一度去った人材に振り返ってもらう職場づくり (2018/5/2 瓦版)
多様な働き方が救う人手不足という難局 Vol.2
いかにして休眠人材を覚醒させるか…
職場に人が足りない共通の理由は、人口減少にある。この点は、ある意味“平等”なので、諦めもつくかもしれない。しかし、労働環境の厳しさが要因となり、人材に去られるとその先行きが俄然、不透明になる。業種によっては、別のジャンルに流れていくことも少なくなく、人材の枯渇感は深刻だ。
「保育園落ちた日本死ね」で問題が浮き彫りになった待機児童問題。問題の根底には、保育士不足がある。絶対数が不足しているものの、登録者数に対し、実際に勤務している保育士が半数弱という実態に、問題の根深さがある。
なぜ保育士は職場を離れるのか。主な理由は職場環境に起因するものだ。賃金が低く、休みがとりづらく、責任が重い…。志を抱いて保育士になったはずだが、職場環境がそれをも砕くほどの厳しさがある、ということだ。働き方改革を推進する政府は、保育士の待遇改善に動くなど、状況は改善に向かっているが、一度途切れたモチベーションを引き上げるのは、簡単ではない…。
看護職員の人材不足も深刻だ。すでに不足している状況の中で、団塊世代が75歳以上となる2025年には、約196~206万人が必要と推計されている。こうした状況をにらみ、2015年10月からは、厚労省が、潜在看護職員の実態把握のため、届け出制をスタート。研修や無料の職業紹介などの復職支援を行なうなど、潜在人材の掘り起こしに尽力している。
美容業界も同様の問題で、人材不足に苦心している。仕事のハードさと待遇のバランスなどが不十分なのがその要因だ。美容師は美容師免許が必要だが、保有者がそのまま他業種へ流れるケースも少なくなく、状況は厳しい…。こうした、いわば“休眠美容師”は、80万人弱ともいわれる。
人材不足の美容業界にとって、この休眠美容師は、貴重な戦力。職場に引き戻すことができれば、戦力として活用できるのが、大きな利点だ。こうした休眠人材の掘り起こしを積極的に進める業界大手のアルテサロンホールディングスは、ハード面から労働環境を改善する力の入れようで、この難題に取り組んでいる。
「Choki Peta」はその核となる同社のメンテナンス系の新業態だ。カラーリングとカットのみのシンプルなサロンだが、受付は券売機で対応、シャンプーは自動化と、スタッフの業務負荷を最小化している。低価格店舗ゆえの企業努力の一環だが、一度離れた休眠美容師への配慮という側面も少なからずある。
「立ち仕事ですから、腰を悪くして辞める人もいますし、手荒れで辞めざる得なくなる人もいる。Choki Petaは、そういう人でも気軽に戻れるサロンとして労働環境にも十分に配慮しています」と(株)スタイルデザイナーのChoki Peta事業本部営業部担当部長の上原薫氏は説明する。
労働環境改善に加え、いかにしてモチベーションもキープしてもらえるか
業務を標準化することで、勤務体系の柔軟化も実現。時短勤務にも対応し、子育てで美容業界から去ったママ人材やシニア人材でも働きやすい環境を提供している。トレンドを追求する美容師とは一線を画すことになるが、同サロンでは別のモチベーションがスタッフのやりがいを生み出している。
上原氏が補足する。「ブランクが長いと、トレンドについていけなくなりますが、Choki Petaではそういう心配は不要です。むしろ、50歳前後で現場に復帰し、店長へ昇格するなど、シニアになっても責任を持って働き続けられる環境があります。顧客ターゲットが50前後ということもあり、うちとしても願ったりなんです」。
もはや回復は見込めそうにない人手不足スパイラル。いないなら眠っている人材を発掘する――。人手不足が駆り立てる労働環境の改善は、政府の旗振りに合わせたトップダウンの“改革”よりも切実感があり、より力強く、有効に機能するのかもしれない。(続く)
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