改正産業競争力強化法にもとづくM&Aの促進について (2018/10/17 企業法務ナビ)
はじめに
今年の7月9日に産業競争力強化法の一部改正法が施行されました。日本の経済の再興と産業低迷の脱却を目的として制定された産業競争力強化法。その改正法によって企業の経営基盤の強化、組織再編の促進などが図られております。今回は改正産業競争力強化法によるM&Aについて見ていきます。
法改正の経緯
日本の産業の新陳代謝を活性化し、産業の持続的な発展を図ることを目的として、円滑な事業承継と企業再編の支援、中小企業の倒産と、連鎖倒産の防止、経営資源と情報力の管理の促進を推進することを趣旨として今回の法改正がなされたとされております。
今回の改正により企業の情報漏えい防止を目的とした認証制度、事業再生にかかるADRの改善、会社法の組織再編の特例、中小企業の経営基盤強化などが図られております。以下会社法の組織再編の特例について具体的に見ていきます。
会社法上のM&A
日本の会社法の規制の下でM&Aを行う場合、吸収合併や株式交換といった手法で行われます。手続としては合併契約や株式交換契約が締結され事前開示(782条1項、794条1項)、株主総会特別決議による承認(783条1項、795条1項、309条2項12号)等を経て行われます。親会社が90%以上の議決権を保有している場合は子会社側での承認決議は不要となります(468条1項、784条1項等)。
また親会社が子会社の議決権の90%以上を保有している場合は簡易な手続で残りの株式を売り渡すよう請求することもできます(179条)。また対価については金銭またはそれ以外でも可能ですが、自社株を対価として相手会社の株式を取得する場合は現物出資規制(207条等)や有利発行規制(199条3項等)にかかることもあり得ます。
改正産業競争力強化法による特例措置
(1)自社株を対価とするM&A促進
上記のように会社法上自社株式を対価としてM&Aを行う場合は現物出資規制等の規定にかかる場合がありました。しかし改正産業競争力強化法に基づいて経産大臣による事業再編計画の認定を受けた場合はこれらの会社法上の規定は適用除外となります(29条、30条)。
(2)スクイーズアウト等の促進
会社法上、議決権の90%以上を保有する特別支配会社が組織再編行為を行う場合、子会社側では承認決議は不要となっていました。また残りの少数株主への売渡請求もできます。事業再編計画の認定を受けた場合これらの規定にも特例措置が適用され、90%以上の保有要件が3分の2にまで緩和されます(32条)。これにより完全子会社化やスクイーズアウトがより行いやすくなります。
(3)スピンオフの促進
会社の事業や子会社を現物出資の形で新設子会社に分離させ、新設子会社の株式を会社株主に交付する方法による事業の切り離しをスピンオフと言います。新設子会社が上場予定である場合は会社法上要求される株主総会特別決議は省略でき、剰余金配当と同様の手続で行うことができます。
コメント
自社の株式を対価として行うM&Aは欧米では広く行われてきました。しかし日本の会社法では対価によっては有利発行にあたり、株主総会の特別決議が必要な場合や、また相手会社にとっては現物出資にあたる場合もあり検査役の調査を要する場合もありほとんど利用されてきませんでした。今回の法改正で経産大臣の認定を受けることにより自社株を用いたM&Aが行いやすくなります。
また上記のとおり完全子会社化の要件も緩和され組織再編が促進されております。その他にも中小企業支援やADR改善など改正の内容は多岐にわたります。どのような制度が利用できるかをできるだけ把握して自社に有利な制度活用を模索していくことが重要と言えるでしょう。
- 関連記事
- タカタがKSSに事業譲渡、M&A手法の比較
- [北九州市]事業承継・M&A促進化事業を実施
- 日立国際のTOBが成立、株式公開買付とは
- 東芝が7000億円分自社株買い、自己株式取得について
- 三菱日立PSに初適用、「日本版司法取引」について