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経営者が働き方改革を決断する「トリガー」とは (2018/6/27 瓦版

<働き方改革特別対談>
サイボウズ・青野慶久社長×マルハン・韓裕社長 【第二回】

働き方改革といえば、サイボウズ。いまでこそ、それを疑う者はいない。だが、2000年前後の同社は「ド・ブラック」だった。「改革」という以上、ドラスティックなハンドリングが必要になるが、全社員に影響の及ぶ「働き方」でそれを実行するのは決して簡単ではない。トップ対談第2回では、マルハン韓社長が、青野社長の決断の引き金に迫る――。

「変えるんだ」のスイッチが入るきっかけとは

改革を推進するリーダーにとって、大胆な舵取りの決断は難題。韓社長は青野社長の「そのとき」に切り込んだ

改革を推進するリーダーにとって、大胆な舵取りの決断は難題。韓社長は青野社長の「そのとき」に切り込んだ

 当社は昨年、創業60周年の節目を迎えました。年数を重ねることで、保守的になったり、新しい考えを受け入れないようになると、その途端に崩れていく。変わり続けていかないといけない。その辺りを強く意識し、多少のリスクがあったとしても新しいものに挑戦する。そういう取り組みが必要だと認識しています。青野社長も3人で起業した当初は、寝る間も惜しんでご自身も倒れるくらいまで仕事をして、採用でもご苦労されたと思います。そこから「変えるんだ」と決断された決定的なきっかっけはどんなことだったのですか。

青野 それは2005年の離職率28%の時、これが一番大きいです。私が社長になったタイミングだったのでショックでしたね。4人に一人が辞めていく。これでは、いままでのメンバーを維持するだけでも大変ですよね。採用広告を出して面接をどんどんして、採用したら教育して、教育したらまた4人に一人が辞めて…。それを繰り返すわけですから、さすがに「人が辞めない会社をつくらないといけない」となりました。いま日本の会社が人手不足に直面していますが、私たちは2005年にそれに直面したんです。人がどんどん減って「会社が消滅するかもしれない」という恐怖を味わった。そこで、「辞められるくらいならワガママを聞いたほうがいいんじゃないか」と。切り替えができたのがそのタイミングですね。

 切り替えをされて、いろんな社員の課題を一つ一つ聞いていって、「変わっているな」という確実な手ごたえはあったのですか。

ホワイト化のプロセスで味わったジレンマ

青野 最初はイライラしましたね。「残業したくない」とか、ほんとにワガママばっかり言うので「ITベンチャーに入って、残業したくないとか意味わかんない!」って思いました。でもやってみると喜ぶ人が出てくる。それをひとつひとつやっていると、「もしかするとどんどんワガママきいちゃってもいいじゃないか?」と。副業がそうなんですけど、最初は「何でサイボウズで働いて他でも働くんだ?」って、浮気されているみたいですごく嫌でしたけど、やってみたら意外といいことがたくさんあって、外でどんどん人脈をつくってくるわ、いろんなノウハウ持ち帰ってくるわで。逆にいまは「どんどん副業しろ」と(笑)。

社員のわがままを一つひとつ聞いていったという青野社長の働き方改革に2つのルールがある

社員のわがままを一つひとつ聞いていったという青野社長の働き方改革に2つのルールがある

 自分ではそうじゃないと思っているが、一般的には「管理しないといけない」という意識があると思います。自由を管理するのと、自立を促してその代わりに自由度を高めるのでは、どちらかといえば後者のほうが効果があると思うのですが、そう切り替えるきっかけがなかったり、変えようと思ってもなかなか変えることが出来ない人は多いと思います。でもそこは思い切ってやるしかない、ということですか?

青野 ワガママを聞いていくと、カオスを生むリスクがあるわけです。在宅勤務を認めた瞬間から「ほんとに家で働いているのか?」とか。これを管理し始めると、多様化していくのに比例して、どんどん管理コスト上がっていく。副業しているなら、<何をやっていくら稼いでいるんだ>とか、在宅勤務なら<いつどんな成果物をだすんだ>とか…。多様化を進めながら同時にやらなきゃいけないのは、理念教育みたいなところだと思っています。この会社はどこを目指しているんだということですね。それに共感してもらう。共感してもらっていれば、どこにいても貢献してもらえる。逆に理念教育をしていないとカオスになる。だから多様化と理念教育はセットじゃないかと。これができるようなると管理コストは下がります。

 その通りだと思います。共感してもらうには「何に」がないといけない。だからマルハンでは、「業界変える」ということを打ち出す共感型採用を始め、共感者を集めて約3年をかけていろんな事を話し合い、手間暇かけて理念をまとめた「マルハンイズム」というものを従業員全員で作った。経営者じゃなく、自分たちで作ったものなので大事にする。以降、会社が拡大していく中で、従業員が体現し、語り手となって、後輩たちに伝え、急拡大に負けない理念経営が実現できた。青野社長が働き方改革のプロセスで作ってこられたいろいろな仕組みの中で、効果的だったことは何ですか。

多様化でカオスにならないための独自メソッド

青野 一つに絞るならば「問題解決メソッド」という共通言語ですね。個々がワガママを出していくと、「この人は望んでいるけど、この人は望んでない」ということが当たり前のように起こってくるわけです。こうしたいろいろな意見を建設的に議論の場に載せていかないといけない。ところが、日本人は議論に慣れていない。ディベートのトレーニングもされていない。なので、一歩間違うと「こんなこと言って嫌な感じ」という風に単に分断を生んで終わりかねない。それを避けたかった。だから「このフレームワークを使って事実と解釈を分離しましょう」ということです。解釈は「好き嫌い」とか「いい悪い」ですが、事実は「見たもの、聞いたもの」そのままです。事実は共有できるものなので、事実に注目すると感情的にならずに、あの人はこんなことに理想を感じているんだと建設的に議論できます。問題提起をして現実と理想を分け、ギャップを埋めるために議論をする。このメソッドを、入社してすぐ、最初の研修から全社員にトレーニングします。これを徹底していることで、どの部門の社員同士が議論しても同じように議論ができるんです。

 なるほど。事実と解釈、分かります。それはもともと学ぶ機会があって、今では社内で研修として確立されているということですか?

対談は、働きやすさの工夫が散りばめられたサイボウズオフィスで行われた

対談は、働きやすさの工夫が散りばめられたサイボウズオフィスで行われた

青野 私が考えたオリジナルでなく、他社研修のエッセンスを抜いて、サイボウズ流にまとめた感じです。多様化を進めていくときには、バックグラウンドが違う人同士が建設的に議論するインフラがないと議論ができない。結果的に多様化があだとなり分断を生む。だからメソッドは必須だと思います。あともうひとつはウソをつかないこと。当たり前のことですが、日本の会社はなかなか出来てない。財務省がウソつくぐらいですから(笑)。

 それは仕組化というか、「ウソをつかないようにしましょう」ということですか?

青野 小さなウソを見逃さずに徹底的にたたくということです。ここが緩むとまさに多様性を重んじた時、全然違う人たちと働く時に信頼のベースがなくなってしまう。意見は違うけどウソはついてない。「もしかしてウソをついているかも…?」だと本当かどうか心配で、在宅勤務もさせられない。サイボウズにはひとつ格言があるんです。それは<アホはいいけどウソはダメ>。

 素晴らしい! (続く)

第一回:事業の発展に、なぜ働き方改革が不可欠なのか

◇        ◇

【マルハンイズム】マルハンが目指すもの、マルハンらしさを現したもの。マルハンが大切にしている考え方をまとめている。心構え、企業姿勢、提供したい価値、組織としてありたい姿、従業員一人一人の行動規範、ビジョンについて、それぞれの思いが記されている。

【問題解決メソッド】さまざまな「問題」に対し、チームワークを生かして解決できるよう、起こっている「現実」や、望ましい「理想」に対し、事実と解釈を分けて状況を把握。その「原因」は何か、解決すべき「課題」は何か、を流れに沿ってロジカルに前向きに議論できるようにするための共通言語の定義とフレームワーク。

サイボウズ・青野慶久社長×マルハン・韓裕社長

青野 慶久(あおの よしひさ)プロフィール
1971年、愛媛県生まれ。1994年に大阪大学工学部情報システム工学科を卒業後、松下電工株式会社(現:パナソニック株式会社)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。バリバリ仕事をこなしつつ、子どもの面倒をみる「イクメン社長」として話題になる。
サイボウズ: https://cybozu.co.jp/

韓裕(はん ゆう)プロフィール
1963年京都府生まれ。京都商業野球部在籍時、第63回全国野球選手権大会では準優勝を経験。88年法政大学卒業後、株式会社地産入社。90年株式会社マルハンコーポレーション入社、取締役に就任。95年プロジェクトリーダーとして「マルハンパチンコタワー渋谷」をオープンし、成功へ導く。取締役営業統括本部長、常務取締役営業本部長を経て、2008年6月代表取締役に就任、現在に至る。
マルハン: https://www.maruhan.co.jp/

提供:瓦版

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