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日本で国際仲裁2割、国際仲裁のメリットと注意点 (2018/8/3 企業法務ナビ

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1.はじめに

 国際的なビジネス紛争を解決する国際仲裁を、日本で活性化させようという動きが官民で強まっていると日本経済新聞で報じられました。企業間のトラブルへの対応力を増し、日本企業の国際展開を後押しする狙いのようです。日本企業のグローバル化でビジネス紛争に巻き込まれるケースは増えており、国際仲裁へのニーズが高まっています。例えば、法整備が十分ではない新興国などでは、訴訟で不利な立場に置かれるおそれもあります。そこで、今回は国際仲裁について学んでいきましょう。

仲裁機関

2.国内裁判所で国際紛争することの問題点

 どこの裁判所に訴訟を提起すればよいかという前提問題の争いを避けるため、通常は契約中に裁判管轄条項が定められています。その場合は、契約交渉における当事者間の力関係に応じて、いずれかの国の裁判所が指定されることがあります。しかし問題なのは、国によっては裁判制度が未熟であり、裁判官が公平な判断をするとは限らず、または裁判が非常に遅いために適時に紛争を解決できないリスクが高いということです。

 また、仮に日本の裁判所を管轄できたとしても、日本の裁判は手続が原則として公開されるため、訴訟提起の場合には紛争の内容が世間に知れることになり、日本企業としては風評リスクにつながりかねません。そして、日本の裁判所が下した判決を外国で執行する場合には、現地の裁判所で承認・執行の手続を経る必要がありますが、この承認・執行がスムーズに進まないことがあります。

3.国際商事仲裁とは

 このように、国際商取引において国内裁判所を用いるというのでは、様々な不便が生じるおそれがあります。そこで、国内裁判所に代わる紛争解決手段として、国際商事仲裁があります。国際商事仲裁には、仲裁機関の助力の下で仲裁機関があらかじめ定めた手続に則って行う機関仲裁と、当事者が仲裁機関を頼らずに自ら手続を合意して進めるアドホック仲裁があります。手続の予測可能性という観点からは、機関仲裁が選択されることが多いということもあり、ここでは主として機関仲裁について解説します。

 まず、仲裁とは、当事者が、私人である第三者をして争いを判断させ、その判断に服することを合意し(「仲裁合意」と呼びます)、その合意に基づき紛争を解決する、法によって認められた(仲裁法)制度です。各国には日本の「仲裁法」に相当する法令があり、仲裁における仲裁人の選任方法、審問手続、仲裁判断の効力、その取消しや執行の手続等が定められています。これらの法令の多くは、日本の仲裁法もそうであるように、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)の策定した「UNCITRAL国際商事仲裁モデル法」に依拠して作られているため、多くの国で主要な部分は共通の内容となっています。

 仲裁は訴訟と異なり、当事者がその選択により合意してはじめて管轄権が生じるため、契約においてあらかじめ仲裁条項を規定しておく必要があります。その仲裁条項では、機関仲裁であれば仲裁機関(適用される仲裁規則)のほか、仲裁が行われる都市名を明確に特定します。

 仲裁機関として有名なものとして、国際商業会議所(ICC:International Chamber of Commerce)、日本商事仲裁協会(JCAA:Japan Commercial Arbitration Association)ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA:London Court of International Arbitration)、米国仲裁協会(AAA:American Arbitration Association)、シンガポール国際仲裁センター(SIAC:Singapore International Arbitration Centre)等があります。

 その他、仲裁人の人数や手続において使用される言語まで仲裁条項の中で定める場合もあります。この仲裁条項は、各仲裁機関がモデル条項例を公開しており、これを容易に用いることができます。もっとも、個別具体的な事情によってはモデル条項例をそのまま用いるのは適切でない場合もあり、仲裁が行われる国によっては、仲裁条項の言葉遣いを工夫する必要があります。

4.国際商事仲裁のメリット

(1)手続きを柔軟かつ戦略的に設計できること
 国際商事仲裁の場合は、裁判手続において当事者が裁判官を選べないのとは異なり、当事者が仲裁人を選任することができます。また、手続自体を仲裁合意条項や実際の仲裁手続の中で当事者が選択・調整できる部分が大きいといえます。

(2)手続が非公開であるため、守秘が保たれること
 仲裁の場合には、手続自体が非公開であるのに加え、仲裁判断の内容も秘密にすることができます。さらに、当事者、仲裁人その他の関係者に守秘義務を課することによって、当事者は紛争の存在すら外部には知られることなくその解決に至ることができます。

(3)仲裁判断の承認・執行が容易であること
 国際商事仲裁の場合は、世界中の大多数の国が「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(いわゆるニューヨーク条約)を批准しているため、その批准国の国内裁判所において、他国で得た仲裁判断を容易に承認・執行することができます。また、仲裁判断は当事者が自主的に選択した紛争解決制度であって、これに抵抗する者は国際商取引における信頼を失うため、仲裁判断の場合には裁判所の判決に比べて敗訴当事者が争うことなく任意に従う場合が多いように思われます。

5.コメント

 上記のとおり、国際商事仲裁には数多くのメリットがありますが、両当事者が合意して初めて利用できる手続であるため、相手がどうしても仲裁を選択したくない場合には、仲裁手続による紛争解決はできません。その場合には、紛争解決の手段として仲裁を選択するメリットを、どのように契約の相手方に説得するかがポイントとなってくるでしょう。

 また、機関仲裁であれば仲裁機関(適用される仲裁規則)のほか、仲裁が行われる都市名を明確に特定する必要がありますが、仲裁機関(適用される仲裁規則)は、国際的に知名度の高い仲裁機関を選択するのが無難でしょう。国際仲裁制度研究会のアンケート調査によると、日本企業が選ぶ仲裁地はシンガポールが最多といわれています。

 そして、訴訟費用のかなりの部分を公費で賄う裁判所と比べ、当事者が自主的に仲裁人や手続の場所を選択する仲裁においては、その費用が高額になる場合があります。確かに、国内の小規模な訴訟案件と比べればそうかもしれません。しかしながら、たとえば裁判所での訴訟において上訴が繰り返されて紛争が長期化した場合にも、当事者はかなり高額の訴訟費用を要することになりますので、一審限りかつ短期間で紛争解決が可能な仲裁の費用は、相対的にみれば必ずしも不当に高額ではないともいえます。

 加えて、仲裁は当事者が仲裁人を自由に選択することができるのであって、仲裁人の選任段階から、また仲裁人が3名の場合には第三仲裁人がどのように選任されるかまで戦略的に考えて仲裁人を選択すれば、当事者が担当裁判官を選択できない訴訟と比べて、はるかに判断権者をコントロールしやすいともいえます。この点は、仲裁実務に長けた弁護士を紛争の初期段階から起用し、戦略的なアドバイスを求めることが大切でしょう。

国際商事仲裁モデル法
仲裁法(日本)
日本商事仲裁協会(Japan Commercial Arbitration Association, JCAA)
仲裁条項例(日本)

提供:企業法務ナビ

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