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未届け企業への指導を民間委託へ、36協定について (2017/9/26 企業法務ナビ

関連ワード : 労働・雇用 法律 

はじめに

今年5月の規制改革推進会議による提言を受け、来年度から36協定未届けの企業に対する指導を社会保険労務士などの民間業者に国が委託する事業が開始されます。労働基準監督官の業務を補助し、長時間動労の監視・監督を強化することが狙いといわれております。今回は36協定とその指導の民間委託について見ていきます。

働く人

規制緩和の背景

厚生労働省によりますと、昨年度の36協定未届け事業所は全国で約170万ヶ所にのぼり、その中には36協定を締結しないで違法に残業をさせている企業が相当数にのぼると推測されております。

また規制改革推進会議の提言によれば、昨年度の労働基準監督官の定員数は3,241人でわずかずつ増加しておりますが、総事業場に対し近年定期監督を実施した割合は3%程度にとどまっているとのことです。その定期監督もこれまでは製造業、建設業などの工業系に偏っており、小売業、接客業などについては実施割合が1%程度となっております。

このように現在の監督官の人数では全国約410万の事業場を監督することはとうてい不可能であり、このような人手不足を民間委託によって緩和することが規制緩和の狙いです。

36協定とは

ここで36協定について、以前にも取り上げましたが簡単に触れておきます。労働基準法では労働者の労働時間は1日8時間、週に40時間が上限となっております(法定労働時間 32条1項、2項)。それを超える時間外労働をさせるためには書面で協定を締結し労基署に届け出る必要があります(36条)。これを一般的に36協定と呼びます。

36協定を締結しても無制限に時間外労働をさせられるわけではなく厚生労働省令で1日6時間、1ヶ月45時間、1年で360時間と上限が定まっております。36協定で特別条項を定めた場合には労働時間に制限はなくなりますが、これは特に繁忙な時期や特殊な事情等の場合に認められる例外規定であって無制限に残業を許容するものではありません。

36協定の注意点

36協定は労使間で締結するものですが、正確には「労働者の過半数で組織する労働組合」か「労働者の過半数を代表する者」と使用者の間で書面で締結する必要があります。使用者側の代表印と労働者側の署名押印をすることになりますが、労働者側の代表は労働者の過半数の支持を得ている者でなければならず、従業員の一人を適当に使用者側が選んで印を押させるといったものでは無効となります。

民間委託の概要

以上のような36協定の未届け事業場に対して、委託を受けた民間業者はまず自主点検表を送付し労働条件、労働時間などに関して適切に管理を行っているかなどの回答を求めます。これを回収した業者は内容を調査し、指導を要する場合、無回答の場合には事業場側の同意を得た上で従業員の勤怠記録などを調査、指導を行うことになります。

催促をしても回答しない場合や、指導に従わない場合は労働基準監督官に引継ぐことになります。委託を受けた業者は民間であることから監督官のような強制捜査権限などは付与されません。あくまでも監督官の業務の補助という立ち位置ということです。

コメント

監督官の人手不足により十分な取締が行われていないとの指摘は従来から言われてきました。それを受け規制緩和により民間を活用して監督・指導を強化することが狙いですが実効性には疑問があるとの指摘もなされております。民間業者からの自主点検表に対してどこまで正確な回答がなされるのか、強制力のない民間業者の指導がどこまで通用するのかといったものです。

また社労士はもともと企業側の労基署対策を助言することを業務としていることから十分な監督・指導がなされるのかといった点も指摘されております。しかしそれでも来年度からは従業員10人以上の事業場全てに自主点検表が送付されることになり、これまで着手されてこなかったところにも監督の手が及ぶことになります。

36協定の締結を行わずに時間外労働をさせることは違法ですが、36協定が締結されていても法定の手続きを踏んでいないものも無効となります。昨日違法労働問題で公判のあった電通でも、締結された36協定は過半数を代表した労組の要件を満たしておらず無効であったことがわかりました。36協定で締結された上限を超える部分だけでなく、協定部分も違法ということになります。36協定の締結が済んでいる企業も、これらの法定の要件を満たしているかを今一度見直すことが重要と言えるでしょう。

提供:企業法務ナビ

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