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電子委任状と契約実務 (2018/7/5 企業法務ナビ

関連ワード : ICT IT 法律 金融経済 

1 はじめに

 総務省は、6月27日、企業の担当者らがインターネット上で契約や行政手続を進める権限を証明する電子委任状の初の取扱事業者として、セコム系のセコムトラストシステムズ、NTT西日本系のNTTネオメイトの2社を認定しました(電子委任状の普及の促進に関する法律(平成29年法律第64号)第5条第1項)。

 このような電子委任状の普及により、契約業務の円滑化や各種官公庁への申請が円滑になることが見込まれます。

 本稿では、電子委任状制度の概要を確認し、同制度が今後の契約実務にいかなる影響を与えうるかについて、見ていきたいと思います。

署名

2 電子委任状とは

 電子委任状とは、法人の代表者等が使用人等に代理権を与えた旨を表示する電磁的記録をいいます(電子委任状の普及の促進に関する法律(平成29年法律第64号)2条1項)。

 これは、企業経営者の権限を現場の担当者に与えたり、雇用関係などを証明したりするデジタルデータであり、ネットを通じた対面をすることなく契約を結ぶ電子手続の普及に不可欠といえます。

 これまで法人が電子契約を結ぼうとした場合、代表者が自ら電子署名をする前提がありましたが、実態として、代表者がすべての契約書に電子署名するのは現実的ではありません。

 そこで、部長・課長といった役職者に代理権を与えたことを称する電子委任状を証する電子委任状を「電子委任状取扱事業者」(電子委任状の普及の促進に関する法律(平成29年法律第64号)2条3項)に預けさせ、取引先が代理権を確認できるようにし、代表者以外の名義であっても安心して電子契約が締結できる環境が整いつつあるといえます。

3 関連する制度

 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の行為をする権限があります(会社法14条第1項)。部長や課長がこれにあたります。

 では、実際には部長でも課長でもない者が「○○部長」「○○課長」の肩書きを使って契約を締結したらどうなるでしょうか。

 民法第109条1項は「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者がその他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない」と規定しています。これを表見代理といいます。ここで注目すべきは、第三者に善意のほか無過失も要求しているという点です。

 表見代理により、代表権・代理権がない場合でも、善意無過失の第三者との関係では権限があるとみなされることとなります。

4 今後の展望について

 電子委任状制度の普及が進みますと、委任状の存在が公示されることとなり、取引先企業からすると委任状の確認が容易に行えることとなるといえます。

 このことは同時に、取引先企業にとって、契約実務において善意無過失の第三者として保護されるハードルとして委任状の確認が義務づけられることも考えられます。

 すなわち、従来では、会社法14条1項の解釈について、「商法四三条(注:現行法では会社法第14条)一項は、…営業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、その事項に関し一切の裁判外の行為をなす権限を有すると規定しているところ、…その趣旨は、反復的・集団的取引であることを特質とする商取引において、…取引の都度その代理権限の有無及び範囲を調査確認しなければならないとすると、取引の円滑確実と安全が害されるおそれがあることから、…これと取引する第三者が、代理権の有無及び当該行為が代理権の範囲内に属するかどうかを一々調査することなく、安んじて取引を行うことができるようにするにある…」(最判平成2年2月22日商事法務1209号49頁。強調は作成者による)
とされています。

 しかし、電子委任状の普及により、取引先企業が容易に委任状の確認を行うことができるとすれば、商取引の特質として、反復的集団的取引において迅速性が求められるから当然に委任状の確認を経る必要はない、ということにはならないかもしれません。

提供:企業法務ナビ

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