に改められています。

4 今後の実務に向けて

(1)副業を認めるか否か
 モデル就業規則はあくまでモデルであるため、自社でそれを採用するかはまた別の問題ということができます。まずは社内で就業規則を変更すること/しないことのメリット/デメリットを検討し、就業規則変更の必要性を検討することが必要になるでしょう。ガイドラインでは「原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる」とされているため、今後多くの会社において就業規則を改定していく流れになっていくことが予想されます。

 その流れの中で従来の許可制を続けていくと、従業員から「他の会社では可能なところが多いのに」と考えられ、「柔軟性に欠ける会社」「魅力に欠ける会社」と評価されるおそれがあります。副業が認められている他社に人材が流れてしまう可能性もあります。このような点から、認める方向性で調整した方が、長い目で見たときに労使双方にとって良い結末となるように思われます。

 「モデルでそうなったから」ではなく、どのような目的をもって体制を変えるのかを意識しなければ、形だけの制度に終わってしまう可能性もあります。制度変更の必要性・目的を自社の状況とよく照らし合わせて決定する必要があるでしょう。

(2)就業規則の改定について
 これまで副業について許可制がとられていたのは、(1)過労(2)競業・利益相反のおそれ(3)企業情報漏えいのおそれ等のデメリットが強く考慮されてきたからと考えられます。今回の就業規則モデルの改定でもそれらの点が考慮され、届出制をとりつつ、企業側が副業を禁止・制限できる場合を限定列挙(67条3項)する形がとられており、デメリットが発生するリスクを抑える工夫がされています。

《副業を禁止・制限できる場合の限定列挙》
労務提供上の支障がある場合
企業秘密が漏洩する場合
会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
競業により、企業の利益を害する場合

 自社で独自に項目を追加することで、デメリットが発生するリスクをさらに抑えることができるでしょう。各項目につき「〇〇など、労務提供上の支障がある場合」として例をあげるような記載方法をすると、従業員にとってもわかりやすく、紛争を未然に防ぐのに有効であると思われます。

(3)制度設計
 副業を認める方向性で調整し、就業規則を変更するのと同時に、今後、自社での働き方がどう変わるかをイメージしながら制度を設計していくことが必要になります。

 労基法38条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間の規定に関する規定の適用については通算する」と定められています。この規定を受け、労働者の労働時間を把握するために、ガイドラインは「労働者からの自己申告により、副業・兼業先での労働時間を把握することが考えられる」としています。

 個人事業種等は労基法上の労働者ではありませんが、そのような者であっても働き過ぎによる過労のリスクは労働者と変わりないため、「自己申告により…終業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましい」としています。

 制度設計の基本姿勢は「労働者と企業双方が納得感を持って進めることができるよう、労働者と十分にコミュニケーションをとること」とされています。制度設計に行き詰まったら基本姿勢を思い出し、労使交渉の場を設けることで、解決に向かう可能性があります。より良い働き方を実現するため、労使で協力していくことが必要です。

提供:企業法務ナビ

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