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事業の発展に、なぜ働き方改革が不可欠なのか (2018/6/20 瓦版

関連ワード : 働き方改革 労働・雇用 

<働き方改革特別対談>
サイボウズ・青野慶久社長×マルハン・韓裕社長 【第一回】

働き方改革はもはや企業にとっての必須課題だ。取り組まなければ衰退する。そうした中、2005年から職場改革に取り組み、いまや働き方改革の象徴企業の一つとなっているサイボウズ。一方、不規則な労働環境などから人手不足が深刻なサービス業にあって、パチンコ業界のリーディングカンパニーとして働き方改革をけん引するマルハン。働き方改革では先を行く青野社長に韓社長が迫る形で進んだトップ対談は、経営者同士ならではの苦悩をにじませつつも、改革へのヒント満載の濃密な90分となった。

サイボウズ・青野慶久社長×マルハン・韓裕社長

過渡期にあるパチンコ業界と働き方改革

 IR法案が議論される中、パチンコ業界はいま過渡期にあります。そして、働き方においても大きな転換期に来ていると認識しています。マルハンは、業界内では先駆けていろいろな取り組みをしていますが、世の中全体では、ITや製造業に比べると遅れを取っている。他業種での取り組みの中にもたくさんのヒントがあると思うので、今日の対談を通して青野社長にぜひアドバイスをいただき、どうやって変えていけばいいのか、学びを得たいと思っています。

青野 私ですとまず何を考えるかといいますと、やっぱりロボットなんです。当たり前ですけど、人手不足になればそこを補えない限りお店を閉めなきゃいけない。そうすると、できるだけ自動化できないか、と。できることをしていこう、と。人じゃないとできないと思われてきたことにも「聖域なし」でトライしてみると、その中で提供できるバリューも変わってくると思います。パチンコ業界では自動化の話は進んでいるものなのですか?

パチンコ業界の労働環境に切り込むサイボウズ・青野社長

パチンコ業界の労働環境に切り込むサイボウズ・青野社長

 営業店におけるスタッフの負担のひとつに、パチンコ玉の入った玉箱の上げ下げがあります。玉でいっぱいになったお客様の玉箱を台から下ろし、空の玉箱を渡す、玉を計数するため玉箱をカウンターに運ぶ。これらの作業が非常に多く、大変。自動化と言えるのかわかりませんが、お店によっては「スマートシステム(各台計数機)」という、台ごとに玉を自動計数するシステムがあり、導入している店舗では玉箱の上げ下げが必要ないんです。我々も店舗の一部で導入していますが、この「スマートシステム(各台計数機)」はまだ業界スタンダードにはなり切れていない。玉でいっぱいの玉箱が積まれていく方がお客様も満足感があるでしょうし、お店も「繁盛感」がでるので、どうしても未だに玉箱が好まれる傾向があります。

採用難解消への青野流提言

青野 知り合いに「1000円カット」の会社をしている社長がいるのですが、1000円で儲かるのかしら?と思っていたら、むしろ髪を切る人にとって人気の職場だというんです。なぜかというと、洗髪なしでカットしかしないから。洗髪は化学薬品を使うので手が荒れるので、年を取ってやるのはつらい、と。髪を切る人はカットが好きなので、カットに集中できるのはうれしいことなんですね。他の散髪屋でつらいと感じている人が彼の会社に集まってくるそうです。最高齢は80歳だそうです。さすがに月~金フルタイムではないようですが、いきがいを感じて働いているそうです。とても、未来を感じますよね。(女性や高齢者を採用するためにも)体に負担かけないことがこれからの採用戦略ではとても大事になると思いました。

サービス業全体を見据え、働き方改革の重要性を熱く語るマルハン・韓社長

サービス業全体を見据え、働き方改革の重要性を熱く語るマルハン・韓社長

 80兆円の規模を持つ余暇市場の中にあり強く意識しているのは、働く人が元気であり、輝いていること。そうあることでお客様に良質なサービスを提供することが可能となり、それが経営理念である「人生にヨロコビを」の実現につながると思います。ところが、どうしてもサービス産業で働いている人の多く人が疲弊していく。これを私は何とかしていきたい。

青野 サービス業全体でいうと、人手不足感が相当強まっている印象ですよね。お店をもたれている皆さんが口を揃えて言うのが「採用が難しい」と。以前なら週4・5日出てもらえたのが、2・3日しか出られなくても採用しなければいけない。だから、制限のある人でもうまく活かせるようダイバーシティ化するような採用計画でないと(人材の確保は)難しいと思います。

 パチンコなどの遊技業界を含め、サービス業全体が慢性的な人手不足で人が集まらずお店が回せない。飲食業界でも営業時間を短くするなどいろいろな工夫を始めていますが、働く人そのものが非常に少なくなっている。これはかなり深刻な問題です。それに加えパチンコ業界ではいま、IR法案が議論される中で、パチンコのポジションを明確にするために大幅な規則改正などがあり、大きな転換点を迎えています。こうした状況の中で「何とかしなきゃいけない」と働き方改革でも苦戦しているのが現状です。

パチンコ業界でなぜマルハンは躍進できたのか

青野 マルハンさんでそうなら他のところはもっと厳しいんでしょうね。

 そうですね。我々は幸い、新卒採用においては他社より比較的いい形で雇用は確保できてはいます。しかし、これから将来のことを考えるとこのままではいけないな、という強い危機感はあります。

青野 マルハンさんが(パチンコ業界の中で)ここまで突き抜けられたのは、どこに差があったのでしょうか。

対談はサービス産業全体の労働環境をテーマに徐々に熱を帯びていった

対談はサービス産業全体の労働環境をテーマに徐々に熱を帯びていった

 もともと産業自体に力があったのですが、私が最初にやったのはパチンコを「サービス業」として捉え、接客や人材教育、店そのものなどをトータルで変えていきながら、従業員一丸となって「業界を変える!」をスローガンに、既存のパチンコ店とは一線画す付加価値サービスをつくっていったという部分だと思います。かつてのパチンコ業界では、一人のオーナーが10店舗前後を管理し、そして店舗で働くスタッフはお客様を「管理する」ことが常識で、そのパラダイムから抜けだせずにいました。しかし我々はチェーン化による全国展開を進める過程で、いろいろな仕組みをつくり、社員の教育や目指すべき方向の共有をしながらやってきました。それがここまで走れた理由でしょうか。

青野 なるほど。

 とはいえ、繰り返しなりますが、サービス業全体は慢性的に人手不足で厳しい状況です。ですから、先ほどお話しした玉箱の上げ下げによる作業などにしても従業員の負担になっているのは事実で、大変な仕事です。そうした現実をしっかりと受け止め、労働力不足への対応とは言わず、「すべての従業員が安心して長く働ける職場」を目指す意味でも、業界のリーダーとして、現実をしっかり受け止めて考える必要を感じています。(続く)

◇        ◇

【サービス業の人手不足の現状】
東京都における職業別の有効求人倍率(2017年11月)で、「サービス(接客・給仕)」は8.98倍。全職業が1.8倍なので、その差は実に5倍弱にもなる。少子高齢化で労働力人口が減少していることに加え、不規則な勤務時間や休日、賃金の安さなどが、敬遠されている理由とされる。

サイボウズ・青野慶久社長×マルハン・韓裕社長

青野 慶久(あおの よしひさ)プロフィール
1971年、愛媛県生まれ。1994年に大阪大学工学部情報システム工学科を卒業後、松下電工株式会社(現:パナソニック株式会社)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。バリバリ仕事をこなしつつ、子どもの面倒をみる「イクメン社長」として話題になる。
サイボウズ: https://cybozu.co.jp/

韓裕(はん ゆう)プロフィール
1963年京都府生まれ。京都商業野球部在籍時、第63回全国野球選手権大会では準優勝を経験。88年法政大学卒業後、株式会社地産入社。90年株式会社マルハンコーポレーション入社、取締役に就任。95年プロジェクトリーダーとして「マルハンパチンコタワー渋谷」をオープンし、成功へ導く。取締役営業統括本部長、常務取締役営業本部長を経て、2008年6月代表取締役に就任、現在に至る。
マルハン: https://www.maruhan.co.jp/

提供:瓦版

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