「イーエスピー」を書類送検、36協定について (2018/7/24 企業法務ナビ)
はじめに
長野県軽井沢で2016年に発生した大学生ら15人が死亡したバス事故で、青梅労働基準監督署は20日、バス運行会社「イーエスピー」を書類送検しました。労基法上必要な労使協定を締結していなかったとのことです。今回は従業員に時間外労働をさせる場合に必要となる36協定について見直します。
事案の概要
報道などによりますと、2016年1月、長野県軽井沢でスキーツアーのバスがカーブを曲がりきれず道路脇に転落し乗客の大学生や運転手など15人が死亡し26人が怪我をしました。当時事故を起こした運転手は大型バスには不慣れであったとのことです。バスを運行していた「イーエスピー」(東京都羽村市)では事故発生前の3カ月間、労基法上必要とされる労使協定を締結せずに8人の運転手に違法な時間外労働をさせていたことがわかりました。同社社長らは業務上過失致死容疑でも書類送検されております。
労基法と労働時間
労働基準法32条によりますと、使用者は労働者に週40時間を超えて労働させることはできず、また1日につき8時間を超えて労働させることはできないとされております。これを超える時間外労働を行わせるためには労使間で書面による協定を締結し労基署に届け出る必要があります(36条)。いわゆる36協定と呼ばれるものです。1日、1月、1年単位で協定します。1月単位の場合は45時間、年単位の場合は320時間の時間外労働が可能となります。36協定を締結せずに32条所定の時間を超えて労働させた場合には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課される場合があります(119条1号)。
36協定と特別条項
36協定を締結する際に特別条項をつけることによって上記限度時間を超えて労働を行うことが可能となります。これは突発的な事態に対応するために特別に協定時間を超えるための措置と言えます。たとえば機械トラブルや欠陥品の回収、繁忙期や大規模クレームの対応などです。しかしこれも無制限ではなく1年間の半分という上限があります。通常は月単位で年間6回となることが多いと思われます。
過労死ラインと36協定
上記特別条項による限度時間を超える労働に関しては、年6回という制限となっておりますが実は時間的な制限は法定されておりません。それゆえに特別条項さえ締結すれば事実上無制限に時間外労働が可能となってしまうことから過労死の温床であるとの批判も上がっております。厚労省2001年通達では労働者に脳卒中などの疾病が発症した場合、発症の1カ月以内では月100時間、発症前2カ月から6カ月では月80時間の時間外労働を過労死ラインとしています。この点にも注意が必要と言えます。
コメント
本件でイーエスピーは事故発生前3カ月間は36協定を締結せずに従業員に時間外労働をさせていたとされます。今回は大規模な死亡事故を契機として発覚しましたが、事故がなければさらに長期間協定無しの時間外労働がなされていた可能性もあります。零細な事業所では今も36協定が締結されていないところも多いと言われております。
しかし労基署の臨検がなされた場合は労働条件やタイムカード等の勤怠管理だけでなく36協定の内容、変形労働時間制の協定なども必ず調査されることになります。近年厚労省や労基署の労働時間の調査は厳しくなっております。以上の規制を念頭に36協定を今一度見直し、また過労死ラインにも留意して特別条項の策定を行っていくことが重要と言えるでしょう。
- 関連記事
- 残業は「36協定の月45時間まで」が約3割
- 働き方改革のテーマでもある「裁量労働制」、対象は拡大すべき?安易な適用はデメリットも
- 未届け企業への指導を民間委託へ、36協定について
- 電通に労基署が立入り調査、過労死の会社責任について
- 作業員転落死で書類送検、労働安全衛生法について