2018年5月までに997件の医療事故、うち69.9%で院内調査完了―日本医療安全調査機構 (2018/6/6 メディ・ウォッチ)
今年(2018年)5月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は32件。医療事故調査制度発足から、累計997件の医療事故が報告され、うち69.9%で院内調査が完了。各医療機関の調査スピードが確実に向上している―。
日本で唯一のセンターとして指定されている「日本医療安全調査機構」が6月5日、こういった状況を公表しました。ただし、医療安全調査機構では「事故発生から報告までの期間が延びている」とも考えており、今後、時期を見て詳細な分析を行うことが必要でしょう。
医療事故報告の件数、2018年5月は外科で5件、消化器科・泌尿器科で各4件
2015年10月から医療事故調査制度が始まりました。すべての医療機関で、院長など管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告することを義務付けるもので、事故の原因を調査・救命する中で「再発防止策」を構築し共有することが目的です。
センターでは積極的に再発防止策を構築しており、これまでに(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析―が公表されています。
医療事故調査制度の大きな流れを確認すると、▼医療事故発生を管理者が確認した場合、速やかにセンターに実行発生を報告する → ▼当該医療機関で事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する → ▼当該医療機関が、調査結果に基づいて事故の内容や原因について遺族に説明する(調査結果報告書などの提示までは不要) → ▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る―というものです。
我が国唯一のセンターである日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を極めて迅速に公表しています。今年(2018年)5月には、新たに32件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は997件となりました。
新たに報告された事故の内訳は、病院からが30件、診療所からが2件で、制度発足からの累計では、病院から936件(事故全体の93.9%)、診療所から61件(同6.1%)となっています。
新たな事故を診療科別に見ると、▼整形外科5件▼消化器科4件▼泌尿器科4件▼内科3件▼産婦人科3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見ると、▼外科171件(同17.2%)▼内科129件(同12.9%)▼消化器科86件(同8.6%)▼整形外科84件(同8.4%)―などとなっています。
センターへの相談件数は累計で5117件、遺族の制度への理解はなかなか進まず
前述のとおり、センターに報告しなければならない医療事故は、死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が▼予期しなかった▼医療に起因し、または起因すると疑われる―」ものに限定されます。例えば、火災などで瀕死の状態となり救急搬送され、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期される」ため報告の必要はありません。ただし、そうした患者でも通常の治療過程とは異なるプロセス(例えば、明らかな処置のミスなど)で死亡した場合には、「予期されなかった」ものとして報告しなければなりません。
この点、医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するか?」という疑問が生じることでしょう。また、初めての報告などでは「センターへの報告方法」に関する疑問も当然生じます。一方、遺族側が「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。医療機関側が隠蔽しているのではないか」といった疑念を抱くこともあります。
これらの疑問・疑念を放置することは許されず、センターでは相談対応を行っています。今年(2018年)5月には、新たに171件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計相談件数は5117件にのぼりました。
新たな相談の内訳は、▼医療機関から87件▼遺族などから76件▼その他・不明8件―となっています。
医療機関からの相談内容を見ると、「報告の手続き」がもっとも多く65件(医療機関からの相談の74.7%)。次いで「院内調査に関するもの」が16件(同じく18.4%)、「報告すべき医療事故か否かの判断」が10件(同じく11.5%)となりました。制度発足から2年半が経過し、また一昨年(2016年)6月に医療事故調査制度の運用改善(医療事故該当性の判断などを標準化するための「支援団体等連絡協議会」を設置するなど)が行われており、医療現場に制度が定着してきていると言えるでしょう。
一方、遺族などからの相談内容を見ると、依然として「医療事故に該当するか否かの判断」が圧倒的多数を占め、60件(遺族などからの相談の78.9%)となりました。一般国民の制度への理解が十分進んでおらず、「医療現場と一般国民との意識のズレ」が拡大していく点が気になります(制度への信頼が失われてしまう可能性もある)。なお、相談の中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも「報告すべき医療事故でない」ものもあり、さらなる「制度の普及・啓発」が必要な状況です。
センターへの新規調査依頼はなし、センター調査は順調に進捗
医療事故調査制度の目的は「再発防止」です。このため、事故が発生した医療機関が自ら、原因究明に向けた調査【院内調査】を行い、それを踏まえて自院の体制を点検し、再発防止策を練ることが重要と考えられています。
今年(2018年)5月に新たに院内調査が完了した事例は36件で、制度発足からの累計では697件となりました。これまでに報告された全997件の医療事故のうち69.9%で院内調査が完了。院内調査スピードはさらに向上しています。
ところで、遺族の中には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅すぎる。時間稼ぎをしているのではないか」と感じる人もいるでしょう。一方、小規模医療機関等では「自院だけで院内調査を実施することが難しい」ところもあるでしょう(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制もある)。
そこで、センターでは、「遺族や医療機関からの調査依頼を受け付ける」体制も整えています。「院内調査が時期・内容ともに適正に実施されたか」という観点での調査が中心となります。ただし今年(2018年)5月に、センターになされた調査依頼はゼロ件でした(前月に続きゼロ件)。制度発足からの累計調査依頼件数は65件(遺族から50件・76.9%、医療機関から15件・23.1%)で、▼センター調査終了が5件▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が60件―で順調に進んでいることが分かります。
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