作業員転落死で書類送検、労働安全衛生法について (2018/5/15 企業法務ナビ)
はじめに
京都大学附属病院の外壁工事中に女性作業員(19)が転落して死亡した事故で京都上労働基準監督署は10日、建設会社と現場責任者の男性(37)を書類送検していたことがわかりました。事故当時足場の手すりが外されていたとされます。今回は従業員の健康と安全確保を義務付ける労働安全衛生法について見ていきます。
報道などによりますと、今年2月京都市左京区にある京大医学部附属病院第一研究棟の外壁工事をしていた女性作業員(19)が高さ約15メートルの足場から転落し、搬送先の病院で死亡しました。事故当時、作業用の足場の手すりは資材搬入のために一時取り外されており、現場責任者の男性(37)が手すりを戻さないまま女性に作業をさせていた疑いがあるとされます。
京都上労働基準監督署は兵庫県西宮市の建設会社「貴元技建」と現場責任者の男性を労働安全衛生法違反の疑いで京都地検に書類送検しました。
労働安全衛生法とは
労働安全衛生法は労働災害を防止し職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的として制定された法律です(1条)。事業者に安全衛生管理体制の構築や危険防止措置、安全衛生計画の策定等を義務付けております。もともと労働基準法に規定されていたものを独立させ法制化したものです。
安全衛生管理体制の構築
事業者は業種と事業所の規模に応じて必要な管理者や産業医などの設置が義務付けられております。まず建設業、運送業、清掃業、林業、鉱業では事業所の従業員の数が10人~49人の場合、事業者は「安全衛生推進者」の設置が義務付けられます(12条の2)。50人~99人では「安全管理者」「衛生管理者」「産業医」の設置が義務付けられ(11条、12条、13条)、100人以上でそれらを指揮する「統括安全衛生管理者」が必要となります。
製造業、小売業、水道業、ガス業、旅館業、ゴルフ場業などの場合は統括安全衛生管理者の設置は300人以上からとな、その他の業種では1000人以上からとなります。
危険防止措置等
労働安全衛生法4章では事業者が講ずべき危険防止と健康障害の防止措置について定められております。まず機械や器具、爆発物、発火物、電気、熱などについて危険防止措置が必要です(20条)。採掘や採石、伐木など作業方法によって生じる危険についても措置が必要となります(21条)。そして建設物などの作業場について通路、床面、階段などの保全や換気、証明、保温など危険の防止と健康保持などの措置が義務付けられております(23条)。その他4章と省令ではかなり細かく危険防止措置が規定されております。
安全衛生教育
事業者は労働者を雇い入れたとき、その従事する業務にかんして安全、衛生のための教育を行う義務を負います(59条)。またその業務内容が危険または有害な内容を含む場合をそれに関する特別な教育が義務付けられております(同3項)。
具体的には作業手順や点検、整理整頓、事故時の措置、装置の危険性などについて教育を行ないます。労働安全衛生規則36条ではその他各業種ごとに特別な教育の内容が詳細に規定されております。
コメント
労働安全衛生法ではこれらの事業者の義務に違反した場合罰則が設けられております。本件では建設作業場での足場に手すりを設置せず従業員に作業を行わせた疑いが持たれております。これが事実であった場合危険防止措置義務違反となり6カ月以下の懲役、50万円以下の罰金となります(119条1号)。
上記のように労働安全衛生法はその業種や従業員数、作業内容ごとにかなり詳細な措置義務を置いており条文数も多く理解しにくい法律となっております。それゆえに本法律で課されている義務を放置している事業場は相当な割合になっているとも言われております。しかしこれらの義務違反に対しては罰則が設けられており、また実際に事故が生じた場合には別途安全配慮義務違反などの責任も発生する場合があります。
それぞれの業種ごとにどのような措置が必要かを把握し、従業員の安全確保に勤めることがより良い職場環境作りとなると言えるでしょう。
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